第2回カクヨム短歌・俳句コンテス短歌の部 20首連作「さかなへんのワニ」

@kurami939

大人には言えないことがいつもある。金枝詩篇祭司殺しのことなど

やりすごせないほどの悲しみは

まだ記憶の底に沈むいそかけ


あの夏の臆病者の鰐の手が

君の背中に触れられもせず


青髪のボーカルの娘の背を抜いて、大人になったつもりのおいら


老いぼれの黒カイマンに食べさせる「お人好しとはお前のことだ」


嘴にあけたくなったピアス穴。

金銀翠のヒヨコ並びて


人間の薄い皮膜を引き裂いて、何色の花も咲けば薔薇色


デスロールみたいな菓子とカバの汗色の浴衣や氷片手に


同胞はアヒル女子よりカエル系6月6日午後雨予報


雨季に入り跳ねるアホ毛を撫でつけて、お気に入りの傘駅に忘れる


水面に浮かぶ背中を踏みつけて、向こう岸まで渡るバランス


大人には言えないことがいつもある。金枝詩篇祭司殺しのことなど


水底で光っているのは硝子片。腹と鱗にズタズタに傷。


優しさは上から目線の同情か、偽善者ぶりたい思春期の鰐


梅雨晴れの犬の散歩に出かけ虹。

手足短し恋せよおいら


暗渠では、赤濁の渦の中にいて

這えば転がる石の鋭さ


ぬるま湯に差し込んだ手を掴まれて沐浴桶で揺れる指先


流木は鰐によく似た流線型。削ぎ落とされた百年の枝。


ここで善悪のすべてを裏返す。

水鳥の羽は髪に飾られ。


菱形の蝶は鼻先に揺れ、くしゃみで消えさり跡形もなく


いつまでも共犯者でいたい恋人の目は乾ききり砂の荒涼

























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