【編集】朗読用的なやつ


 立夏。


「乗り込むぞ、カナリーイエロー!」


 私の胸にあるコックピットの中で、操縦桿を握るヨシタメが叫んだ。機械の体に力が漲り、ヨシタメの叫びに呼応するように全身の駆動回路が唸りを上げる。


「なあ、カナリーイエロー」

『ヨシタメ、どうした?』

 

 日本海上空に浮かぶ決戦用空中要塞ラ・ソノマ・アンギンペに突入し少し経った頃、コックピットの中でとんとんと、ヨシタメが私のボディを軽く叩いた。


「ビークルモードに戻っとけよ。見たところ、しばらくは一本道だ」

『そうだな』


 トラックが変形し二腕二足の人型となり、頭部のフェイス・ユニットはホワイト・シリコンとリキッド・メタルで構成される。感情を伝達可能な発話型の機械生命体が私の姿。

 

「俺らだけに、なっちまったな」

『ああ。私の仲間も、みな……スクラップになってしまった』


 運転席で操縦桿が変化したハンドルに触れながらヨシタメが寂しそうにつぶやく。もともと、私にもヨシタメにも四機と四人の仲間が存在していた。今は私達、一機と一人しか残っていない。


 ヨシタメが所属する〝戦隊〟のメンバーも、私と同じ機械生命である〝勇者〟も全員、敵に敗れてしまった。それでも、仲間の遺志を受け継ぎ私達は戦い続ける。


「開けた土地に出そうだな……カナリーイエロー、ブレイブアクションだッ!」

『チェーンジ、ブレイブアクション……カナリーイエロー!』

 

 運転席で指を鳴らすヨシタメのかけ声に合わせ、路面を進んでいた私は立ち上がり走りだす。敵は、決戦は、近い!



「上がれッ! カナリーイエロー、フライング・コネクトだッ!」

『了解したヨシタメ……力を借りるぞイーグルホワイト、コネクトッ!』


 強靭な翼を持つ白き鷲、イーグルホワイトは地球に到着した際に戦略型輸送機と融合した機械生命。私は亡きイーグルホワイトの主翼をもらい受け、要塞内部を舞う。


「最深部には絶対にオヤダマがやがる、お前はエネルギー・ゲインを温存しとけ……俺の言いてえことが分かるな?」

『分かるさヨシタメ、私と君は一旦いったん別行動……だが、進む道は同じだッ!』


 決戦空中要塞ラ・ソノマ・アンギンペの中枢へ向かう区画は小型のメカニロイドや再生された幹部怪人の数が多い。

 彼の言う通り、私が大きな動きでぎ払うよりは余力を残した方が合理的だ。


「おう! それに見ろ……奴だ。あの野郎は俺が直接ブチのめすッ!」

『ならば進路に合わせてグリーンとブラックの戦隊用装備、シナジェティック・ウェポンを投下する!』


 バトロイドを指揮するジェネラルは、ヨシタメの親友と後輩であるレンジャーグリーンとレンジャーブラックの命を奪った仇敵。二人が残した装備をヨシタメの着地予測地点に射出する。


「助かるぜカナリーイエロー……ハッチ開放を頼むッ!」

『了解! 私は狙いやすい大型の敵を叩き、道を切り開く!』


 米国製、世界最強の陸戦王者として名高い戦車、エイブラムス。一騎当千の巨砲と融合した機械生命がピーコックグリーン、

 ナサが開発したブリージング・エンジンを搭載するエックス・フォーティースリーという戦闘機。近代最速と謳われる脅威の推進機関と融合したのが、黒き神速スワロー・ブラック。


『ピーコック、スワロー、私に力を貸してくれ!』

 

 ピーコックの闘志を継いだ巨砲と制圧火器、スワローの残骸から組み上げた脚部補助パーツ。その二つを私が両手両足に装着し終わる時、ヨシタメがコックピットから飛び降りる!


