第337話 ダークエルフ

 巨大な月が照らす夜の草原で、彼方は目の前に並んでいるダークエルフの女たちを見回した。

 百数十人のダークエルフの女たちは強張った顔で彼方を見つめている。


「氷室彼方」


 隣にいたキリーネが彼方に声をかけた。


「ここにいるダークエルフたちがお前の部下になる。全員、ほどほどの実力はあるぞ」

「それは有り難いけど、全員、女性なの?」

「ああ。もともと、女だけの部隊だったからな」


 キリーネはダークエルフたちを見回す。


「気に入った女がいたら、好きに抱くといい」

「なっ、何言ってるんだよ!」


 彼方の頬が赤くなった。


「そんなことできるわけないだろ。みんなだって嫌だろうし。というか、君たちの軍って、上司がそんなことやっていいの?」

「強ければ問題ない。むしろ、強者には喜んで抱かれる者が多いだろうな」

「そう……なんだ」


 彼方は人差し指で頬をかいた。


 ――種族が違えば、考え方も変わるってことか。


「とにかく、そんなことは考えなくていいから」


 僕はダークエルフたちを見回しながら言った。


「僕は一時的に君たちの隊長になるだけだよ」

「一時的ですか?」


 副隊長に降格したリザが口を開いた。


「うん。魔神ゼルズを倒したら、キルハ城に戻るから」

「……倒せるのですか?」

「断言はできないけど、ゼルズの実力がザルドゥレベルなら、なんとかなると思う」


 その言葉にダークエルフたちの金色の目が丸くなる。


「氷室彼方……様」


 杖を持ったダークエルフが一歩前に出た。


「あなたはザルドゥ様だけでなく、四天王のネフュータス様、デスアリス様も倒したと聞いています。本当ですか?」

「うん。二人とも僕が倒したよ」

「……そうですか。ならば、私はあなたに従いましょう」


 ダークエルフは片膝をついて、深く頭を下げた。


「たとえ、あなたが人間だとしても、それだけの力があるのなら、何の問題もありません」


「待ってください!」


 無言だったミリエルが大きな声を出した。


「キリーネ様! 私と氷室彼方を戦わせてください!」

「んっ? お前が戦うのか?」


 キリーネが驚いた顔でミリエルを見つめる。


「はい。私は氷室彼方の実力をこの目で確認したいんです。本当にザルドゥ様を倒したのなら、私など、一分もかからずに殺すことができるはずです」

「……死んでも構わないということか?」


「はい」とミリエルは即答した。


「待て、ミリエル!」


 リザがミリエルの肩を掴んだ。


「お前が氷室彼方に勝てるわけがない。無意味に命を捨てるな!」

「無意味ではありません。氷室彼方は私たちの隊長になる男です。その実力を知ることは重要ではありませんか」


 ミリエルは彼方をにらみつける。


「氷室彼方。お前の本当の実力を見せてもらうぞ」

「本当の実力か……」


 彼方は頭をかく。


 ――ある程度、力を見せておいたほうがいいのかもしれないな。他にも僕の力を疑ってるダークエルフが何人かいるみたいだし。


「わかった。じゃあ、戦おうか」


 彼方がそう言うと、ミリエルの瞳が輝いた。


「感謝するぞ、氷室彼方。お前が勝ったら、私の死体を好きなだけ抱くといい」

「そんな趣味はないよ」


 彼方は呆れた顔でミリエルを見つめる。


「それに君を殺すつもりもないし。ドラゴン使いは貴重だから」

「んっ? どうして、私がドラゴン使いだと知ってる?」


 ミリエルは銀色の眉を眉間に寄せた。


「君の服の匂いかな」


 彼方はミリエルの服を指さす。


「前にドラゴン使いと戦ったことがあるんだ。その時に嗅いだ匂いと同じだったから。ドラゴンが好きな匂いじゃないの?」

「……なるほど。観察力に優れているようだ」


 ミリエルの口角が吊り上がる。


「ならば、もう隠す必要はない」


 ミリエルは胸元から水晶玉を取り出し、それを地面に叩きつける。

 紫色の煙とともに、赤い鱗のドラゴンが現れた。

 ドラゴンの全長は十メートルを超えていて、背中に黒いトゲが生えている。


「ゴアアアアッ!」


 ドラゴンの咆哮が周囲の草を震わせる。


「氷室彼方。お前が強者だと言い張るのなら、私とレッドドラゴンを倒してみろ!」

「言い張ってなんかいないんだけどな」


 彼方は下がりながら、意識を集中させる。

 周囲に三百枚のカードが現れ、その中の一枚を彼方は選択する。


◇◇◇


【召喚カード:クリスタルドラゴン】


【レア度:★★★★★★★★(8) 属性:土 攻撃力:6000 防御力:7000 体力:8000 魔力:5000 能力:水晶の鱗を飛ばして、広範囲の敵にダメージを与える。召喚時間:4時間。再使用時間:7日】


