第12話【後編】
教皇ホノリウス5世の直轄地宣言が終わり、同行してきた人々は次の浄化の祭儀が始まるのを、セレニテ女子修道院の門前の草地で待っていました。
祭儀に先立って、ホノリウス5世が直轄地になった敷地を見て回る必要が出来たと司祭から通達がありましたが、皆は別に不満も言わず青空の下でのんびりと時間をつぶしていました。領主や貴族達は従者に運ばせた椅子に座って枢機卿達と談笑し、村の人々は草地に座って司祭の話を聞いたりしていました。
イソルデ修道女は、皆と少し離れた場所に立って、直轄地宣言と同時に閉院になったと聞かされたセレニテ女子修道院の建物を見つめていました。修道女服の頭巾を外したので、頭が軽く感じられます。
もう二度とあそこに帰る事は無いのだ、とぼんやりと考えているとこちらに向かって歩いてくるホノリウス5世に気が付きました。背の高いひょろりとした感じの司教が後ろに従っています。
セレニテ女子修道院の5人の修道女は、他の修道女達と共に荷馬車で近くの女子修道院へ移動していきました。
ルシアナ修道院長は浄化の祭儀を見届ける為と、祭儀の終了後に領主の館での尋問が予定されているイソルデ修道女の監視役として、この場に残っていました。
けれどやはり心配していた通り、人前での騒ぎになってしまった……と内心腹を立てていたところにホノリウス5世がやって来たので、思わず険しい目つきになってしまいました。しかしホノリウス5世は別に気にした風もありません。
「教皇。修道女達は修道士の亡霊に囲まれたと言って泣いていましたが、一体何をしたのですか?」
「後で説明します。これからイソルデ修道女に話があるので立ち会って頂きたい。しかし口は出さないように願います」
ホノリウス5世とルシアナ修道院長が連れ立って自分に近づいて来るのを見ながら、イソルデ修道女は、手を握り締めました。いよいよ教皇から追放を言い渡されるのでしょう。
ホノリウス5世は、イソルデ修道女の前に立つなり渋い顔になりました。
「修道女が頭巾を外してどうする。贖罪もせずに勝手に還俗でもする気か?」
ルシアナ修道院長は、一瞬ホノリウス5世の尻を蹴飛ばしてやろうかと思いました。例え教皇でも修道女に馴れ馴れしい口をきくものではありません。
けれどイソルデ修道女は、負けずにホノリウス5世以上のしかめっ面を見せました。
「その方が手っ取り早いかもですね。さっさと追放でも何でもしてください」
「焦るな。そなたに申し渡しておくことがある。<教皇領の管理者>の件だ」
イソルデ修道女はそっぽを向きました。
「もう私には関係ない事でしょう。修道院長でも何でも無くなったのですから」
「まあ聞け。そなた、セレニテ女子修道院に保管されているトビアス2世の教皇勅書は見た事はあるのか?」
「当然です。院長を引き継いだ時に、文書箱に納められているのをきちんと確認しました」
「内容は読んだのか?」
「……厳めしい文章で難しかったですが、一応は読みましたよ」
「ほう大したものだ。だがな、実はその教皇勅書は偽物だ」
イソルデ修道女は大きく目と口を開け、ルシアナ修道院長は思わず声を出しました。
「偽物!? 教皇勅書の偽物など聞いた事がありません!」
ホノリウス5世は驚いているイソルデ修道女の表情を眺めて、妙に楽しそうな表情を浮かべました。
「驚いただろう。実はコマースウィック村の教会で教皇勅書の写しを見た時に、偽物だとわかった」
「神父が作った写しですか……証拠はあるのですか?」
「もちろんだ。教皇勅書に記載された教皇暦の発行年月日だ」
「発行年月日?」
「あの発行年月日の時、すでにトビアス2世は死んでいる。昔話だが、トビアス2世は幽閉された挙句に暗殺された。しかし色々事情があり、『白の大宮殿』の上層部が集団で政務を執り行い、教皇の死は5年間も隠された」
ホノリウス5世は肩をすくめました。
「当時の上層部も無茶な事をやったもんだ。だが流石にその期間、教皇勅書は出ていない。ようやく死去が公表され教皇代理が就任してから、葬儀の時に騒ぎがあってトビアス2世が死んだのは実際は5年も前だと判明した。私はずっと昔にこの話を聞いたが印象的だったので、隠蔽されていた期間は覚えていた。あの老神父は写しを作成する技術は確かだ。ならば、セレニテ女子修道院に保管されているという教皇勅書は偽物だとわかった。そこから先は少々大変だったが」
イソルデ修道女は思わず詰め寄りました。
「それは、記載された年月日だけでは、偽物という証拠にならないでしょう? 単なる誤記か、教皇がまだ元気な時に出された教皇勅書を、初代院長が保管していて後から誰か書き込んだのかもしれないじゃないですか」
ホノリウス5世はにやりとしました。
「やはりそなたは頭の回転が早いな。確かにそれらも考えれられる。だが実はもう一つ偽物だという証拠がある」
ホノリウス5世は側に控えていたグレゴリー司教から書類を受け取り、イソルデ修道女の目の前に広げて見せました。
「これは『白の大宮殿』に保管されていた、トビアス2世が出した本物の教皇勅書だ。内容はどうでもいい。署名の箇所を良く見て見ろ」
眉をひそめながら覗き込んだイソルデ修道女は、はっとしました。
「北の教皇領? 何ですかこれは……」
ホノリウス5世はうなずきました。
「実は私も初めて見て驚いた。教皇は、即位する時に勅書などの公式文書や政務の書類への署名の書き方を定める。様式は自由に決めて良いが普通は教皇名だけだ。面倒だからな。だがトビアス2世は自分が【北の教皇領】出身なのをひどく誇りにしていたようだ。だからこのように署名した。『北の教皇領より来た者トビアス2世』とな」
「……確かに、あの教皇勅書の署名はトビアス2世とだけ……」
「大金を使って偽の教皇勅書を準備した初代院長も、さすがに本物を見た事は無かったようだ。今回の件で筆跡などを確認しようとトビアス2世の教皇勅書を探したが、彼は勅書をあまり出さず、本通も写しも全くと言っていいほど残っていなかった。だがここにいるグレゴリー司教が苦労して探し出し、幸いこれが確実な証明になった」
その教皇勅書は、当時の『白の大宮殿』と他国との様々な取り決めに関する古い書類の間に紛れ込んでいました。
教皇に就任して間もない時期に、某国の国王と揉めて怒ったトビアス2世が彼に罰を与えるという教皇勅書を作成しました。しかし上層部の反対に遭い、公表されずそのまま忘れられ、処分されずに残っていた物をグレゴリー司教が見つけたのでした。
「つまりセレニテ女子修道院の教皇勅書は偽物であり、あの土地が教皇領である事も、そなたが<教皇領の管理者>も完全に否定された訳だ」
ホノリウス5世の言葉を聞いて、イソルデ修道女は少し青ざめて固まってしまいました。
「……つまり……私は……セレニテ女子修道院の者達は、ずっと騙されていたのですか……」
「納得したか。<教皇領の管理者>という名称も徐々に使われなくなっている。土地も直轄地に変更されたし、偽称だったにしろ、そなたが最後の<教皇領の管理者>になるだろう」
イソルデ修道女はホノリウス5世を力なく見上げました。
「この小さな土地と貧しい女子修道院のために教皇自らが大変な手間をかけたものですね。『白の大宮殿』から見ればどうでもいい場所と存在でしょうに」
「……教皇の後始末は教皇である私以外に出来ぬ。さてそなたも納得したようだし、これで私の仕返しは終わりだ」
「私への仕返し? 子供のような事を言うのですね」
横に立って黙って聞いていたルシアナ修道院長も、呆れたような表情でホノリウス5世の方を見ました。
「ふん、子供で結構だ。ところで<教皇領の管理者>としての援助の願いは過去にセレニテ女子修道院から『白の大宮殿』に全くされていない。事情はあったにしろ、なぜそなたの代になって急にあそこまで『教皇資産』からの援助に固執したのだ?」
もう諦めたのか、イソルデ修道女は素直に告白を始めました。
「昔は修道女も50人近くいて繁栄していましたから、援助など不要でした。<教皇領の管理者>も『白の大宮殿』と繋がる名誉ある称号ぐらいの感覚だったようです。教皇領に修道院などが建てられているのは別に珍しくありませんし、塀の向こうの大聖堂が廃墟のままなのも誰も気にしていませんでした……けれどある年から、なぜか急速に貧しくなって、何もかも上手くいかなくなったのです。修道女が続けて何人も亡くなったり、移籍されて人数もどんどん減り……」
聞きながらルシアナ修道院長は、なぜその時点で相談してくれなかったのかと、残念に思いました。貧しい女子修道院への援助の手段は幾つかあるのです。けれどセレニテ女子修道院の運営がそこまで苦しかったという事を、組織は全く把握できていませんでした。
「それで仕舞いこまれていた教皇勅書を持ち出し、<教皇領の管理者>として『白の大宮殿』に援助を願い出ようと、先々代の院長が計画を立てたのです。でも院内で火事があって死者が出たり、ご本人が大病を患ったりされて結局叶いませんでした。そこで、その計画を先代院長が引き継ぎました。けれど病で急死されたので私が引き継いだのです。私が一番若いのに修道院長を引き継いだのは、この計画のせいもありました。『教皇資産』から援助を受けるのは我々の正当な権利なのだと、ずっと言い聞かされて育ちましたから……2人で偵察のような感じでアラペトラ国を訪問した事もあります」
「そういえば私の顔を知っていたな。なるほど、先々代の院長が教皇勅書の写しを神父に作らせ、教会にも保存させたのは火事に遭ったせいか」
「教皇、教えてください。初代院長は何故そんな事までして、あの土地に女子修道院を作ったのですか?」
ホノリウス5世は少しだけ考えて答えました。
「昔ルーメン大聖堂が襲撃と略奪で破壊された時にセラフィーナ……初代院長の親しい人々が皆殺しにされた。だから彼女は、どんな手段を使っても、あの土地を修道女の集う聖なる場所にしておきたかったようだ。トビアス2世とは個人的に知り合いで『教皇資産』の事も知っていたので、教皇勅書の偽造を思いついたのだろう」
今はイソルデ修道女に話せるのはここまでだな、とホノリウス5世は考えました。
イソルデ修道女は、うなずくと急に笑い出しました。
「そうだったのですね。でも青空の下でこうやって話してしまうと何だか気が晴れました。もう過去の決まり事で悩まなくて良くなったんですから」
ホノリウス5世は、グレゴリー司教に手伝わせて教皇冠を脱ぎました。
「やれやれ。決まりとはいえ冠は重くて嫌になる。頭も痒くなるしな」
荒っぽく頭を掻くホノリウス5世に、ルシアナ修道院長が小声でたしなめました。
「教皇、皆の前でそのような仕草は……」
しかしホノリウス5世は知らん顔をしました。
「さて、偽の教皇勅書の件は終わりだ。私から別件で尋ねたいことがある」
「改めて尋問ですか?」
「そんな大層な事ではない。初代院長のセラフィーナ修道女は、どこに葬られているのかを知りたいのだが。ここの女子修道院墓地か?」
意外な質問にイソルデ修道女は目を瞬きさせました。
「いえ、あの方はあそこに葬られてはいません……というか初代院長は、ある日突然、何も言わずに女子修道院の門から出て行き二度と戻ってこなかったのです」
今度はホノリウス5世が驚きで目を見開きました。
「何だと? 女子修道院を出て行った?」
「はい。皆はしばらく帰還を待ちましたが、何の沙汰も無くついに諦めたとか。だからその後どうなったのかは不明です」
「いつごろ出て行ったかはわかるか?」
イソルデ修道女は首をかしげました。
「創建後、さほど年月は経っていなかったと思います。探せば記録が残っているとは思いますが」
「……そうか」
しばらく何事か考えていたホノリウス5世は、やがて空を見上げました。
「わかった。今はここまで判明すれば十分だ。これでそなたとの話は終わりだ。私はこれから浄化の祭儀に向かう」
イソルデ修道女は驚いたような顔をしました。
「終わり? 私の追放の件はどうなるのですか?」
「気が変わったので無しだ。そなたの以後の扱いは全て女子修道院の組織に任せてある。ただ野盗連中を匿っていた件の領主の尋問には全てを告白するように……ああ私との関わり合いだけはルシアナ修道院長の指示に従え」
ルシアナ修道院長に横目で警告され、ホノリウス5世は急いで付け加えました。
イソルデ修道女は、呆然としていましたが、やがて苦笑しました。
「教皇、やっぱり気になるので教えてください。どうやって牢屋から抜け出したのか、礼拝堂中に亡霊を出現させたのか」
ホノリウス5世は澄まし顔で答えました。
「どうしてもというなら、教えてやる。天使が手助けをしてくれた」
イソルデ修道女は明るい笑顔になり、少し荒っぽい手つきで頭巾をかぶりました。
「なるほど、悪だくみが大好きな教皇らしいお答えですね」
ホノリウス5世も少し笑うと、それ以上は何も言わずその場を立ち去りました。
ルシアナ修道院長は後姿を見送りながら、教皇も少しばかり性格が丸くなったなと考えていました。
従者のマリヌスは、大聖堂の廃墟の入り口に座り込んでホノリウス5世がやって来るのを待っていました。
『白の大聖堂』から大天幕に移動してきてから、ホノリウス5世は深夜に墓地や敷地に入るとしばらく出てこない事が何回かありました。既に聖域でない事ははっきりしているとの事でしたが、森から見張りながらでも、青い光が見えたり何やら声が聞こえたり、色々と不可思議な事を目撃して危惧しました。けれど全てが終わってから話す、と言われては何も言えません。
そして今日これから、皆は教皇が敷地内を歩いて見て回るだけだと思っていますが、ホノリウス5世は一人で、廃墟の大聖堂内の地下室に下りて行くのです。この計画を知っているのはマリヌスだけなので、嫌でも緊張してきます。
風が全く無いせいか妙に暑苦しいような感じがしますし、空の色も少し妙だな? と考えていた時、いきなり声をかけられました。
「おお、そなたが有能な従者であるか。想像よりも若いのであるな」
自分のすぐ横に浮いている生首を見て、マリヌスは驚きのあまり気が遠くなりました。事前にホノリウス5世から話を聞いていなければ、本当に気絶したかもしれません。
「ああ、もう、驚かさないでくださいよ……」
「はっは、すまぬな。そなた、名はマリヌスであるか?」
そうです、と仕方なく返事をしたマリヌスは、空中に浮かぶ生首をじっと眺めました。良く見れば不気味という感じはしませんし、何より誘拐されたホノリウス5世を助けた存在です。
「教皇より少々話は聞いているぞ。素手でも武装した者を倒せるぐらいの強者だそうであるな。教皇の暴力的暗殺を防いで、気に入られて従者になったとか」
「いやあれは……教皇をお守りしたのは確かですが、強者とか大袈裟ですよ。連中が間抜けだっただけです」
「謙遜せずとも良いぞ。私は学者だが、教師でもあったのでな。久しぶりの若者との会話は愉快である。どこの出身なのであるか?」
ホノリウス5世は周囲を見渡しながら、大聖堂に急ぎました。いつもは真夜中に歩き回っていましたから、日中に見る墓地や廃墟は雰囲気が随分と違います。
大聖堂の入り口に、打ち合わせ通りにマリヌスとヴォルフ博士が見えました。
何やら話し込んでいるようです。無口なマリヌスにしては珍しいな、と思っていると両名ともホノリウス5世に気づき、マリヌスが急いで立ち上がりました。
「教皇、お待ちしていました」
