第120話 落ち込んだ鉱山街
北のホクと呼ばれる村。
鉱山街に着いた瞬間。
僕たちはせき込んでいた。
埃がすごく、空気が薄い気がする。
ここでは、石炭のような燃料と、鉄が取れるのだが、山ではなくて、地面を掘り進めているのだ。
どこまでも、どこまで深く掘っているその穴は、地獄へとつながっているのではないかと思えるほど暗く、不気味だった。
普段なら活気と、怒号、喧嘩と騒々しい村だと聞いていたのだけれど。
目の前に広がっているのは、酒を飲みながらうろついている坑夫達。
ときどき、喧嘩が起こっては青い鎧の工夫たちが止めに入っていた。
村の真ん中に兵士の宿舎のような物と、大きなテントも張ってあった。
そのテントの中に、兵士たちが俯きながら入って行くのが見える。
「騎士、、ですかね」
ミュアの言葉に、頷く事も出来ない。
騎士は、もっと堂々としてはずなのに、ここにいるのは、皆下を向いている。
「ちっ。また失敗かよ。いつになったら仕事が始められるってんだ」
僕の側で、地面に座ったまま酒瓶をあおっていた男が悪態をつくのが聞こえた。
「兄ちゃん、冒険者か?悪い事はいわねぇ。さっさと帰った方がいいぜ。あいつら、冒険者を全部追い出しちまったんだ。プライドかなんか、知らねぇけどよ。冒険者に任せた方が絶対早かったとおもうんだがな」
一息で残りの液体を流し込む。
「ちっ。酒が切れちまった。悪い事は言わねぇ。あのダメ騎士には関わるなよー」
それだけ言い残して、その坑夫はふらふらと歩いて行く。
「とりあえず、ギルドに行ってみるか」
「そうですね」
ミュアと二人でギルドの扉を開けると。
そこも、荒れに荒れていた。
砕けた机が散乱していて、依頼の紙もほとんどない。
何よりも、冒険者は一人もいなかった。
「あら、ここに来ても依頼なんてないわよー」
受付のカウンターで、頬杖をついて暇そうにしているお姉さん。
その横には、ジョッキが置いてあるあたり、飲んでいるらしい。
「指名依頼というか、頼まれて来たんだけど」
あくびを一つすると、村の中央のテントを指さす。
「あいつらが来てから、何もかもぐちゃぐちゃよ。村の周りの討伐も、坑道の討伐も、全部騎士の仕事だって言ってね。
今じゃ、割りの合わない採取系の仕事しか残ってないわ。それで生きて行こうと思ったら、無理な奴のね。だから、みんなちりぢりになったわけ」
指を振りながら、退屈そうに話すお姉さん。
「だから、ここじゃなくて、あの偉いさんに話をした方が早いと思うわよ。どうせ、断られるだろうけど。ああ。眠い。私は少し寝るから、あとは好きにしたら?」
それだけ言うとお姉さんは寝てしまった。
「どうしましょう?」
「とりあえず、あの中央のテントに行ってみるしかないかな」
僕たちは、とりあえずテントへ行く事にしたのだった。
テントに近づいた時。
怒声が聞こえた。
何かが飛び交う音。割れる音が響く。
「何故だっ!何が悪いと言うのだっ!お前らは無能かっ!サボってるのかっ!寝てるんじゃないだろうなぁ!このクズがっ!」
そんな叫び声が聞こえて来る。
テントへさらに足を進めると。
警備と思われる騎士に呼び止められた。
「ここは栄誉ある碧玉騎士団の司令部だっ!一般人は立ち入り禁止だっ!」
槍でこちらの動きを静止するようにしながら、威圧的に言って来る騎士に少しイラつく。
「依頼を受けて来たんだけど」
「依頼?そんな物は出していないはずだが?冒険者はこの緊急事態には必要無いと言われているはずなのだが」
「王都からの指名依頼らしい」
少し首を傾げた後。
「少し待っていろ」
それだけ言うと、テントの中へと入っていく騎士。
その後ろ姿をただ見送っていたのだった。
【王都】
「第3陣の討伐隊も全滅との事です」
その知らせに頭を抱えるシュリフ。
「アランめ。何をしているのだ。碧玉騎士団を任せてやっているのに、これだけ使えないとは。騎士の再編を伝えていたはずだが、国王へは?」
「それが、、、まだ寝室から出て来られておりません」
「もう、昼だぞ。国務は?」
「周りが変わりに動いていますので、特に問題は無いかと。本当に申し訳ないのですが、基本的に決断が必要な事はシュリフ様へとお願いしておりますし」
「アランも、あれも、ホクのアレも全部無能か」
「シュリフ様。あまりそのように言われると、、忠義を問われてしまいます」
「女と、酒に溺れだした国王をさげすんで何が悪い?」
ギラリと報告に来ていた官人を睨むシュリフ。
「いえ。すみません。確かに今国を動かしているのは実質シュリフ様ですね」
頭を下げる官人を見ながらシュリフ将軍は小さく拳を握る。
「このままでは、何もかも潰れてしまう。やるしかないのか?」
「シュリフ様なら、その力はあると思いますが。おっと失礼。失言でした。忘れてください。それでは、下がらせていただきます」
それだけを言うと、部屋を出て行く官人。
扉を出た途端。官人は小さく笑う。
「【明星の】は王を完全に陥落させたな。これでやりやすくなる。アレを手に入れるために、地下への封印を解いてもらわないといけないからね。その後は、、、塵にでもするかな。彼も、もう少しだと思うしね」
ニヤリと笑う官人。
「僕は帰るためなら、何でも捨てるって決めたんだ。もう戻れない。付き合ってもらうよ【明星の】」
ばさりと服が脱げると。
学生服に身を包んだ黒髪の青年が現れる。
「【皇の】名前にかけて。僕は帰る」
優しくない世界に転生した。精一杯生きてやる。~創世記の英雄は転生者~【完全書き換え版】 こげら @korea
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