「ブレイブチェンジッ! レンジャーイエロー!」

 

 空中で変身、つまりブレイブチェンジによる衣服の再構築を済ませたヨシタメ。彼は黄色のパワード・アーマーを纏い、颯爽と着地した。


 変身、それが〝戦隊レンジャー〟の真の姿。



「タングステンで作り直した吾輩わがはいの鎧がァ!」

 

「イケるぜカナリーイエロー! スティンガー・ミサイルも、ありったけよこせ!」

『了解ッ! 投下後、私も援護するッ!』


 ヨシタメ以外の四人、レンジャーのレッド・ブラック・グリーン・ホワイトは全員が討ち死にしてしまった。それでも、ヨシタメは一人ではない。仲間達の魂を背負っている。


「突き進むぞ、カナリーイエロー!」

『望むところだ、ヨシタメッ!」

 

 おびただしい量のバトロイドとメカニロイドを撃破し、決戦空中要塞ラ・ソノマ・アンギンペの中枢ちゅうすうを目指す。


「いよいよだな」

『ああ、終わりは近い』


 星間犯罪組織を追って地球に降り立ち、機械と融合して新たな身体を獲得した私や四機のような銀河勇者。

 犯罪組織と手を組んだ地球の秘密結社を倒すために結成された、ヨシタメ達のような戦隊勇者。


 ギャラクシーブレイブとブレイブレンジャー、重なり合う勇気の力で必ずや戦いに終止符を打つ!



 最深部に到達した私達は、ボロボロに打ち砕かれかけている。鋼の身体を動かすエネルギーゲインは尽きそうになり、ヨシタメのブレイブメンタルもまた、今にも朽ちてしまいそうだ。

 

 理由は〝敵〟の姿と、力。


「アイツ! 親玉ならクロッシング・メタルのキャパシティも多いってか!」

『要塞の……内部構造の組み換えだと!? ヨシタメ、退路を絶たれたッ!』


 私達がトラックや戦車、航空機と一つになり地球で戦うように、連中も機械の力を取り込み悪事を働いてきた。


 私達が敗れた仲間の部品を集め、足りない部分は自らのクロッシング・メタルでおぎなうのと同じように……〝奴〟もまた回収した銀河勇者達の亡骸にクロッシング・メタルを混ぜ合わせ、最強の機体を作り上げたのである。


「レッド・ドリルに……ヒビが!」

『やはり、奴の完全形態には太刀打ちできないのかッ!』


 白き翼、腕から背面に移動した緑の巨砲、両脚の青いブースター、そしてペッカーレッドの形見かたみたる真紅のアーム・ウェポン。

 それらを集結させても、私の体はぎの寄せ集めに過ぎない。

 

 戦隊勇者合体ブレイブ・フェイザーは本来、万全な五機の力が合わさって初めて真価を発揮するからだ。


『ヌハハハッ! そのような脆弱極まりないドリルで、の装甲を貫けると思うたか?』

「だったら、左手の輻射波動……ブラスト・ウェーブッ!」

『ダメだヨシタメ、出力で押し負けてしまう!』


 奴の体は真っ黒な戦隊勇者合体、ブレイブ・フェイザーの姿。

 私は、カナリーイエローという機体の所々に小さな勇気の灯火ともしびを付け足しただけの姿。

 

 こちらの三倍以上にもなる巨体に、豊富な装備を誇る漆黒の暗黒勇者。私とヨシタメが四人と四機の仲間達と共に戦い抜いてきた姿と瓜二つ、しかし色だけは私達と似ても似つかない邪悪そのものの強大な敵。


「あの野郎、アニキやみんなの技を使ってきやがるッ!」

『すまないヨシタメ、直撃する! 衝撃に備えてくれ!』


 似ているのは外見だけではない、力も技も戦い方も、万全な頃の私達にそっくりだ。


 勝てる、はずがない。

 

 諦めたくはない、諦めてはいけない、だが、蛮勇ばんゆう無謀むぼうは違う、万策尽きたとは……このことだ。



 呼吸も荒く息絶え絶えなヨシタメの声が、コックピットの中から聞こえてくる。

 

「なあ、カナリーイエロー……兄貴の最期さいご、覚えてるか?」

『レンジャーレッドと機械勇者ペッカーレッドの最期? よせ、ダメだヨシタメ!』


 適合者、つまりアプティチュードとしてレンジャーとなった者は、バディとクロッシング・メタルを共有する。銀河から飛来した融合金属と地球人のメンタル・エナジーによって、パワード・アーマーを作り出し変身が可能となる。勇気の鋼と勇気の精神には、互換性が存在したのである。


「とめるなカナリーイエロー、もう……これしか手段はねぇッ!」

生命いのちを、魂を削って金属を生み出すなど……ダメだ! ヨシタメ!』

 

