表の顔はただの村人、裏の顔は世界最悪の暗殺者

Mr.適当

ユカという少年

今でも良く覚えている。そしてこれからも忘れない。あの日の事は―



2年前(ユカ7歳)


家族の人達が大好だった。

小さい頃、死ぬような病にかかっても、近くに家族がいれば泣くことは無かった。逆にどんな小さな怪我でも周りに家族がいなければ大泣きした。

家族の為なら死ねる自信があった。


――――――ユカは、そんな人間だった。


もちろん、それはユカの家族も同様だった。

ユカの育ての親も、そして2歳年下の妹もユカの事が大好きだった。

お互いがお互いの事を思っている。素晴らしい家族だった。


そんなある日、ユカは森に薬草を取りに出かけた。

隣のおばあさんが腰を悪くしたからだ。いつもの事だった。

最初は7歳という幼さから周りの大人達は止めたが、何度かユカが無断で森に入り、そして無事に帰ってくる事を繰り返すと、大人達は余り奥に入らない事を条件にユカが森に入るのを許した。


そしてユカが森から帰ると村が静かだった。

嫌な予感がしてユカが家に急ぐと、複数の黒ずくめの男が母親と妹を連れ去ろうとしていた。ユカは叫んだ。


「なんだお前は!母さんと妹を返せ!」


ユカが連れ去りの現場を見たのはまったくの偶然だった。

他の村の人間は皆気絶させられており、ユカも薬草を取りにいかなければ同じように気絶させられていただろう。


「チッ、まだガキが残っていたか。仕方ねぇ。」


自分の声に反応した男が、こちらを向く。


次の瞬間には、ユカは空を見ていた。

殴り飛ばされたのだ。


「悪いな。こっちも仕事なんだ。許してくれ」


「か・・・・返せ」


「恨むんなら俺を恨め。それでお前には生きる目標が出来るだろう。」


僕の顔を見て、黒ずくめの男はそう言った。


生きる目標・・・・

僕は家族が生きていたらそれで良かった。ただ、それだけで。


「じゃあな。」


黒ずくめの男はそう言うと母と妹を連れ去っていった。


「クソッ。なんで、なんで・・・・・・返してよ。僕の家族を返してよ。なんで奪った。家族がいればそれで良かったのに。なんで奪ったのさ!?」


僕は1人泣き叫んだ。

分かってる。ここで泣き叫んだって母親と妹は帰ってこない。

分かってるんだ。家族の危機に、何も出来なかった事だって。

分かってるんだよ・・・・・


「その声は・・・・ユカか?」


「父さん!?」


僕の耳に届いたのは、幼い頃から聞き慣れた優しい声だ。

僕はすぐ父さんのそばに駆け寄った。


「大丈夫?怪我は!?」


「父さんは大丈夫だ。母さんとユリを守れなくてすまなかった」


「それは・・・・」


「でも、お前が無事で良かった。」


そう言うと、父さんはまた気絶した。

どうして僕を責めないんだ。僕がしっかりしていれば・・・・

僕は長男でお兄ちゃんなのに・・・・


「あ、ああああ・・・っ」


村には僕の口から漏れた声だけが響いた。




ーーーーーーーーーーーー




静かな村に立ち尽くす僕の前に、ある男が近づいてきた。


「おい小僧。この村の惨状はなんだ?何か知っているか?」


「・・・・・・・」


僕は何も話す気にはなれ無かった。

思い出したくないから・・・無力な自分を。

認めたくなかったから・・・家族を守る事が出来なかった自分を。


「はぁ〜。奴らが動いたと聞いて来たのに。これじゃ無駄足だぜ」


奴ら?あの黒ずくめの男の事か。目の前の男は何かを知ってる・・・・


「チッ。仕方ねぇ。帰るか」


男がそう呟いた瞬間、僕は男の足に縋り付いていた。


「待って、待ってください。」


僕は家族を守る事が出来なかった。

今から母や妹を取り返す力も無ければ、気絶している人達を起こす方法も知らない。ない、ない、ない。僕に出来る事なんて殆どない。


でも、


小さい頃、僕は誓ったんだ!家族を守るって。

僕が生まれてきた意味。それは家族を守る事だって、あの日誓った。


父さんも母さんも、僕の本当の親じゃないし妹とも血は繋がってるわけではない。本当の親は僕の事を捨てた。そんな僕を拾ってくれて、受け入れてくれた人達が危険なのに、何も出来ないからって、諦めたくない。


「知っている。知っている事話すから。行かないで。」


「小僧・・・・・え?速くね。俺とお前の距離だいぶ離れてたよね?しかもちょっと弱ってたよね。え、怖。怖〜」


は?


駄目だ。この人は頼りにならないかも。


「って冗談はそこまで。小僧、知っている事全部話せ。」


「分かった。でもその前に約束して。僕が知っている事話したら、僕の家族を助けるって。」


「やだね。俺にメリットが無い。別に俺は今すぐ奴らを追う必要もない。俺がお前の為に動くだけのメリットを提示してみな。」


「それは・・・」


「無いだろ。小僧、俺は別に正義のヒーローじゃない。お前をメリット無しに助ける程、俺は善人じゃない。諦めな。恨むんなら、無力な自分と、理不尽な世界を恨め。何時だってそうさ。世界は弱い奴から奪うのs−って危な。」


