【エピローグ】


 *


 王国歴646年5月2日。魔王を討伐した勇者一行を祝して、記念碑が建てられることになった。奇しくも、トライが死に戻りを繰り返してから、ちょうど1年後のことである。刻まれた名は、


 勇者 レオン――

 魔法使い マミ――

 戦士 ナイツ――

 僧侶 キュア――

 そして、盗賊 トライ。


 彼らの冒険譚は、国民の中でも引き継がれているが、中でも人気となっているのは、盗賊トライの成り上がりの物語である。そもそもが、このメンバーに連ねることすら、厳しい不遇職。さらに、他のメンバーと比較すると、物足りなさを拭えない低いレベル。にもかかわらず、勇者一行みなが口を開いて、彼の実力を認めるのだ。


 なかでも、祝勝会での勇者レオンのスピーチは、彼の実力を端的に物語っていた。


『魔王を討伐するうえで、このメンバーの誰一人として欠ける訳にはいかなかった。マミの連続魔法による高火力、ナイツの敵の攻撃を受け止める防御力、キュアの蘇生すら可能とする回復力。だが、そのなかにおいて、一際ひときわ輝いていたのはトライだ。一度通ったルートを地図なしでマッピングする記憶力、あらゆる罠や攻撃を回避して対処する危機回避力。そして、何より自分の理想を叶えるために努力を厭わない、不屈の精神力。間違いなく、彼なくして、魔王の討伐は不可能だっただろう』


 余談ではあるが、本スピーチは脈々と後世に伝承されていくことになる。


 *


 記念碑が建てられてから、さらに、5年の月日が経った。


 アニス村の湖畔の傍に建てた家。家族三人で過ごすには少し手狭になってきた。魔王討伐後、5年ぶりに、レオン、マミ、ナイツの皆で集まることを約束した日、その当日だ。アニス村に訪れることになるため、お出迎えをしなくてはならない。キュアは台所で忙しなく動いている。ご馳走の準備で大忙しだ。トマトを抑える左手の薬指に嵌めた指輪が、窓から入り込む日光に照らされて輝いている。


「パパぁ」


「ん? どうした?」


 4才になった息子が僕に尋ねてくる。何故か得意げな表情で、目を輝かせながら。


「パパはゆうしゃさまのパーティーだったって、ともだちからきいたんだけど、ほんとう?」


 決して隠していたわけじゃないが、トライという名が一人歩きしてしまっていて、話す機会を逸していた。


「うん、そうだよ。パパだけじゃなくて、ママも勇者のパーティーだったんだよ」


 僕はしゃがんで、息子と同じ身長になるまでかがんだ。死に戻りを繰り返してから7年、レオン達と別れてから5年か。あの赤ん坊だった息子が、今では元気いっぱい野を駆けまわっている。頬についた泥をタオルで拭ってあげると、息子は決意を決めたように、握りこぶしを掲げた。


「きめた! ぼくも、パパとママみたいに、りっぱなえいゆうになる!!」


 お友達に「パパとママが勇者パーティーの一員なんて凄い」とか言われて、誇らしかったのかもしれない。息子の鼻が高くなっている姿が容易に想像できる。僕は息子の頭をポンと優しく触れる。


「立派な英雄か……。英雄になる必要なんてないよ」


「えっ!? どうして?」


 心底不思議そうに息子は首を傾げる。


「立派じゃなくてもいいんだ。自分がやりたいと思うことや、なりたいと思ったことに、目を背けずに努力することが大事なんだよ。そして、どうしても自分が譲れないことを見つけたときには、全力で、その信念を押し通すんだ」


 あのときの僕みたいに。


「諦めなければ、きっと道は切り開けるから」



----------------------------あとがき---------------------------------------------------------------

数ある作品の中、本作をお手に取っていただきありがとうございます。


読者の皆さまには夢がありますでしょうか?


私は、自作が商業作品として発売されることを夢見ております。もちろん、未達成の夢です。なかなか夢を語ることが出来ない世の中ですし、「甘い夢を見ている、諦めろ」と現実社会は圧力をかけてきます。そんな、諦めろという圧力に少しでも反抗したくて、本作品を書きあげました。


読者の皆さまに親しみやすいテンプレ展開を踏襲しつつ、伝えたいメッセージを盛り込み、かつ、中編程度でどうにかして完結作品を書き上げたかったんです。正直、追放物のテンプレだと、勇者が悪役になり爽快感が得られる作品が多いと思うのですが、自分なりに咀嚼をした結果、勇者はいい人となり、また違った作品となってしまいました笑


ですが、本作は、私にとって、初めての完結作品で、とても思い入れがある作品になりました。読者の皆さまのおかげです。ありがとうございます!


最後にお願いになります。低評価でもかまいませんので、☆で評価を頂けますと私の夢に一歩近づきます。本作から少しでも感じた部分があったのであれば、高評価をいただけると嬉しく思います。


それでは、また、どこかでお会いできるのを楽しみにしております!


次?

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17327回勇者から追放されても、僕は諦めない 羽田 共 @haneda_tom

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