 かつてヨシタメの兄、レンジャーレッドは窮地に陥った鋼のバディ・ペッカーレッドのために精神と存在のほとんどを代償にした。そしてクロッシング・メタルの総量を増幅させたのである。


『貴様らァ! ぶつぶつと何か言っておるな、往生際おうじょうぎわが悪い! 引導いんどうを渡してやろうッ!』


 コックピットに座るヨシタメの覚悟は、完了している。もう譲らない、彼はそういう男だ。


 コックピットの内部で操縦桿そうじゅうかんを強く握り締めアクセルを踏み込むヨシタメ。ならば、それならば、私も機械生命としての全てを懸けて、付き合ってやるッ!


「行くぞ、カナリーイエロー……最後の超銀河勇者合体だッ!」

『チェーーンジ……最 終 勇 者ブレイブリー・ファイナル ッ !』


 奴は、黒色のブレイブ・フェイザーは私達の仲間の残骸を奪った。そこに奴のクロッシング・メタルを混ぜ合わせ、あの姿に変化したッ!


 増やせば、補えるッ!


 奴一人に出来て、私達二人に出来ない道理などないッ!

 

『ヌハハハハッ! 無駄な足掻あがきを! 虫ケラ風情ふぜいが!』


 全身の筋肉、果ては臓器にまで深刻な被害を負い喀血かっけつするヨシタメ。それでも操縦桿にかかる圧は上昇。更に強まる両腕の力強さを、コックピットの内部に感じる。


 生命の火は、まだ燃え尽きない。


 何故なら、ヨシタメは〝戦隊レンジャー〟だからである。


 全体の回路、駆動系も循環するオイルまでもがオーバーヒート。各部から軋みを感じてなお、私はチェンジ・シークエンスを中断しない。


 鋼の身体を持つ四羽の鳥達が、還ってくると信じ続ける。


 何故なら、カナリーイエローは〝勇者ブレイブ〟だからである。


『な、何だと? 全ての補助パーツを切り離し……オミットした先で、再構築? バカなァ!』


 

 戻ってきた。



 不死鳥の如く、蘇った!


 

 イーグルホワイトが、ピーコックグリーンが、スワローブラックが、そして……ペッカーレッドが完全な姿を取り戻した。


「お前ら……くたばる前に、いっぺんだけ力、貸しやがれ……」

『クロッシング・メタルの欠片かけらに……わずかでも君達の〝魂〟の残滓ざんしがあるなら……』


 私と義為ヨシタメは高く舞い上がり、叫ぶ。


「『こたえろッ!」』


 イーグルホワイトのフライング・ユニット、ピーコックグリーンのアサルト・キャノン、両脚にはスワローブラックのブースター・エンジン、中枢区画コア・ブロックは私……カナリーイエロー!


 そして、右のかいなには全てを貫くレッド・ドリル!

 左のかいなには全てを砕くブラスト・ウェーブ!


 胸の上も両腕りょううでと同じく、燃え上がる赤き装甲を重ね強化する。仕上げに頭部をきらめく真紅の兜甲ヘッドアーマーで包み込んだ!


「生きてっか? 相棒」

『どうにかな……勝つぞッ!』


 紛い物たる禍々まがまがしい色をしたブレイブ・フェイザーが、狼狽うろたえていた。


『貴様ら、その姿は……まさかァ……!』


 ヨシタメは依然として全身から血を流し、私もまた駆動回路が悲鳴を上げているが、魂だけはたぎる。

 五つに振り分けた〝力〟が再集結した今、ブレイブ・エネルギーのみなぎりは必然であり、何より〝敵〟を前に諦めることなど決して許されない。


 何故なら、私達は〝英雄ヒーロー〟だからである。



 激戦の中、決戦空中要塞ラ・ソノマ・アンギンペの制御装置を破壊した。それによって連合軍の爆撃が再開。

 

 奴は崩壊する要塞から飛び去り、私とヨシタメは後を追う。


『ヌハハッ! 要塞はうしなわれたが、蝿共はえどもはこの高さまでは飛べまい! 消耗しきった貴様をほふり、はこの惑星を滅ぼすッ!』


 壱百満天ひゃくまんてんの星空、海面からおよそ四十九キロメートルの超高高度。


 つまり、成層圏。


「チッ……悔しいが俺らがジリ貧なのは間違いねえな」

『らしくないぞ? ヨシタメ』


 一騎打ち。


 軽口を叩いてみるも、コックピットに映し出されるブレイブ・パラメータは上限、打ち止めだった。


「確かに……俺らしくなかった。百パーセントで足りねえなら、上回ってやるだけだッ!」

『その通りだ、ヨシタメッ!』


「燃やせ、全てを……超えっぞ、限界をッ!」

『征くぞヨシタメ、魂の果てにッ!』


 奇跡を、起こす。


 限界を超越し砕け散るブレイブ・パラメータの表示。


『粒子……だと? 虚仮威こけおどしをッ! 全身がヒビ割れブラスト・ウェーブも撃てなくなった貴様等に、何が出来るというのだ!』


 私とヨシタメを包み、勇者力を押し上げるのは輝く緑色の光と粒子だけではない!


 全てのクロッシング・メタルが、私達の〝意思〟に呼応するッ!


『色が変わったからといって、それがどうした! 我に貫かれ、彗星のように燃え尽きろ!』


 それは、黄金おうごん


 私自身も知らなかった、レンジャーのヨシタメがるカナリーイエローの真の姿。

 全ての装甲が、関節部が、金色に輝く。そして緑色の粒子がとめどなく放出されている。


 極 限 勇 者アルティメット・ブレイブ黄 金 立 夏カナリーゴールド ッ !


「燃やせ、輝け、まわれ、つらぬけえええッ!」

『最後の一撃だああああッ!』


 終 焉 螺 旋 決 着 リーサル・ドリル・フィニッシュ


 黒き暗黒の化身、ダークブレイブフェイザーは、爆発四散した。



「兄貴、みんな、ありがとう」

『逝ってしまったようだな』


 イーグルホワイトが、ピーコックグリーンが、スワローブラックが、そしてペッカーレッドが粒子となって消滅する。


「なあ……お前まで消えたら許さねえぞ」

『当然だ。君を日本に送り届けるまでは、持ちこたえてみせる』


 そっから先もずっとだ、とヨシタメに言われたが……私は返事をすることが出来なかった。余力も自信も残っていない、いつ空中分解してもおかしくない状態だ。


 焦りながら、それでも重症のヨシタメを揺らさぬよう注意しながら、私は緩やかに高度を落としていった。

 

 日本を目指す、関東圏、東京都、もう少し。


 数時間前、夕闇を背に出発したカー・ガレージの前に降り立つ。そして、片膝を付いた瞬間に私の全身は崩壊しはじめる。


「ふざけんな、死ぬな……死ぬんじゃねえカナリーイエローッ!」

『お別れかも……しれない。このトラックの車体にも、君にも、随分ずいぶん……世話になったな』


 視界が、メインカメラから見える映像が、ノイズ交じりになる。色彩が失われ、景色がモノクロに変わった。


「忘れんじゃねえぞ、俺達は一生……相棒バディだッ!」

『ああ、忘れないさ……私達は、ずっと……』



 あれから何年が経ったのだろうか。


 信じられないことに、車内のドライブレコーダーを介して私は外の風景をることが出来る。

 しかし自身の客観視は不可能であり、変形や発話などもってのほかだ。


「おじさんの車、地球を救った車なのー?」

「おう、ずいぶん小さくなっちまった」


 ヨシタメと、見知らぬ少女。


 彼が、普通に立っている、歩いている、会話をしている、後遺症もないようだ……本当によかった。


「わ! 今、勝手にライト光ったり消えたりしてた!」

「本当か? まあ、アイツが起きたなら光っても不思議じゃねえな」


 ヘッドライトをパッシングさせることに成功したのだろうか、自分では分からない。また試そうにも、何というか、力が、入らない。


「全然、光らなくなっちゃったね」

「やっと起きたばっかりなのかもしれねえ。無理せず、ゆっくり様子を見るよ」


 ヨシタメは私のボンネットを撫でながら、軽く叩きながら、少女と私に語りかける。かつて世界に〝最後の戦い〟があったこと、命懸けで戦った勇者がいたことを。


「この子は……名前あるの?」

「あるぜ」


 私の名は。


 カナリーイエロー。

 

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立夏×カナリーイエロー トモフジテツ🏴‍☠️ @tomofuzitetu

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