確かにそうだ。世界は何時だって弱いやつには優しくない。

何故なら、強い奴が世界を創っているから。


だったらどうする?簡単だ。目の前の理不尽よりも強くなれば良い


異能力【狂った殺意】


「メリット?あるよ。」


「あぁん?」


「僕に殺されない事」


『異能力』それは誰もが持っている力。

しかし、多くの人間は異能力を発現させる事無く死ぬ。

いつの時代も異能力を発現させるのは強者であった。


「クッ、クソが。ただの餓鬼が偉そうにしてんじゃねぇ。」


目の前の男はナイフを取り出し、迷う事無く僕に突き刺す。

さっきまでの僕なら死んでいた。でも、


「遅いよ。」


男のナイフを避け、そのまま懐に入り、鳩尾に拳を入れる。


「グゥッ・・・・」


その一撃で男は倒れた。


《異能力【狂った殺意】その能力は複数存在する。そしてユカが今使ったのは『一撃必殺』相手が格下であれば一撃で相手を戦闘不能に出来る能力だ。》


なんでだろう。この死の気配、懐かしい。気分が高揚するのを感じる。


「って、こんな事してる場合じゃない。早く助けに行かないかと・・・」


あれ?なんで?上手く立てない。クソッ、どうして。




ーーーーーーーーーーーーー




「あれ?ここは・・・。母さん、ユリ!?どうして」


「お!目覚めたか、少年。」


「貴方は、さっきの・・・・・」


「待て待て。そう警戒するな。さっきのは僕じゃなくて僕の弟だから。」


「そんなの信じれる訳ないでしょ。」


「だよね~。あ、そうだ。ちょっと待ってて。」


そう言うと、男は僕の前から消えた。文字通り。


「いやー。遠かった。君の村辺境にありすぎ。はいこれ証拠。」


男は僕の方に何かを無造作に投げた。

それは、先程僕が戦った男の首だった。


「なっ!?」


「そいつさぁ。君にナイフ向けたんだよ。子供に、それも今は一般人に育てられている子供にね。ウチではそういうの禁止してる。だから殺した。」


男は弟を殺したとは思えないほど平静だった。


「貴方達は、一体・・・」


「僕らは【闇】。犯罪者集団だよ。」


【闇】。聞いた事は・・・・ない!


「犯罪者集団。って事はあんたらが母さんとユリを攫ったのか?」


「いや、攫ったのは僕らと対立している別の犯罪者集団だよ。」


「じゃあなんで母さん達がここにいる。」


「僕が取り返したから。」


取り返した・・・・・・なんで?


「メリット・・・・」


「ん?」


「貴方の弟はメリットがなければ助けないと言った。なのに貴方は母と妹を助けた。なんで?なんで助けてくれたの?」


「そんなの君がメリットを示したからに決まってるじゃん。」


この子供は何を聞いてくるんだろう?馬鹿なのかな?という声が聞こえてきそうな程不思議そうに男は答えた。


「君が倒した男はね、組織の中では一番下の立場だったけど世界基準で言えば強者の部類に入っていたんだ。そんな男を君は、子供で、なおかつ一撃で倒した。単刀直入に言うと、組織は君を欲しがってる。」


次の瞬間、場の雰囲気は一変した。

目の前の男の飄々とした雰囲気が殺し屋の雰囲気に変わったからだ。

変な行動をしたら殺す。そんな雰囲気が漂っていた。


「少年、名前はなんていうの?」


「ユカ・・・」


「そうかユカか・・・僕の名前はジン。よろしくね。」


「は、はい。」


「さてユカ。ここからは契約の時間だ。僕達はユカが欲しい。ユカはそこの母親と妹を助けたい。でもここで1つ問題がある。そこの母親と妹、呪いがかけられている。ユカに呪いを解く力は無い。でも僕達なら解ける。どうする?」


どうする?なんて僕に聞いてるけど、こんなの選択肢は1つしかないようなものでしょ。僕が組織に入らないと母さんとユリは助からない。


「あぁ、後言い忘れてたけど、もしユカが僕らの組織に入るんだったら7年間修行を受けてもらうし、その後も家族と過ごす時間は減るよ~」


な、7年間修行!?


「流石にすぐ即戦力とは出来ないからね~。7年でも短い方だよ。実際僕の弟は15年かかったしね。ちなみに僕は3年〜」


そ、それだけで良いの?僕なんか20年修行・・・あれ?

僕今7歳なのに・・・・どういう事だ!?


「どうする、ユカ」


「う〜ん。僕が組織に入れば母さん達は助かるんでしょ?」


「あぁ。そうだよ。」


「じゃあ入る。」


「本当?」


「うん。家族を守れるんだったら何だってするよ。」


「アハハハッ。良いね~狂ってるね。じゃあユカ。家族の事は僕に任せなさい君は外にいる女の子について行って。修行の件も僕から説明しとくから。」


「はい。」


家族と会えないのは辛いけど、これが一生の別れじゃない。そう自分を奮い立たせると、僕は外に向かった。

それに、ジンは信用出来る。だってあの時も・・・・・・・・・・・・・・・

あの時?なんだろう、さっきから僕じゃない誰かの記憶が頭を過ぎる。




ーーーーーーーーーーーーーー




「《彼》が消えたのは7年前、恐らくユカが生まれたのも7年前。これははたして偶然かな?なにはともあれ楽しくなりそうだ。」




ーーーーーーーーーーーーーー




現在(ユカ15歳)


「ねぇ、オジサン達って盗賊だよね?」


「あぁん?なんだお前。」


「否定は無し。じゃあ殺すね!」


「なんだ・・・・と?」


盗賊の首にナイフを刺して殺す。うん、一人でもちゃんと出来るね。


「なっ、カマセ。おいコラてめぇ。一体なにもんだ。」


「僕?ただの村人だよ。あ!でも職業は・・・・暗殺者!」







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