あとがき
本作は、2018年ごろに書き、その後、少しずつ修正を加えたものである。出版の見通しもないまま時間が過ぎていくので、ネットに載せることにした。作品は読んでもらわなければ意味がない。誰か最後まで読んで頂いた読者がいたなら幸いである。
本作について解説しておきたいことがある。無論、作者は自分の作品の解説をあまりしない方が良いだろう。読者の想像力に制約をかけるからだ。また、作者は表現を作中ですべきであって、解説ですべきではないと考える人も多いだろう。私も同意するところである。
ただし、政治や差別問題など、敏感な事柄に絡むとんでもない大きな誤読に対しては予防線を張らせて頂きたいところである。というのも、冒頭のオープニング・クロールが無かったバージョンの本作をある識者に一読して頂いたところ、その方は本作の社会背景を「ディストピア」と表現したからである。
私はそれに飛び上がるほどびっくりした。作中の社会背景がディストピアなら、それに立ち向かって苦悩する差別主義者の主人公たちは正義側ということになる。どうしてそのような解釈になるのか。伝わるように書かなかった私の力量不足もあるかもしれないが、読む側が無名の人の作品を時間をかけて注意深く読もうとしなかったのもあるのかもしれない。特にこの作品は小難しいところがあり、読むのが疲れるのかもしれない。いずれにせよ、誤解を避ける対策として、オープニング・クロールを加えた。
本作についてもう一つ解説しておきたいことがある。ジョージ・オーウェルの『1984年』を読んだことのある人はすぐに気づいたと思うが、本作はその構成をなぞりながら、その内容を反転させたものとなっている。そのような試みをする理由は色々とあるが、本作の登場人物ハイムが反義語の意義を説明するところで一部表現されている。
最後に、本業にもっと力を入れるべきかもしれない時に、出版されもしない小説や詩を書き続けてきた私を叱咤せずに優しく見守ってくれた妻に感謝の意を表したい。彼女は私にとってのグレート・マザーである。
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