第23話 矛盾……
カッ!
俺を中心に暴風が突如、吹き荒れた。
闘技場の床に使われていたプレートが剥がれていく。
「な、なんだ!この風はぁぁあぁぁ!!」
台風のような強さで吹き荒れる風の中、オーガは必死にしゃがんで耐えていた。
「なんて風だ。しかし、俺の鋼鉄の肉体はこんなものではビクともせんぞ!」
観客席から凛とした声が聞こえてきた。
「観客の皆は今すぐに避難せよっ!」
声の聞こえた方を見るとそこにいたのはフブキだった。
俺の事を恐れたような目で見ていた。
「なに、この力……なんて風……」
小さな声だった。
でも不思議と俺の耳には言葉がしっかりと届いていた。
観客席から客が消えていく。
ある程度消えたところで……
「くそっ。こんな風なんたってねぇ!!」
オーガが俺に向かって走ってくる。
「その風を出している間はさすがに攻撃出来ねぇんだろ?!確かに風は大したもんだが運が悪かったな?!俺はそんなんじゃ止まらねぇっ!」
ダッ!
ダッ!
迫り来るオーガの体。
「【スラッシュ】」
ブン!
剣を横に振った。
オーガは何も話す暇もなく消えていった。
そして、俺の視界の先20メートルほどの全てが消えた。
あの時、アロンゾの相手をしたときと同じような光景が広がっている。
「俺がいつこの風が攻撃だって言ったかな」
こんな風。
【勇者の剣】を発動させたらおまけで吹き荒れるただの風なんだが……。
まぁいいか。
オーガは無事に倒せたし。
(これで俺を邪魔する奴はいない)
邪魔者は完全に消えた。
観客も消えたし。
あとはバレないように帰ろう、と思ったのだが。
「待て」
フブキの声。
観客席から闘技場まで降りてきていた。
「何者だ?今のは間違いなく本物の【勇者の剣】だった。でもあなたは勇者様ではないだろう?」
「……」
「ま、待てっ!」
俺は無視してルーナから教えてもらった秘密のルートで地上へと上がることにした。
俺は屋上に上がりながらふと気づいたり
「あっ、エリスに頼まれてた指輪の性能チェックなんだけど、忘れてた」
戦闘は敵に殴られる前に終わってしまったせいでテストするのをウッカリ忘れてしまっていた。
謝っておかないとな。
◇
地上に上がるとフードを脱いだ。
そのままの足で帰ろうとしていると。
「にゃ」
ぴょこんとルーナが横の路地から顔を見せた。
元々ここで待ち合わせていたのだが、ちゃんと言いつけを守ってくれていたらしい。
「流石だったにゃご主人〜♡ご主人があんなにつよつよでにゃーも鼻が高いにゃ」
しっぽをフリフリしながら俺の腕にしがみついてくる。
「褒めても何も出ないぞ?」
「そんなこと期待してるわけじゃないにゃ〜。にゃーはっはっは」
ルーナはそう言いながら懐をゴソゴソと漁っていた。
「猫じゃらしでも拾ったのか?」
「ぶぶーにゃ。猫じゃらしじゃなくて……これ」
ルーナが俺に見せてきたのは皮袋。
中からはジャラジャラと音が鳴っていた。
「どうしたんだ?それ」
「賭け金にゃ。混乱に乗じて拝借してきたにゃ〜」
「抜け目ないというか、なんというか。手癖は悪いがよくあの混乱で取ってきたなぁ」
「褒めるにゃよ〜。にしし」
ポーン、ポーンとルーナは皮袋でお手玉してた。
「どうするつもりなんだ?それ」
ポーン、ポーン、ポイッ。
急に俺の方に向かってパスしてきた。
「勝負に勝ったのはご主人様にゃ。もちろん、本来の持ち主に渡すにゃ」
「気が利くな」
「とうぜんのことにゃ」
腰に手を当てて胸を張っている。
「久々に酒場でも行くか?」
「にゃっ!」
最近はヴァイスをパシリにさせ過ぎてて自分の足ではぜんぜん行ってなかったんだよな、酒場。
だから久々に酒場に向かってみようと思った。
「ここからだと広場まで一旦抜けるのが早いかな」
正直広場に向かうのは気が進まないが。
俺は一旦広場に行くことにした。
広場の近くまで行ってみると案の定というか、なんというか。
「おい、見たか?」
「勇者の剣だろ?」
「まさか、アングラで見れるなんて思わなかったわぁ」
「あれ、やっぱり本物の勇者だったのかなぁ?」
なんてふうに野次馬が集まっていた。
全員勇者像の周りで色んな会話をしていた。
「すごかったなぁ勇者の剣」
「すげぇ光ってたな剣」
あの地下闘技場にいた連中は全員そんな会話をしているようだった。
「すごいにゃね。勇者の話題一色にゃ」
「まぁ、魔王を倒した一撃だしね、あれ」
俺が功績を譲る時には魔王を倒した状況なども全て王様に話した。
王様は俺の名前を自分の息子に変えて、それを魔王退治の物語として国中に広く教えこんだのだ。
だから【勇者の剣】のことは国民全員が知っているし、歴史的瞬間に立ち会ったようなものなのだろう。
興奮が冷める前にこの気持ちを共有したいんだと思う。
俺たちは人混みの間を抜けて酒場へと向かっていった。
「酒場はそこそこ空いてるっぽいな」
「腹減ったにゃ」
酒場の中に入ると俺は適当な席に座った。
すぐに店員がやってくる。
「ご注文をどうぞ」
「にゃーはこの猫じゃらしのサンドイッチにゃ」
初めて聞く料理名に俺はメニュー表を2度見した。
(こんなのあんのね)
この異世界に来てもう15年くらいだと思うが俺の知らないこともまだまだあって驚きが隠せないものだ。
・
・
・
そのあと俺は持ち帰りで弁当を買ってやることにした。
「誰用にゃ?」
「ヴァイス用だよ。たまには俺が買っていってやろうかと思ってな」
前まではあいつの存在自体がストレス源だったのだが、気持ちを入れ替えたのかこの一週間はよく働いてくれている。
「たまには飴玉でもくれてやろうと思ってな。アメとムチって言葉知ってるか?物事はバランスが大事って話だな」
「にゃるほど。ご主人様は頭いいにゃね。人の上に立つベき人間の見本だにゃ」
詰所の扉を開けた。
中にはとうぜん誰もいない。
当騎士団は超ホワイトなので残業などは原則ない。
ガチャっ。
俺は団長室に繋がる扉を開けた。
「スーッ」
俺の使ってる枕を使ってるヴァイスの姿が見えた。
しかもうつ伏せだ。
うつ伏せで俺の枕に顔を埋めてやがる。
「ご主人様、なんかいますにゃ」
「見なかったことにするか」
俺が気を使って部屋を出ようとした時。
「ん〜……?」
ヴァイスが起きてきた。
そして、俺と目があった。
お互い一瞬の沈黙。
それから、カーーーーーッと顔を赤くして叫ぶ。
「も、申し訳ありません。団長」
すぐにベッドを降りてぺこりと頭を下げた。
逃げるように部屋を出ていこうとしていた。
その手を後ろから取った。
「っ?!」
すっごいビックリしたような顔で振り返ってきた。
「飯を買ってきてやったから良かったら持っていけ」
「ありがとうございますっ」
弁当を受け取ると部屋を出ていった。
俺はソファに座った。
「ご主人様、シーツとか変えましょうかにゃ?」
「明日ヴァイスにやらせるよ。今日はここで寝る」
そのときルーナは鼻をヒクヒクさせてた。
俺の体臭がきつくてヒクヒクやってる可能性を考えたら、ヒクヒクの理由を問い出す気にはなれなかった。
「メスのにおいにゃ」
「おっさんが王都の仕事なんてできねーよ」と馬鹿にされた底辺おっさんの俺、無事に王都で働くことになって馬鹿にしてきたやつの上官になったので思う存分こき使おうと思います にこん @nicon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。「おっさんが王都の仕事なんてできねーよ」と馬鹿にされた底辺おっさんの俺、無事に王都で働くことになって馬鹿にしてきたやつの上官になったので思う存分こき使おうと思いますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます