第9話 驚愕の結末


「その人物とは?」



「名前は当然書いてありません。でも、私は、あの夢を見た日の次の日あたりから急に胸騒ぎが起きて、事件のニュースがあった日のうちに、石川県金沢市にある叔父さんの家に行って、色々と植田教授の同級生の事について探ってもらいました。



 叔父さんは、地元の地方新聞社の記者ですし、学校側も不審には思わなかったでしょうから、取材は簡単だったそうです」



「では、神田川さんは、一体、その謎の手紙を書いて出した私のかっての同級生に辿り付けたのですか?それに、某所から聞いた話ですが、あなたがレズビアン専門店に行った理由は、では一体何だったのですか?」



「まず、最初に断っておきますが、私はそんなレズビアン専門店なんかには全く行っていません。それは、探偵社の苦しまぎれの報告でしょう。今では、街中に、しかも何処の店でも防犯カメラが備えてある時代です。もし、私の話が信じられ無いなら、警察に調べてもらえれば私の疑いは、即、簡単に晴れる筈です。



 それよりも何よりも、約2年間程の時間をかけて、私は、石川県の叔父さんとの地道な捜査の結果、遂に、あの謎の手紙の差し出し人を特定できました」



「そ、それは、一体誰なんです?」



「やはり、植田教授の小中高の同級生で、現在、小学校の先生をしている河合俊介です。彼こそが、自分の教え子でもあった小学6年生の美少女を強姦(不同意性交)した真犯人なのです」



「そんな馬鹿な!あんな真面目以外取り柄の無い人間が、強姦(不同意性交)どころか母親まで撲殺するとは?」



「事実は、小説より奇なりと言います。しかし、彼河合俊介は、あの殺された美少女に非常に好意を持っていました。ただ、本人は他の生徒の前や本人の前では全くそんなそぶりは見せなかったそうですが……。この件は金沢の叔父さんの、地道な捜査により確証を得る事ができました。そういう意味で動機と言い、場所柄と言い総ての条件に合致します。 



 そして、植田教授に罪を擦なすり付けるような粗筋の手紙を、この私に送りつけ、あの稀代の変態的小説『彷徨える生殖器』をこの私に書かせたのです」



「しかし、証拠がありますか?その手紙からは河合俊介の指紋は絶対に検出され無いでしょうし、河合俊介もそれなりに秀才でしたから、一切、証拠も残ってい無いでしょうが……警察が今回の事件で尤も苦心したのは、このように、いかなる証拠も無かった事です」と、植田教授が反論。



「証拠はあります。河合俊介は女子ソフトボール部の顧問をしていました。その卒業生からもらった、彼がいつも汗を拭いていたハンカチがこれです」



「ハンカチだけじゃ、いくら何でも無理でしょう」



「もう一つあります。昨日、あの手紙が気になってもう一度便せんを読んでました。当然、パソコンからのプリンタ打ち、切手は多分スティック糊で貼ったでしょうから、これも何の証拠にもなりません。しかし、それでも気になって封筒を綿密に逆さにして調べていたら、1本のみ、極短く太い多分男性らしき髪の毛が封筒の中から出てきました。このビニール袋に入っているのがそれです。今まで気が付か無かったのか、自分でも驚きましたが……」



「では、このハンカチのDNAと、この髪の毛のDNAが一致すれば、真犯人にぐっと近づく事になりますね」と、植田教授は興奮して言った。



「そうです、これから3人で警察へ行って事情を話しに行きましょう……多分、説明には相当時間を要するとは思いますが。何しろ超常的な夢の話もしなければなりませんが、果たして理解してもらえるものかどうか……、ここが最大の課題なんですがねぇ?」



「同感です。法律的には夢の中の話など証拠にすらなりません。ただ、これからDNA検査の結果が出るまでは、余談を許しませんね。しかしながら、神田川梓さん、さすがプロの推理作家です。あなたを疑って済みませんでした。



 しかしながら、よく理解でき無い所があります。



 それは何かと言うと、もしあの事件のすぐ後に、いかにもこの私を犯人らしき人物として名指ししたような手紙が来ていたのなら、何故、そちらを一番先に疑わなかったのですか?どうして私をモデルに変な小説を買いてみたり、あるいは横にいる吉川明が犯人のような作り話まで語って、この私に聞かせたのですか?」



「それは、つい最近まで、私の心の中では植田教授を疑っていたからです。それは、植田教授の見た夢と多分ほぼ同じような夢をこの私自身が見た事が、どうしても頭から離れなかったからでしょう。



 しかも、あの手紙には植田教授を『夢男』として、夢と現実がごっちゃの人間だと書いてありました。私は、この手紙を出した人物は、単に興味本位で、私宛に手紙を書いたのだろうぐらいにしか思わなかったのですが、やはり植田教授が言われるとおり、一番先に疑うべき人物だったのかもしれませんねえ。



 ただ、夢の中での犯罪が果たして現実の事件と一致する事があるのかどうか?