「少し手間取った。修道院の塀からこちらに抜ける道がわかりづらくてな。すぐに支度をする」
ホノリウス5世は、マリヌスの手助けで素早く純白の正装から動きやすい僧衣に着替えつつ、得意げに言いました。
「イソルデ修道女に、教皇勅書が偽物なのを納得させてやった。ざまあみろだ。まあ仕返しはこれで終わりだ。色々分かった事もあるしな」
「それは、良かったです」
これでようやく子供の仕返しが終わったか、とマリヌスは内心やれやれと思いました。
着替えが終わったホノリウス5世は、ヴォルフ博士に礼を言いました。
「博士、感謝するぞ。博士の助けと古き修道士達のおかげで上手く事が運べた」
「なに、彼らも教皇の役に立てて喜んでいたし、面白がっていた。修道女達が礼拝堂に集まっていたので助かったが、怯えさせてしまったのは申し訳なかったことであるな」
「修道女達には後で私が謝罪をして埋め合わせをしておく。ルシアナ修道院長にも思い切り睨まれたしな。ところで古き修道士達は安全な元の場所に戻ったか? 結界の破壊時には注意してもらわぬと」
「大丈夫だ。安心して良いぞ」
準備の出来たホノリウス5世は、マリヌスから短剣と弓矢が入った袋を受け取りました。
「不要だとは思うが、念のためだ。弓は昔は得意だったが今はどうだかな……ではマリヌス、後はお前の判断に任せる。さほど時間はかからぬうちに戻る予定だ」
「わかりました、お任せください。しかし教皇、本当にお一人で大丈夫なのですか?」
どうしても不安そうなマリヌスの顔を見て、ホノリウス5世は苦笑しました。
「そんなに心配するな。私はここで倒れるつもりは無い」
「はい……」
マリヌスは緊張しつつうなずきました。
「では行くぞ、博士」
ヴォルフ博士は、ホノリウス5世が地下室に向かった後に階段の扉を閉める役割を頼まれていました。
荷物を背負って、ホノリウス5世はヴォルフ博士と共に廃墟の大聖堂の中に足を踏み入れました。
陽光が差し込んではいますが、堂内は薄暗く陰気です。
「夜以外は、青い鬼火は出現しないのだな」
ホノリウス5世は独り言を呟いてから、ヴォルフ博士に言いました。
「博士、セラフィーナの最後がわかった。ある日、突然女子修道院を出て行き戻らず、それきり行方不明だ」
ヴォルフ博士は驚きました。
「行方不明? セラフィーナが? では汝に憑りついた亡霊はやはり……」
「いや。どうもあの亡霊は少し違うような気がする。正体は……恐らくこれから分かるだろう」
2人はそれきり黙ると、物音のしない大聖堂を通り抜け隠し部屋に向かいました。
隠し部屋の近くの廊下にまで、黄色く霞んだ霧のような物が周囲に薄く漂っています。
「いよいよここまで妙な霧が広がってきたか。博士、隠し部屋に入って大丈夫か?」
「私の事は心配しなくても良いのである。汝こそ十分に気をつけろ」
隠し部屋に入ると、以前よりも黄色い霧は濃くなっています。
ホノリウス5世は地下室への階段に続く扉の前に立つと、ヴォルフ博士に別れを告げました。会話が出来るのは恐らくこれが最後でしょう。
「では、ヴォルフ博士。妙な縁だったが色々と世話になった。マリヌスへの伝言を頼んだぞ」
「……こちらこそ世話になった」
ヴォルフ博士はじっとホノリウス5世を見つめました。
「初対面の時に失礼な事を言って申し訳なかった。汝は善き教皇だ、ホノリウス5世。最後に会えた事を神に感謝する」
ホノリウス5世は真面目な顔になり、祝福の短い祈りをヴォルフ博士に捧げると壁にある扉を開けました。
不思議な明るさに満ちた階段に足を踏み出し、見届けたヴォルフ博士がゆっくりと扉を閉めました。
地下室に降りる為の長い長い階段を、ホノリウス5世は一人で下り始めました。
教皇と生首博士 高橋志歩 @sasacat11
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