第338話 元四天王ゲルガ

 月明かりが照らすグルグ高地の草原に多くのモンスターたちが集まっていた。


 ゴブリン、オーク、オーガ、マンティスにダークエルフ。

 その数は数万を超えているだろう。


 長身のダークエルフがモンスターたちの間をすり抜け、巨岩の上に立っている少年に近づいた。


 少年は背丈が百五十センチで華奢な体格をしていた。髪は銀色で瞳は緑色。上着とズボンは白く、金の刺繍がしてあった。


「ゲルガ様」


 ダークエルフは少年の名前を口にした。


「部隊の編成が終わりました。すぐに動かすことができます」

「予定より早いね。さすがキュラスだ」


 ゲルガは巨岩から飛び降り、ダークエルフ――キュラスの腕を軽く叩く。


「で、精鋭部隊のほうは?」

「数は千二百。ゲルガ様の指示通り、別の場所に待機させています」

「いいね。じゃあ、そっちの指揮はキュラスにまかせるから」

「それは構いませんが、大丈夫なのでしょうか?」

「ん? 大丈夫って?」

「ガラドス軍の戦力は大きく落ちていますが、油断はできません。予備の戦力も全て使ったほうが間違いがないのでは?」

「それじゃあ、ゼルズ……ゼルズ様へのアピールが弱くなるからね」


 ゲルガは肩をすくめた。


「僕たちは新参だし、ゼルズ様とその幹部たちに実力を見せておかないと」

「ですが、ガラドスは元四天王です。楽に勝てる相手ではないと思いますが」

「いや。ガラドスを殺すのは簡単だよ」

「簡単……ですか?」


 キュラスが驚いた顔でゲルガを見つめた。


「うん。一対一で戦うのなら、ちょっと手こずるかもしれないけど、僕たちは戦争をやってるからね。先頭で突っ込んでくるガラドスなんて、動く的みたいなものだろ」

「たしかにガラドスなら、先陣を切って戦うでしょうな。そこを狙うわけですか」

「そうそう。ガラドスが死ねば、奴らの軍は崩壊する。だから、速攻でガラドスを殺すよ」


 ゲルガは笑みの形をした唇を舐める。


「まあ、状況によっては精鋭部隊も使うから、準備はしておいて」

「わかりました」


 キュラスは深く頭を下げた。


 ◇ ◇ ◇


 彼方は部下になったダークエルフの女たちと森の中に潜んでいた。


「彼方様」


 副隊長のリザが彼方に駆け寄った。


「偵察に出た部隊から連絡が入りました。ゲルガの軍が動き出したそうです」

「数は?」

「約四万です」

「四万か……」


 彼方は親指の爪を唇に寄せる。


「その中にゲルガはいた?」

「はい。ゲルガはダークエルフの部隊といっしょにいます」

「……そうか。なら、攻めてみるか」

「攻める? 私たち百人で四万の軍隊と戦うと言うのですか?」

「いや。君たちは戦う必要はないよ。裏方の仕事をやってくれればいい」

「まさか、独りで戦うつもりですか?」

「うん。僕は召喚魔法みたいなものが使えるから」

「それでも無理です」


 リザは首を左右に動かした。


「彼方様がドラゴンを召喚できるのは知ってますが、ドラゴン一体程度では四万の軍には勝てません」

「別に全滅させようなんて思ってないよ。ゲルガだけを倒せばいいんだし」

「それが無理だと言ってます。ゲルガの直属部隊は強者揃いです。高位魔法を使える者も多くいますし、ドラゴンと互角に戦える幹部もいるはずです」

「だろうね。でも、ここでゲルガを倒せれば、これからの戦いが楽になるから」

「それは……そうでしょうが」

「まあ、試してみるよ。ダメだったら、逃げればいいだけだし」


 彼方は周囲にいるダークエルフたちを見回す。


「とりあえず、連絡係としてミリエルについてきてもらおうかな」

「ミリエル……ですか」

「うん。ミリエルはドラゴン使いだし、度胸があるみたいだからね」


「わかった」


 リザの隣にいたミリエルが真剣な顔でうなずいた。


「私の命はお前に負けた時に失ったと思っている。好きに使うといい」

「じゃあ、行こうか」


 彼方とミリエルは薄暗い森の中を走り出した。


 ◇ ◇ ◇


 一時間後、彼方とミリエルは丘の上からゲルガの軍を見下ろしていた。

 ゲルガの軍は南に向かって、ゆっくりと進んでいる。


 四万のモンスターを見て、ミリエルの体がぶるりと震えた。


「お、おい。本当にお前独りで攻めるつもりなのか?」

「うん。この場所なら、奇襲もしやすそうだし」

「だが、あのドラゴンでも、四万の軍隊と戦うのは無理だと思うが」

「いや。クリスタルドラゴンを召喚するつもりはないよ」

「んっ? お前、あのドラゴンより強いモンスターを召喚できるのか?」

「まあね」


 彼方は月明かりに照らされたゲルガの軍をじっと見つめる。


 ――まずは強いクリーチャーを召喚して、軍を混乱させる。そうすれば、ゲルガを狙うチャンスが来るはずだ。


 彼方の周囲に三百枚のカードが浮かび上がった。


 ◇ ◇ ◇ あとがき ◇ ◇ ◇


 なかなか更新できず、申し訳ありません。

 専業作家をやっておりますので、新作を書いていかなければならなくて。

 今回も、カクヨム10の新作の宣伝がてらの更新になります。

 

 新作は、異世界転移ファンタジー『十秒勇者』です。


 内容は、コミカルバトルファンタジーです。異世界カード無双と違って、コミカルな笑いのある展開になります。


 あらすじ:十七歳の高校生、月見秋斗は異次元公務員のミスで、間違って異世界に転移してしまう。そこで手に入れたスキルは、誰も持っていない【無敵モード】だった。

 【無敵モード】は、【超神速】【超剛力】【超魔力】【物理攻撃無効】【魔法攻撃無効】【状態異常無効】【完全回復】の七つのスキルが使えるようになる複合スキルだ。

 まさに最強で無敵のスキルだが、その使用時間は十秒しかなかった。

 秋斗は【無敵モード】の欠点を隠しながら、過酷な異世界を生き抜いていく。


 バトル要素多め、配信要素あり、ヒロインはハイエルフ系、Vチューバー系、他。


 気軽に楽しく読める異世界ファンタジー小説です。

 興味があるようでしたら、ぜひ、カクヨムで読んでみてください。


 面白かったら、評価もお願いいたします。

 異世界カード無双とは違う笑いメインの物語ですが、なかなか面白い作品になったと思っています。よろしくお願いします。

(少し先の話ですが、異世界カード無双で登場したカードのキャラも出てきますよ)


https://kakuyomu.jp/works/16818093089341064454




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異世界カード無双 魔神殺しのFランク冒険者【書籍化】【コミカライズ】 桑野和明 @momodango

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