【4】

みなごろし鹿金しかがね、なんて誰が言い出したんだか」

「おや、お気に召しませんか? 貴方にピッタリじゃないですか」

 上背のある男がぼやけば、その隣を歩く少年は鼻で嗤った。男の見た目は二十代後半と言ったところで少年の方は中学生くらいだ、組み合わせとしては歳の離れた兄弟といったところだろう。男は灰色のスーツにネクタイもせず釦を二つほど外しており、少年はオフホワイトのサイズオーバーのシャツに黒のスキニージーンズ。出勤や登校からは程遠い姿だ。自然といえば自然だが早朝の今は不自然な組み合わせでしかない。ただ、当然のことながら二人の姿は周りに目視されていない。カイやシイと同様、彼らも現世では見えない存在だ。

「俺はそこまで殺戮したことねえのに名前の組み合わせと部署の種類だけで二つ名作りやがって。お前はいいよな『虚像の愧期ぎぎ』だろ、そっちのがサマになるしよ」

 涼しい顔で微笑む愧期を鹿金がジロリと見遣みやり盛大な溜め息を吐けば、愧期は前を向いたまま更に笑みを深めた。糸のように細められた目や口元が整っている分、美しくもあり恐ろしくも見える。

「私は、全部全部偽物ですからねえ。サマになるならないじゃなく真理ですよ、二つ名に理由なんて不要。私という存在があればそれでいいんです、それ以外に何が必要です? 愛し子たちも私の全てを肯定してくれますし」

 口から流れ出す言葉は彼の見た目とチグハグ過ぎるが仕方のないことだ、彼の本来の年齢は見た目の何十倍もあるのだ。彼自身、自分の年齢を数えることすらしなくなっているほどに。

 では何故、姿をあえて老若男女に変えているのか。ただ『何となく』『面白そうだから』という理由だけだ。それは、娯楽の少ない場所に存在しているせいもあるのだろう。

「愛し子ってさあ、あれはすでに信者だろ……」

「そうとも言いますかね。あなたに対して忠実と言い難いあの二人よりは好感を持てますけど、でもまあ、反抗的なのも面白いと思いますよ」

 口元に手の甲を当てクフクフを含み笑いをする愧期の横顔は幼さから程遠く、細めた涼やかな目元は美しいが造り物じみている。更に鹿金を一度も見ていないところがより不気味さを醸し出している。

「子供の姿でそれ言うと可愛げがクソほどもぇな。自分が一番マトモに思えてくるから怖えわ」

 再度大きな溜め息を吐き、鹿金は愧期から目を逸らした。彼は彼でスーツに不似合いな緩くウェーブする真紅の長髪をしており、後ろで一つに束ねられてはいるものの背中の中央で毛先が軽くうねる様はホストかヴィジュアル系バンドのボーカルのようだ。

「で、お前はどう思ってんの?」

「『アレ』のことですか? それとも、今の膠着状態をですか?」

「んー、両方だな」

 愧期が眉をひそめて、ようやく鹿金を見上げた。薄い唇の口角は上がったままだが、不快という二文字が顔面に張り付いているように見える。

 鹿金はスッと目を逸らして明後日の方を見ながらはぐらかすが、愧期は刺々しい声音で言葉を紡ぐ。

「私としては『アレ』がどう動くかしっかりと予想してから考えたいところです。大体、あの快楽主義者の動向は余りにも不透明すぎます。というか、存在が不快です。少し前に愛し子のキッカが『アレ』の部下に怪我をさせられましたし」

「せめて名前は呼んでやれよ」

「あの変態を名前で呼べと?」

「いや、一応同僚だからな? 俺たちと同じように二つ名持ちで、土地争いしてるわけだから」

 鹿金の『同僚』という単語に舌打ちをするも、ニタリと笑みを顔に浮かべて愧期は立ち止まった。その笑顔を視界の端で捉えた鹿金も足を止める。足から背中にかけて冷たい何かが這い上がってくるようだ。

「私は『牙城の牙陰がいん』を同僚と思ったことなんて一度もありませんよ」

 そこで区切ると顔から笑みを消し、

「だから、どんな手を使っても、潰す」

 地を這うような血を吐くような声を鹿金に投げかけた。








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地獄の底でタップダンスを 波希 みちる @namitiru-n

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