【フレーバーテキスト:ダメだ。剣も槍も魔法も効かない。どうやったら、このドラゴンを倒せるんだ?(魔法戦士レイアス)】


◇◇◇


 水晶の鱗に覆われているクリスタルドラゴンが召喚された。

 クリスタルドラゴンの目はルビーのように赤く、頭部に二本の角がある。その全長は十五メートルを超えていた。


「我がマスターよ。命令は何だ?」

「そこにいるレッドドラゴンを倒して」

「ほぅ。戦いの命令とは、マスターも我の使い方をわかってきたようだな」


 クリスタルドラゴンは視線を双頭ドラゴンに向ける。


「だが、こんな小さなドラゴンが我と戦えるのか?」

「グゥ……ググ……」


 自分より大きなクリスタルドラゴンが現れたことで、レッドドラゴンの態度が変化した。

 広げていた翼をたたみ、頭部を地面にくっつける。


「お、おい。どうした?」


 ミリエルはレッドドラゴンの鱗を叩いた。


「お前の炎で、氷室彼方のドラゴンを焼き尽くせ!」


 しかし、レッドドラゴンは口をぴったりと閉じて動こうとしない。赤い鱗に覆われた体がぶるぶると震えている。


「どういうことだ? マスター」


 クリスタルドラゴンが不満げな声を出した。


「このドラゴン、我と戦う気がないではないか?」

「それは僕に言われても、どうにもならないよ」


 彼方は頭をかく。


「まあ、君のほうが強いって、レッドドラゴンが気づいたんじゃないのかな」

「つまり、我は戦えないということか?」

「そうなるね」


 彼方はレッドドラゴンを叩いているミリエルに近づく。


「で、どうする? まだ戦うの?」

「舐めるなっ! 氷室彼方!」


 ミリエルは刃が紫色に輝く短剣を手に取った。


「こうなったら、私がお前を倒す!」


 ミリエルは低い姿勢で彼方に突っ込み、短剣を突き出す。

 その攻撃を彼方は丁寧に避けた。


 ――悪くない攻撃だけど、視線や動きが素直すぎるな。これなら、身体強化のカードを使うことはないか。


 彼方は上半身をそらしながら、ミリエルの右手首を掴んだ。

 それでもミリエルは攻撃を止めなかった。体をひねりながら、彼方に向かって蹴りを放つ。その攻撃も彼方は予想していた。ネーデの腕輪で蹴りを受けると、そのままミリエルを押し倒した。


「ぐっ……くっ」


 ミリエルは必死に体を動かすが、ネーデの腕輪でパワーを強化した彼方の手を振りほどくことができない。


「もう諦めたほうがいいよ。力なら僕のほうが強いし、君が次にやろうとしていることもわかっているから」

「なっ、何を言ってる?」

「左手の指と指の間に針を隠してるだろ? 多分、何かの効果がある針だと思うけど、刺されるつもりはないよ」

「あ……」


 ミリエルの両目が大きく開く。


「……どうしてわかった?」

「いや。左手の指の動きが不自然だったから、気をつけていたんだ。そしたら、さっき、針の先端がちょっとだけ見えたんだよ」

「ぐっ……」


 ミリエルは悔しそうな顔をして、抵抗を止めた。


「私の……負けだ。さっさと抱け!」

「いや。そんなつもりはないって」


 彼方は呆れた顔でため息をついた。


 ◇ ◇ ◇


 お知らせ


 長い物語をここまで読んでいただき感謝します。

 異世界カード無双の話数のストックがなくなったので、これからは不定期連載になります。


 こういう系統の物語が好きなら、カクヨムで連載中の

【書籍化】「雑魚スキル」と追放された紙使い、真の力が覚醒し世界最強に ~世界で僕だけユニークスキルを2つ持ってたので真の仲間と成り上がる~【コミカライズ】も読んでみてください。


 それと、アルファポリスでは別ペンネーム(久乃川あずき)で

【創造魔法】を覚えて、万能で最強になりました。 クラスから追放した奴らは、そこらへんの草でも食ってろ!

という作品も書いています。

こちらも、書籍化、コミカライズしています。


 さらに新作の物語も準備していますので、そちらも投稿したらよろしくお願いします。


 

 

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