はれ、およびくもり
白雪 うさぎ
はれ、およびくもり
髪、伸びたなぁ。
ドレッサーの鏡に映る自分を見て思う。
今までは彼が好きと言っていたから、肩につかないくらいので切りそろえたショートカットにしていたけど、別れてからはショートにする理由が無くなってしまったから、何となく伸ばしていた。
……そろそろ切りに行かないとなぁ。
そうだ、久しぶりにちょっと違う髪型をしよう。
そう思ってスマホを手に取る。
慣れた手付きでブラウザを開き、ヘアカタログのサイトをタップ。ワードを入力して、検索ボタンを押そうとする。して、止めた。
「ショートカット ボブ」
つい先刻まで違う髪型にしようと思っていたのに、いつもと同じ言葉を入力していることに少し驚いて苦笑する。
少し考えてからワード検索からではなくて、特集ページから探し始める。
画面をスワイプ、スワイプ、スワイプ。
指を滑らせていくとふと、目に留まる髪型がひとつ。ウルフカット。ずっと、してみたかった髪型。迷わずにブックマークをつける。予定が空いているところを確認して美容院を予約する。スケジュールに「美容院 12:00~」と入力して、スマホの電源を落とす。週末の楽しみが増えたことを嬉しく思いながらベッドに入る。その日は午後から部活の発表があるから、友人たちがどんな反応をしてくれるのかわくわくしながら。
そして、週末。
いつもの休日より少し早めに起きて、朝ごはんを食べて、顔を洗う。どの服を着用が決めていなくて少しの間クローゼットとにらめっこ。ちょっと悩んでお気に入りのブラウスとプリーツスカートを選ぶ。ネイルとアクセサリーは季節に合わせてワインレッドに。軽くメイクをして、ヘアアイロンに電源を入れる。アイロンを温めている間に髪をひとつにまとめて結う。前髪と姫カットの部分にアイロンを通す。
一通り準備が終わって姿見の前に立つ。よし、バッチリ。少しゆっくりしてから家を出る。いい天気で気分はさらに上がる。
いつも担当してくれる美容師さんにブックマークをつけた写真を見せて、最終確認。世間話をしながら施術が進んでいく。髪が落ちていくのを見ながら、変わった自分を想像する。この時間が一番好きなのだ。だから施術が終わってしまうのが少し悲しく感じてしまうけど。
ブローをしてもらって、アイロンを軽くしてもらう。ウルフカット、かわいい。これはして正解だったかも、友人たちはどんな風に言ってくれるのかなぁ、と心を躍らせながら美容院を後にする。
まぁ、予想通り友人たちはかわいいね、似合ってるね、って言ってくれた。私もそれが嬉しくて思わず笑みがこぼれる。ありがとう、って微笑みながら返す。
ふと、視線をあげた先に君がいた。目が合う。久しぶりだね、なんて会話をする。
……あぁ、何も言ってくれないの、もう恋人じゃないから?かわいい、なんて言って貰えないのは分かってる、でも少しくらい言葉が欲しいの、似合ってるくらい言ってくれてもいいじゃない。
つい先刻まで顔を出していた太陽は白い雲に覆われていて見えなくなっていた。
はれ、およびくもり 白雪 うさぎ @Shirayuki-usagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
心の扉に届く一つの道最新/長久
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます