第8話 卵が先か
『ジ……ジッ……』
ガムテープで乱雑に封がされたクーラーボックスから、微かに電子音が漏れ聞こえる。
「事実としては、短期間で三件の家屋が火事で全焼し、三回とも焼け跡から無傷で発見されたため呪物ではないかと疑われた次第だ」
「なるほど、それは怪しい」
クーラーボックス越しなので気の所為なのだろうが、焦げ臭さを感じた。
「直接的な原因か、間接的な原因かは不明だが、電池を抜いていても音を発する事から呪物であることはほぼ確定だ」
「巻いてないオルゴールや電池を入れてない人形が音を出すとき、それ自体が原因では無いことが多いって聞きましたが?」
「環境によらず音を発し続けていて、周囲には何の反応も無い事から本体のみの影響と判断された」
カッターナイフでガムテープを切断し、クーラーボックスのロックを解除する。
焦げ臭さが強くなってきた気がする。
『ジジジッ……ジリッ……』
見た目は、何処のご家庭にもあるような火災報知器だが、裏の蓋が開けられていて電池が無いのが確認できる。
『ジリリ!カジデス!カジデス!』
歪んだ大音量の電子音声は、聞くだけで不安を掻き立てる。
「火の元になりそうな気配は無いな。煙感知式と書かれているし、煙を近づけてみるか」
線香に火をつけ、火災報知器に煙を当てると、それまで鳴り続けていた電子音がピタリと止んだ。
「火災を報知してくれないんだが」
「悪質な!逆火災報知器って事?!」
線香の煙を離すと、再びジリジリと電子音を漏らし始める。
「これは考え得る中では最悪の結果だ」
「どういう事ですか?」
「火災報知器が住人に火を着けさせた可能性が出てきた。それらしい報告が無い事から、無意識下に訴え掛けるタイプかも知れない。破壊処分の申請を出そう」
『ジリリ!カジデス!カジデス!』
『ジリリ!カジデス!カジデス!』
「まあ、単純にうるさいだけでも迷惑だしな。火災報知器としての本分を全うできない時点で、呪物以前にゴミでしか無い」
『ジリ……』
「黙らせちゃった。言葉強いですよ」
「すまない」
呪物処分施設に勤務してます。 きゅうひろ @itoukyuhiro
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