第24話 先鋒 火の四天王VS大賢者

お待たせしました。最終決戦、はじまります。

ーーー


 新しい年に変わり、ついに魔族領との戦いも終盤。


 マリンは愛用の杖を持ち、先生に貰った魔道具を設置していた。


 これは、魔族領に転移させる魔道具。


 膨大な魔素を取り込まないと使えない、1回きりの魔道具。

 

「皆。準備は整った?」


 クレアがやる気を出して、マリンたちに号令する。


「いつでも行けるよ。ほら、これがあるから」


 テレジアがナニカを取り出し……どうして、先生の汗がたっぷり染みこんだタオルを持っている。


「問題ない。メイリンたちにはファウスト殿の援護を頼んでいるからな」


 リーゼロッテのパーティーは今や数少ない、S級。これも先生に扱かれたおかげ。


 そしてリーゼロッテも先生のシ〇〇をちゃっかり手に入れている。


 出撃前にどのように手に入れたか問いたい。

 

「マリンはいつでも、行ける。魔力、過去一番。むふー」


 本当は、むふーではない。内心、出遅れた感で一杯。


 昨日まで生真面目に準備したマリンが、馬鹿みたい。


 けれど、休息を取ったおかげで、体力、魔力ともに全快。いつでも、戦える状態。


 マリンは温泉にたっぷり浸かり、たっぷり寝た。


 先生の道場の温泉。そこでは魔素が大量に溶けだし、効能は霊薬並み。


 ならば、温泉に浸かりながら魔力式呼吸法を行い、魔力を使い続ける。


 魔力の最大量を増やすこれこそ、魔術師たるマリンの最後の稽古。


 四天王にも対抗可能。


 しかし、気がかりも残っている。


「先生は結局、帰ってこなかった。今度こそ、一緒に連れていけると思ったのに~」


「大丈夫だよ。先生は死なない。消えることなんて、ないから……うふふっ」


「先生は今、あの邪竜と……。全てが終わり次第、絶対に……討伐せねば」


 クレアたちの言う通り、先生は数日前に出かけたきり、帰ってこなかった。


 旅立ち前には必ず、蕎麦をつくる。それは1回も欠かさない。


 だから、マリンたちは不安を覚えている。


「クレアも、テレジアも、リーゼロッテも。先生を信じる。先生がマリンたちを信じてくれるように……」


 不安は戦闘の隙を生む。そう先生が、マリンに教えてくれた。


 だからマリンは、不安を抱えない。「不安で負けた」なんて言ったら、先生は怒るから。


 マリンの言葉で、クレアたちが奮起した。


「……そうだね。ボクらはルルーリエ先輩のことを先生に託されたんだ。もうへこたれないよ。マリン、転移を」


 クレアの指示で、マリンは魔道具を発動させた。転移先は先生が予め、定めている。


 マリンたちは光に包まれ、そして消えた。


 ◇ ◇ ◇


 光が収まると、マリンたちは不気味な城の前に立っていた。


 もう分かる――城からバリバリと感じる強大な力を。


 まるで体が城に入るのを拒否しているみたいに。


「何だ……この力は……!?」


「これが本当にルルーリエちゃんの家なの!?」


 クレアやテレジアは信じられない顔をしている。かく言う、マリンもそう。


 リーゼロッテはこれが初魔王城だから分からないだろうが、これは明らかに異常。


 かつてルルーリエに招待されて遊びにいった時は、こんな雰囲気じゃなかった。


 息が詰まりそうな……今にも体を芯から震え上がらせるような……。


「行くよ、皆。ルルーリエ先輩の目を覚ましに……」


 クレアは一歩を踏み出し、魔王城の扉を開けた。腰の『ジョワユーズ』は輝き、クレアの体に光をまとわせていた。


 この姿はまさに、勇者に相応しい。


 ――先生が絡まなければだけど。


 マリンたちが魔王城に入り、大きなエントランスに入ると早速、1人目の四天王とエンカウントした。


「おやぁ~? 我らの方から出向くはずでしたが……これは手間が省きましたねぇ~」


 狐の耳と尻尾。それに赤い体毛。小狐の獣人。


 間違いない……。


「火の四天王。蒼炎狐そうえんこ、メルドラ……」


「ん、君ぃ~。誰かと思えば、我に10戦10敗しちゃってるマリンじゃないかねぇ~。にはここなんて場違いだからぁ~、どいちゃってねぇ~」


 ブチッ!


 マリン、怒った。今も感じるプレッシャーなんて、もうどうでもいい。


 メルドラ、倒す。ただそれだけすれば、いい。


「先、行って。マリン、こいつ倒す」


「え、でもここは全員でかかれば確実に――」


「これは魔術師のプライドの問題! ビギナーは魔術師にとって屈辱の言葉! だから行って!」


 ビギナー。その意味は『未経験者』。要は、『魔術の道すら入っていない石ころ』……。


 魔術師にとっての売り言葉!


