5話 うみはひろいな
「……ぜんっぜん寝れんかった。にしてもカザミさん…どっかで聞いたことあるような気がするんよなぁ…」
ソロモニア・コードに宿りし悪魔のゼパルと戦ったウチらは、助け出した受付の嬢ちゃんの計らいで結局宿屋に泊まらせてもろうた。もっとも、ウチはまったく寝れへんかったがな!
「……どういうことや……マジでどういうことや……!」
「おねえちゃん……だいじょうぶ……?」
長く伸ばした……というか多分自分で切っとったであろうやや乱雑な灰色の髪に、赤と黒のオッドアイ。あどけない顔立ちの中に儚さと繊細さを兼ね備えた彼女が、72個はありそうなソロモニア・コードの一つに宿る悪魔マルバスの契約者、アレナ・スタークロウちゃん。そんなアレナちゃんに心配されて、ようやくウチは正気に戻った。深夜テンションって怖いわぁ、ホンマ。
「まーでもこの黒江亜久里享年17、生前寝ずに明かした夜は数知れず…」
ボケーっとはしてられへんな、はよ図書館のある街へ行こ。
~~
「…なぁアレナちゃん、ヒヒイロにはどーやって行くんやったっけ」
「えっと…確か、地図には…隣町の、サムアツっていうとこに、船頭さんがいた…はず」
なるほど船かぁ…
(…ウチむかしっから船酔いするんよなぁ!大丈夫かなぁ!?)
「おねえちゃん、大丈夫?」
あー………はっ、あかんあかん。お姉ちゃんたるウチが心配かけられてどないすんね。
「なんでもないで、おおきにな」
「オーキニ……?」
「ウチの故郷で『ありがとう』って意味やで」
せやった、関西弁は異世界では通用しにくいんや……
~~
「サムアツの場所……こっからどれくらいや……」
「ん?サムアツに行きたいの?ちょうど私も用事があるし、よかったら案内するよ」
わーお、渡りに船とはこのことや。フード被った親切な姉ちゃんが案内してくれることになったんや。
「おおきに!」
「おねえちゃん、その、えっと…おーき、に?」
しまった、結局おおきにって言ってもうた!…ただアレナちゃんもたどたどしく真似してたから、ギリ感謝の意は伝わっとる…はず!
「おおきに、かぁ…懐かしい響きね」
そう言った姉ちゃんはフードを取り、素顔を見せる。
「そ、その顔…」
「あっ、昨日のおねえちゃん!」
ウチよりも先にアレナちゃんが反応する。なんとびっくりフードの姉ちゃんの正体は、昨日の王宮騎士、カザミさんやったんや!
「やだなー、お姉さんそんな怖いかなー…んー?」
ケラケラと笑った後、カザミさんはじろじろとウチの顔を見始め、さらにはこんな問いも投げかけた。
「……木枯そよって、知ってる?」
「そよ…そよ……もしかしてアンタ、そよちゃんのお姉ちゃんにして大阪府警期待の新星、木枯風美婦警!?」
そうか!やっと点と点がつながった!どっかで聞いたことあるな思てたら、クラスメイトのそよちゃんのお姉ちゃんやったんか!いやぁ~、スッキリしたぁ~!
「ま、『元』期待の新星だけどね…」
「あ、殉職…」
「しーっ、死人に口なしってことで……」
まぁ、人には人の事情があるってわけだし、これ以上詮索するんも野暮ってもんやな。
「……カザミおねえちゃん、アグリアおねえちゃんのこと知ってるの?」
「亜久里……アグリアは前に私の妹と仲良くしてくれてたんだ」
ちゃんとアレナちゃんと目線を合わせて返答しとった。子どもに優しいのは、向こうでも相変わらずみたいやな…
~~
サムアツに着いたウチらは、カザミさんからある忠告を聞いた。
「さ、ついたよ。あとは船頭さんに頼んで船を出してもらってね……アレナちゃんのことを考えたら、グルーアさんのとこに行くのが一番安全かも」
カザミさん曰くソロモニア・コードは、本来なら歴史の闇に葬られるはずの超危険なマジックコードとのこと。まぁ炎ライオンことマルバスの暴れっぷりを見るとなーんか納得がいくなぁ。
「じゃ、またどっかで会おうね。マジックコード、『イーグルウイング』!」
「あ”ー!!職権乱用!!」
裏切りのカザミさんは翼を広げてフライアウェイ…ウチが叫んだ頃には、カザミさんは空高く上がってもうた。
~~
「お邪魔しまーす…」
邪魔するなら帰ってや~、ってリアクションをほのかに期待しながら、グルーアさん家のドアをノックする。そしたら…
「俺がタルジ・グルーアだ!なんだ?船に乗りたいのか?」
…なんと10歳くらいの若干日に焼けた少年が出迎えてくれた。
「あー…パパはいるかな?」
うん、まさかな。こんな年端もいかない子どもが船頭なわけないよな。
「子どもだからってなめんなよ!俺でも船は出せる!」
…そのまさかでした。
「わざわざウチに頼むってことは、アンタか隣の子が訳ありってとこだろ?
…特に隣のちっちゃい方」
直感か否か、タルジ君はアレナちゃんのことを見抜いた。
「…どういうことや」
「簡単なことだよ。ウチにもいたからな…船出の前にちょっと来い、フォルネウスについて教えといてやるよ」
「なに!?フォルネウスだと!?」
フォルネウス…その名を聞いた途端、ゴエティアからマルバスの声が聞こえた。そーいやフォルネウスも72柱やったな。
「ライオンさん、知ってるの…?」
「ソロモニア・コードNo.30、『深海の白鰐』フォルネウス…水中においては敵なしと言われた、海の漢だ」
「…やっぱりな。そんな気はしてたんだよ。ま、知ってるんならそっちの悪魔に聞いてくれ…さ、船出すぞ」
タルジ君がめんどくさそうに呟いた。
~~
「…うせやろ、ぜんっぜん船酔いしない」
なんとウチが酔いを感じないほどに、船は進んでおった。どういう理屈やと操縦席を見ていたら、とんでもない光景が映っていた。
「へへーん、すごいだろ?何を隠そうこの操縦プログラムを作ったのは俺だし、俺にしか扱えないんだ!」
一瞬『すごっ…!』とは思ったで…ただ製作者にしか扱えないのもどうかと…
「もうすぐ着くぜ、準備しとけよ!あ、あのでっけぇタワーが図書館だ!」
大きなタワーが見えるなー…って、
「うせやろ、あのタワー全部図書館!?」
でかすぎるやろ…通天閣の何倍あるんや…!!
ソロモニア・コード〜ギャルと少女とおともだち〜 884 @884DYNAVOLT
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