第4話 好きになった人


私の名前は冨樫ゆうという。

白雪姫と...呼ばれている。

私の内面を見てくれない人達が付けたあだ名。

私は...このあだ名は不愉快に感じている。

だが訂正するの面倒なのでそのままにしている。


そんな私だが...ピアノをやっている。

いや。

正確にはやって(いた)。


だが今となっては天才も地に落ちた。

その理由は簡単。

居眠り運転の乗用車の交通事故に巻き込まれ右の指を全て骨折した。


複雑骨折だった。

ただでさえ弾くだけでも複雑なピアノだ。

例え弾けたとしてもコンクールに行けるとか。

コンクールで優勝するとかももう無理だろうから。


そんな落ち込んでいた私に対して彼は。

作田くんは私のピアノの事は知らずだったが内面も見てくれた。

彼が...初めて私を救ってくれた。

感情も全て、だ。


だから私は内面を見てくれた彼が気になった。

その中で。

私は彼が義妹に好かれている事に初めて気が付いたので先手を打とうと思い先に私は告白した。

だけど彼からは「保留にさせてほしい」と言われた。


「今は答えられない」


という感じでだ。

私はその言葉に少しショックだったが素直に頷きながらそのまま今に至る。

ピアノが弾けない隠す私に...彼は生きる術を教えてくれた。

だから私は彼が好きだ。

負けない。


そう思いながら私は戻っていると背後から「待って」と声がした。

その声の主は...あの我が儘姫だった。

つまり義妹さんだ。

真剣な顔をしている。


「...何でしょう?」

「...私...貴方の事は見覚えがある気がする。貴方...ピアノコンクールに出ていなかった?」

「...気のせいですよ。...私はそんなコンクールには出た覚えはないです」

「...」

「仮に出ていたとしても私は天才ではない」


そう言い残し私はそのまま教室に戻る。

それから授業を受け始めた。

そして放課後になる。



私は用事があった為に教室を早めに出た。

それは...アルバイトをする為だ。

そして私はアルバイト先に向かおうとした時。

声を掛けられた。


「よ」

「...作田くん...?!」

「何だか慌てて帰っている様子だったから」

「...わ、私は普通です」

「そうか?それにしては何だか急いでいる様な」


作田くんは何かを持っている。

私は「?」を浮かべてそれを見る。

すると作田くんは「ああこれか」と笑みを浮かべる。

「俺な。絵を描いているんだ」と言いながら。


「...画材を買った帰りだった。そしたら見掛けたから」

「が、画材の購入の帰り?わ、わざわざ私を見つけて?」

「そうだ。...悪かったかな?」

「い、いや。大丈夫ですが...義妹さんは?」

「アイツは喧しいから先に帰ってもらった」


私はその言葉を受けてから「ふーん...」という感じになる。

それから私は周りを見渡す。

「どうした?」と聞いてくる作田くんに私は抱き着いた。

作田くんは「は?」と硬直する。


「...私、貴方が好きですから。だからこれぐらいならアリですよね」

「ま、待て待て!?お前!?」

「...誰も居ません。今なら」

「...?!!?!」


作田くんは真っ赤になる。

私は作田くんを抱き締めたまま心臓の音を聞く。

男の子は大きいな。

そう思いながら、だ。


「...お、おい」

「頑張れそうです」

「な、何が」

「...私、実はアルバイトをしています」

「そうな、のか?」

「そうです。...これからアルバイトです。だから頑張れそうです」

「...」


私は柔和な顔をしながら彼を見る。

彼は猛烈に真っ赤になりながら慌てる。

私はその顔を見ながら笑みを浮かべながらそのまま踵を返す。

そして「では」と言う。


すると首を振った作田くんが「待ってくれ。お前確か...天才ピアノ演奏者のあの子じゃないか」と言ってきた。

義妹さんと同じ様な事を言う。

状況が違うが同じだ。

私は作田くんに「違いますよ」と言った。


「...私はその天才な子とは違います」

「...それは本当か?」

「そうです。私は...ピアノなんか弾いた事も無いですよ」

「...」


私の事は幸いにも新聞にも載ってない。

だが作田くんはそれに行き着いた。

私は聞いてからちょっとだけビクッとしたが。

あくまで聞いてないふりをしないと。

情けないしな。


「...私は天才では無いです」

「...そうか」

「...じゃあ私、行かないと」

「...」


私は「...」となる作田くんを置いてからそのまま駆け出して行く。

指が疼く。

だけど私は彼には今は言えない。

絶対に言えないじゃないか。

だって...好きだから。

好きだから言えないのだ。


「...だけど頑張れそうですね」


そして私は駆け出してカフェに向かう。

アルバイト先のカフェに、だ。

私は...大丈夫そうだ。

そして私は笑顔で店内に出た。

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