夏は始まる

Aiinegruth

第1話

「両片思いが成就する瞬間に立ち会えるカステラでございます」

「は?」

 家までの帰路で、謎の老婆に話しかけられた。ゴールデン・ウィークもカレンダー通り働いて疲弊していた僕は、ぼんやりと黄色いお菓子を受け取る。

「両片思い同士が近づくと鳴り、さらに言葉を交わすと回ります」

「カステラが!?」

「一切れ5万円です」

「カステラが!?」

 

・・・・・


 買ってしまった。そして、休日になってラップ入りのカステラを持ち歩く変態になってしまった。が、何もなかった。減っていた口座の5万円も戻ってこなかった。詐欺である――! と、思った3日目の夕方、ついにカステラが鳴りだした。誰か外の通りにいる! 幸せの目撃者になるべく、僕は勢いよく玄関の扉を開く。

「うわ、バカ経春すぎはる久しぶり。名古屋行ってきたから、あんたにも一応お

 僕、古峠経春ことうげ すぎはるの幼馴染、風坂蒲公英かぜさか たんぽぽが、飛び出してきたこちらに言葉を詰まらせた。彼女の茶髪の上で、黄色い直方体が回っている。蒲公英たんぽぽの視線の先、僕の頭上でも、だ。……ええと。

「それ持って、名古屋行ったの……奇人じゃん」

「――は、はぁ!? 買ってる時点で似たようなもん……、でしょ」

「……ちょっと話が、したい」

「わ、私も」

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