元彼の元カノを好きになった
にあ
第1話 善と
「先輩とお幸せにね。」
そう言って、私たちは破局した。
浮気したのは私じゃなくて、あなただったくせにね。
星ひとつない、くだらない夜空を見上げて私は夜道を歩く。
好きってなんだろう、なんて哲学を私は考えない。
考えたところでもう好きじゃないことはあからさま。
歩きながら今では元になってしまった彼氏の写真を消していく。
風が強かったあの日、「なんかめっちゃ盛れた」と送ってきた自撮り。
星が綺麗だったあの夜、「呑んでくる」と新宿に行き、夜中に送ってきた自撮り。
きっとあの時、あの人は女の子を抱いた。
好きでもない、爛れた関係でもない、行き当たりばったりで出会った女の子。
抱かれるなら、私だってその子になりたかった。
浮気してるなぁ、と気づいた頃、私は既に''都合のいい関係''に値する男を作っていた。
一緒にタバコを吸って酒を呑んで酔っ払った末に流れでキスをして、そのまま夜明けまでセックスをする。
それだけの関係。
ラインのトーク履歴も私は消さなかったし、タバコを吸ってるのも隠さなかった。
付き合ったあの日、「部屋が臭くなりそう」とタバコを吸うことを嫌悪していたあの人も今では悠々と金ピースを吸っている。
ホープライトを吸って、メビウスを吸って「金ピがいちばんだな」と言った。
懐かしいな、とホープライトを吸って「ゲロまずい」と苦笑した時のことをまだ、鮮明に覚えている。
私はずっと、アークローヤルを吸っている。
奇妙な甘さが体に染み込んでいく。
『あ、もしもし?ゆあ、いまどこ?』
アークローヤルを吸って、吐き、返事をする。
「彼氏と別れて帰宅中」
『うおまじか。バレた??』
「バレた、というかあっちの勘違いだけどね」
『ふーん。まぁいっか』
あまりの軽々しさに思わず笑みがこぼれる。
「どうしたの?」
『いや、声聞きたいなーと思って』
きっと今会いたいんだな、と思う。
呆れるほどわかりやすい男だ。
「悠はいまどこいるの」
『ん?家だけど』
「じゃあいまから行くね」
『わかった』
そう言い残し通話を切った。
人通りの多い新宿へ向かい、来た道をもどる。
文京区ともこれでバイバイだなぁと思った。
いつまでたっても綺麗にならない、新宿ではゴミの上をまだ小中学生であろうガキが一回りは歳上であろう男と酔って寝ている。
まだ16歳の私にとって、田舎から出てきた時、このゴミ街は大っ嫌いだった。
今となっては日常すぎてどうも思わないが、やっぱりあのゴミの上では寝たくない。
「ついたよー」
とラインを送ると、オートロックのガラスドアが勝手に開く。
「おじゃましまーす」
と靴を脱ごうとすると、私の履いている靴と似たデザインの厚底があった。
奥へ進むと、悠と知らない女の子が座っていた。
「こんばんわーはじめまして」
すごく可愛い顔の女の子はユカと名乗った。
「よっしゃ、今日は呑むぞ!」
「いやちょいまち、このかわいい子だれ??」
「こいつは、お前の元彼の元カノw」
こいつはバカなのか。
気晴らしにセックスでもできんのかと思って香水つけ直してすぐ落とすであろうメイクもなおしたじゃねぇかよ。
「ぜんとの元カノです!!」
ため息よりも先に苦笑して、ストゼロロング缶のプルタブをひっぱった。
元彼の元カノを好きになった にあ @nqrse_x
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