第3話 揺るがなーい


私は夢色が好きだ。

夢色っていうのは私の義兄にあたる。

何故私は夢色を好いているか。

それには理由がある。


まあ昔の事をほじくり返すと正直、火が出そうになるが。

私は...夢色が嫌いだった。

それは何故かといえば簡単だ。

(赤の他人)だから。

家族になったとしても血が入れ替わるとかそういう事じゃない。


赤の他人だったから夢色が、夢色の父親。

つまり私の義父にあたる人が嫌いだったのだ。

私と夢色は正反対の存在。

そう捉えていた...時期があった。

だけど私は夢色を好きになってしまった。


そのきっかけ。

それは...私が好きだったピアノを...サポートしてくれたから。

弾ける様に、と心から応援してくれた。

こんだけ私が貴方を嫌っているにも関わらず。

母親を失っているにも関わらず。


いきなりの脳出血で母親を...ピアノが大好きだった母親を失ったにも関わらず。

お兄ちゃん。

夢色は私を応援してくれた。

必死に応援してくれた。

だから私は夢色をいつしか追う様になった。


それは...本当に大好きだと思ったから。

だから追う様になってしまった。

私は...昔、生きていた父親の様な。

そんなイメージを抱いたのだ。

彼以外は考えられない。


そんな彼が他の女になるのも考えられない。

私はそう思いながら鼻歌交じりに廊下を歩いて夢色の元に向かおうとした。

すると背後から「あら」と声がした。

む!!!!!


「...先程ぶりですね」

「はん。アンタ誰?」

「...その態度は失礼に値します。まあ良いですが」


冨樫ゆうだった。

私はその姿を見ながら引き攣った笑みを浮かべる。

それから私は「むむむ」と反応する。

そしてジト目で冨樫ゆうを見る。


「私に何か用事ですかねぇ?」

「...私が用事では無く貴方が作田さんの所に向かっているのでは?私も作田さんに用事です」

「むぅ!!!!!」

「怒らせてしまいましたか」

「違うし!?怒って無いし!!!!!」


冨樫ゆうは真顔のまま反応する。

「そうですか」という感じで、だ。

私は眉を顰めながら早足でその場を去る。

そして目の前に夢色が丁度居たので誘拐した。

それから屋上に鍵を掛ける。


「何をしているんだお前は...」

「夢色。...イチャイチャしよう...」

「変態親父かお前は!!!!!いきなり何を言い出すかと思ったら!!!!!」

「私、あくまで夢色が好きですし」

「それはさっきも聞いたけどな」

「...まあ一言で言うと冨樫ゆうが近付いて来ていた」


「え?」という感じになる夢色。

私は眉をピクッと動かす。

それから「夢色。私の話は喜ばない癖に...」とジト目になる。

夢色は「誤解だ!」と慌てる。


「まあ良いけど。私は渡すつもりはさらっさらないですので」

「お前...」

「良いかな。夢色」

「はい?」

「1、冨樫ゆうに近付かない」

「無理だろ」

「2、私と愛の誓いを交わす」

「何でだよ!!!!?」


私はジト目で夢色を見る。

「あのね。私はあくまで...」とそこまで言った時だった。

屋上の鍵が開いた。

え?


「やはり此処に居ましたか」


職員室にしかない屋上の鍵。

どうやって解錠したのか、と思っていると私に屋上の鍵を見せてきた。

そして「こんな姑息な真似をしないで下さい」と真顔で私に冨樫ゆうは向いてくる。

「たまたま屋上の清掃係でしたので」と言いながら、だ。


「私にも色々言う権利はありますよね」

「...」

「私は作田さん。貴方が好きです」

「...それは分かる。3度目の告白だしな。...で。...話は?」

「そこの人と話をしたくて」


「そこの人...私の事かぁ!!!!!」と怒る私。

すると夢色はそれを抑えながら私を見てから冨樫ゆうを見る。

冨樫ゆうは赤くなりながら「そこの人と勝負します」と言ってくる。

私は「アァン?」と反応したが夢色はまた抑え込む。


「...勝負ってのは」

「...そこの人と私。どっちが貴方を好いているか勝負です」

「そこの人ってのを撤回してもらえる?」

「虹。ちょっと待て」


モジモジしている学園の真白白雪姫を見る夢色。

私は口をへの字にする。

そしてジト目で成り行きを見守る。

すると冨樫ゆうに溜息を盛大に吐いた。

それから「分かった」と返事をす...えぇ...!!!!?


「待って夢色!こんな女の話を聞くの!?」

「このまま放置したら失礼だろ」

「そ、それは...」


そして私はさっきの言葉を思い出す。

それから黙った。

仕方が無い。

確かに私は...自由を。

夢色の自由を奪っているかも知れないから。


「...負けない」

「私だって負ける気は無いです。彼が好きなのは揺るがないです」


私は闘争心をむき出し...うん?

そこで私は彼女の指に何か手術痕がある事に気が付いた。

そういえばこの女...?

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