 私には確信が持てなかったし、藤田准教授にも聞いてみましたがやはり明確な回答は得られませんでした。ただ、今になって考えてみれば、河合俊介にも、私と同じような精神感応テレパシー能力があったのかもしれませんねぇ」



「お二人の話を聞いてびっくりしたんですが、この僕まで一時犯人扱いされていたとは驚きです。でも、皆さんはある一点で大きな考え違いをしています。」と、G社勤務の吉川明が言った。



「この僕が、鬱状態で、藤田准教授に診て貰っていたのは、事実です。

 でも僕にとって、植田教授は大学時代の同級生でもあり、また、大学を卒業出来た大恩人です。

 そこで、神田川先生が以前、J大学の藤田准教授の治療を受けていたと聞いていたので、僕は僕で、植田教授に変な事や、変な疑いがかけらない無いためにも、藤田准教授に診て貰うなど独自の調査を開始しました。

 僕が、しょっちゅうG社を鬱状態を理由に休んでいたのはその為なのです。



 で、僕の調査によっても、小学校教師の河合俊介が怪しいのでは無いか?との感触を得ました。

 と言うのも、神田川先生が、植田教授のかっての同級生らしき人物からの謎の手紙をヒントに、あの小説『彷徨える生殖器』を書かれたと言う話は、僕も薄々聞いていました。

 


 この事をヒントに、僕は僕で、植田教授の小中高時代の同級生の調査を開始したのですよ。で、最後に、河合俊介に辿り着いた。



 これも、ほんの偶然からでした。僕が藤田准教授に診て貰っている時、藤田教授の机の上のメモに河合俊介と書いてあったメモ用紙があり、それに続いて、午後6時30分電話、との走り書きがされていました。僕の調査で、既に、河合俊介は植田教授の小中高の同級生だと調査がついておりましたから、尚更、奇妙に感じました。



 この河合俊介は、確か、殺されたあの美少女の担任とかでテレビのインタビューにも何度か出ていた筈です。しかし、横に寝ていたと言い張る彼の妻が、彼のアリバイを強く主張したので、河合は警察からの追求を逃れた。

 僕が思うに、これは今の自分の安定した生活を壊したく無いとの強い思いからだったと思います。僕の調べでは、彼の妻も、実は自分の夫を疑っていた事は間違いがありません。



 しかも、ここにもっと恐ろしい話があります。その謎の手紙を彼に書くように教唆した人物がいたと思われる節があったのです。誰だと思いますか?そうです、ご想像のとおり藤田准教授だったのですよ。



 藤田准教授と河合俊介はやはり小中高の同級生でもあり、実は現在も親友だそうです。今の所、藤田准教授が、手紙はともかく、この事件自体を教唆したと言う確たる証拠こそありませんが、河合俊介が逮捕されれば、即、分かる事です。



 藤田准教授は、やはり、勉強ではどうしても勝てなかった植田教授を心の中では今でも許せなかったのでしょうね……。ともかくも、すぐにでも警察へ行きましょう。車は僕が運転します」と、横に座っていた吉川明が言った。



1週間後、石川県母子強姦(不同意性交)殺人事件の犯人として、殺された美少女の元の小学校教師の河合俊介が逮捕された。



 冷蔵庫の奥の中に、あの事件時に使われたであろう血痕のついたゴム製品が隠してあったが、DNA検査の結果、血液はあの強姦(不同意性交)し殺害された少女自身の、精液は河合俊介のものと判明したと言う。

 逆に、川に流されて処分されてしまった、植田教授の例の「タイム・カプセル」の傍にポンと置いてあったコンドームは、ゼリー菓子を入れて作った偽物だったと言うのだ……。



 何故、河合俊介が、自宅の冷蔵庫に、そのコンドームを入れておいたかと言うと、戦利品として、保管していたと言うのだ。



 警察の詳しい取り調べの結果、河合俊介は鍵の構造やその開け方まで、早くからネットで詳しく調べ研究していたと言う。総ては、あの美少女を強姦(不同意性交)するためだけに……まさに、異常な執念では無いか!



 そして、総てを植田教授に擦り付けるつもりで、綿密な計画を立てていたと、自白したと言う。



こうして、件の(くだん)事件は、何とか解決したものの、この事件の一番の黒幕では無いかと一番疑われた「ドリーム・コントロール実験」の発案者でもある藤田准教授の関与に関しては、実行犯の河合俊介は単なる同級生であり親友であったと言うだけで、それ以上はただの一言も話さなかったと言う……。                         

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夢の中の強姦殺人者!!! 立花 優 @ivchan1202

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