「おっとぉ~。先に行かせないようにルルーリエ様から言われているんでねぇ~」


 メルドラがクレアたちめがけて蒼炎を放とうとしている。


 とことん、舐めてくれる……。


「させない……魔纏まてん、抜刀! 光狩ひかり!」


 マリンはメルドラとクレアたちの間に割って入り、蒼炎を斬った。


 ――で。


「逃げられちゃったぁ~。まぁ、君をすぐに倒して追いかければいいしねぇ~。連火れんが女家入じょけいり!」


 メルドラは蒼炎を体に纏い、突進の構えを取り、そして……瞬き1回でマリンの懐まで突進した。


 マリンはこの技で何度も倒され、その度に光狩ひかりを磨いた。


 初戦は遠距離で魔法を撃とうとする一瞬で突進され、一発KOされたから……。


光狩ひかり!」


「さすがに避けるねぇ~。でも、甘いよぉ~。追火ついび女昏昏じょこんこん!」


 かわされたメルドラはスピードを落とさず、即座に軌道を変えて突進する。小柄な体格ゆえに、小回りも利く。


 だから、厄介!


天果流てんかりゅう水鏡誘すいきょうのいざない!」


 マリンはすれ違い様に袈裟斬りを仕掛ける。けれど……。


「残念だねぇ~。そんなの、とっくに見切ってるからぁ~。宙狐火ちゅうこび狐松明きつねたいまつ!」


 メルドラはこちらの誘いに乗らず、のらりと回避する。そして、蒼炎の火球を周囲にバラまいていく。


 攻撃は一瞬。


 追撃までのインターバルはたった1秒。


 軌道は複雑。


天果流てんかりゅう秋霜しゅうそう三尺さんじゃく秋水しゅうすい!」


「無駄だぞぉ~。隙間を縫っちゃえば、当たらないもんねぇ~」


 そらよみで動きを先読みし、かつ光狩ひかりで移動してギリ回避。


 詠唱をする余裕なんて、皆無。


 それに――。


「ハァ……ハァ……」


「どうしたぁ~? もうスタミナ切れちゃったかぁ~。それに、もう逃げられないよぉ~?」


 光狩ひかりは最大の踏み込みを要する。だから、足への負担は半端ない。


 五感を研ぎ澄ますにも、集中力が必要。


 それに加え、辺り一面、蒼炎で燃え上がるから逃げ場がなくなる……。


 もう今立っている場所しか、足場はない。


「今回も我の勝ちだねぇ~。ルルーリエ様のところに行かせなければ問題ないけどぉ~、復活なんてしたら面倒だからぁ~、やっぱやっちゃおうかなぁ~」


 メルドラは部屋中を飛び回っている。言動から、決着をつけようとしているのが分かる。


 考える。


 詠唱さえ唱えればこっちのもの。メルドラが詠唱をさせない=魔法は有効。


 そのためには、詠唱の時間を僅かでいいから、稼ぐ。


 時間を稼ぐには、しかない。


「これで終わりだよぉ~。最大火力の連火れんが! 天狐あまぎつね稲荷王子いなりおうじ!」


 背中から、メルドラが突進してくる。これだったら!


天果流てんかりゅう隠放鳥かくしほうちょう!」


 マリンは脇下から仕込み杖を飛ばした。


 あれだけの猛スピードなら、ブレーキは利かない。


 とっさの不意討ちには、対応しきれないはず!


「え? うわぁ~!?」


 メルドラは間一髪で避けた。けれど、一瞬だけ怯んだ。


 今が、チャンス。


「おじいちゃん直伝! サンダードラゴン!」


 マリンは鞘部分の杖をメルドラに向け、特大の雷龍をぶつけた。


「あばばばばぁ~!」


 ピカァーッ!


 凄まじい閃光が走り、そして収まると、黒焦げになったメルドラが倒れていた。


 気を失っているが、息はあるみたいだ。


「……これで、11戦1勝10敗。マリンは大賢者。あくまで魔法が主体。今度は、のメルドラに、勝ってみせる……」


 マリンはメルドラを全快させ、クレアたちの後を追った。


ーーー


[補足説明]


・メルドラ


魔王直属の火の四天王。二つ名は『蒼炎狐そうえんこ』。赤い体毛が特徴の狐の獣人。一見男に見えるが、実は女の子である。


ある者に操られ、勇者パーティーと対峙した。


マリン・ティツールとは双丘の大きさでマウントを取り合って喧嘩をする仲であり、今まで全勝してきた。その理由は目にもとまらぬ速さで詠唱の時間を取らせないという、魔術師にとっては厄介な戦法を持っているためである。


突進はワイバーンなら一撃で焼き倒せるほどの威力を誇り、最大火力ならばS級魔物すらワンパンする。


さらに厄介なのは、突進だけでなく普通に蒼炎を火球として撃つことで、相手の足場をなくしていくズル賢さ。これにより、相手を孤立状態にし、確実に攻撃を当てやすくする。

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ヤバい剣術師範、少女たちを指南しながらのんびりと生活する Ryu @Ryuitti

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