異説・SFを書いてくださいと彼女は言った

真田宗治

二十首連歌





 ダメな僕を置き去りにして帰郷する

  僕の中身は空っぽだった



 誰よりも

 僕を愛した人なのに

 最期の夜に間に合わなくて



 体温を失った手の感触は

 初夏の粘土の温度に似ていた



 こんなにも

  小さな人だったのかと

    花に埋もれた貴女に泣いて



 棺桶は

 何故こんなにも重いのか

 重みを知れとつきつけるのか



 何もかも失くして気がついた

 絶望の正体は疲れなのだと



 ズルいよね

 僕はますますダメになり

 我を憐れみ

 楽を貪り



 残された

 CDはまだ

 聴けなくて

 貴女が好きなカーペンターズ



 誰よりも傷ついたのは父なのに痛い言葉を投げつけたのに



 一周忌

 モンシロチョウが懐くので

    棘がやわりととれてなくなり



 蝶になり

  逢いにいくねと

 約束を

  交わしたのだと父が明かして



 暗闇の

 底の底の底の底に

 光があった

 息をしていた



 仰向けの

  緋色の虫の死に様の

 謎が深みの鍵を開いた



 世の為になることをして

 清らかな

 貴女の声が蘇る朝



 約束に

 追い縋る如

 窓を開け

 光を込めてSFを書く



 評価ならされていないよいいんだよ辛くないとは言わないけれど



 描くなら

 希望にしよう

 世界には

 ただ本物を

 ただ真心を



 解き放つ言葉はこれと決めていた

  「俺が未来に連れてってやる!」



 書き上げて

 今なら言っていいのかな

 僕は貴女が大好きでした



 叫ぶから

 僕が未来を照らすから

 泣かないで未来はこっちだよ




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異説・SFを書いてくださいと彼女は言った 真田宗治 @bokusatukun

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