ネットで調べる

 しばらくして目が覚めた。傍らにある時計は9時を指している。窓の外を見ると、真っ暗だったので、僕は夜であることを理解した。


 思考を整理する。そうだ、妙な虎柄の犬を連れた女の人に出会って、その女の人がゲートと思われる光の輪の中に消えて……二度寝したのだった。


 あれはいったい何だったのか。普通とは思えない。幻覚で無いとしたら、何か超常的な力の何かが関係して……。


 グゥ。腹がなった。うん、そうだ。飯を食べていない。何か食うか。


 僕は戸棚を漁ると、カップの蕎麦を見つけた。縦型の小さいやつだ。コイツはスープが袋に入っていなく、お湯を注ぐだけで出来るのでお気に入りなのだ。


 お湯を沸かす。そのついでにスマホを手に取った。調べて見ようと思ったのだ。


「確か……コーネリア……」


 検索欄にそう入力してみたが、見知らぬアニメやゲームのキャラ、そしてアーティストの情報が結果に連なった。


「単語が違うな……コー……何だっけ?」


 思い出す。彼女の口からは何と発声されたのか? そういや綺麗な声だったな。いやいや、声を思い出してる場合じゃない。単語だ。単語が問題なのだ。……確か濁音が入っていた気がするな。


「コーディ……」


 入力してみる。ゲームのキャラの情報が表示された。違う、そうじゃない。やったことあるけれど。


 ピー! お湯が沸いた。


 カップにお湯を注ぐ。あとは3分待つだけ。その間も単語を思い出そうとしたが、思い出せなかった。


 3分たった。フタを開け、ハシで中身をかき混ぜる。んー、このほぼ偽物の蕎麦と、本格鰹節のつゆのミスマッチさがたまらん。うまいうまい。


 麺をすすりながら、天井の模様を眺めていると、ふと記憶の中の彼女が蘇った。


(国の名前がコーディリアですよ)

「そうか!」


 僕はカップの汁を飲みながら、ブラウザの検索欄に単語を入力した。結果は……まず、ゲームの中のキャラ名が数件。しかし、最近の検索、ゲームに侵食され過ぎなんじゃないか?


 あとは、女性名。いや、そうじゃない。探しているのは国の名前なんだ。


 目を引いたのが、天王星の衛星……いやいや、関係ないだろう。そもそも星の名前はだいたいギリシャあたりの神様の名前がついている。女性名だと言うから、おおかた神話にそう言う人、いや神がいたのだろう。


 更に次のページの検索結果も見てみたが、どこにも国と言う表記は見当たら無かった。もちろん、自分も知らない……お手上げである。


 ズルズルと麺をすする。他に何か無かったか? そうだ、忘れていた。特徴的な犬がいたじゃないか。シマシマの、虎柄の。


 「しましま 犬」と検索してみる。……無いな。うん、無いよね。犬用グッズのしましまバージョンがいくつかヒットするぐらいで、何も無かった。


 もしやと思い、「虎柄 犬」と検索してみる。いくつかヒットした。甲斐犬、秋田県。画像を見てみると、確かに虎柄とも言えるような……2色のブチと言うか。虎毛と言うのだそうな。


 ああ、この秋田県の虎毛は確かに虎っぽい。じゃあ、あの人は秋田の……な訳無いな。日本人……には見えなかったんだよな。黒髪ではあったが、顔つきがどこか違った。それに訛りとか無かったし。それにコーディリアって言ってたじゃないか。国名が。


 まあ、もしかしたら超マイナーな国で、コーディリアと聞こえる国があるのかもしれない。そしてそこには虎毛の犬がいるのかもしれない。


 しかしだ、あの光のポータルはどう説明する? 知らない国の知らないテクノロジー? 完全否定は出来ないが、あんな魔法みたいなものがあるのだろうか?


 「ポータル 使える」と検索してみる。当然のごとくゲームがヒットした。やっぱ侵食され過ぎなんじゃないですかね?


 他はほとんどポータルサイトと言う意味合いの検索結果ばかりで、意図したものとは違っていた。


 あとは……何か手がかりは?……何も無いな。思い浮かばない。もっと良く観察しとけば良かったか。迷宮入りだ。


 しばらくボーッと考えていると、何か飲みたくなった。確か冷蔵庫に麦茶があったような。


 僕は立ち上がってカップ麺のカラを片付け、冷蔵庫の扉を開けた。しかし、麦茶は無かった。正確に言うと何も無かった。


 いや、あるにはあったんだが。光り輝く輪が。いわゆるポータルだ。


 僕は次にどうすべきか考えた。

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虎犬散歩 kumapom @kumapom

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