第4話 ゴーストナイト・バスターズ
「――各員散開です! それでは作戦通りに!」
リルベットの号令が地下倉庫内に轟く。私は数歩前に出て
『……お……ッパ…………!』
案の定ガシャガシャと音を立てながら私へと進んできた。
しかも本を障害物と認識しているのか、器用にそれらを避けて向かってくる。
「うお……っとっと、っす!」
しかしここでシュベルトさんが、少し躓いて足下の本の山を僅かに崩す。
薄暗い場所だし、足場も狭いから仕方ない――のだが。
その光景を見た幽霊騎士が動きを止め、標的を私からシュベルトさんに急変更する。
『……マ、マオウガー……ロケット……バスト……!』
甲冑の胸部が開いて……ミサイルのようなものが発射された!?
「はぁぁ!? なんすかその技!? ぜんぜんゴーストっぽくな――って、めっちゃ追いかけてくるっすうううう! 何とかしてくださいっす宮本さああああん!」
シュベルトさんがミサイルに追尾され、必死の形相で地下倉庫を走り回る。
というか『おっぱい』以外に喋れたんだ。あと走ると埃が舞って……っごほごほ。
「こらシュベルトライテ! なぜ持ち場を離れるのですか!」
「見りゃ分かるでしょーが! 宮本さん宮本さん宮本さぁぁぁぁ――ん!」
いきなり作戦が狂うが、まずはヘルプと連呼するギャルキューレを助けなくてはっ。
「絶花ちゃん! おっぱいだよ! おっぱいで幽霊騎士の注意をひいて!」
焦った部長から、早く早くとそんな指示が飛んでくる。
「……これは仲間のため……これは仲間のため………」
陽動係と言われて、策の一つとして用意したとっておき。
私はシャツのボタンを外すと、恥ずかしさに耐えながら思いっきり胸元を開く。
こ、これで相手の意識は私に釘付けで――
『……………………』
幽霊騎士、ガン無視。あれれ。うんともすんとも言わないですけど。
「み、宮本さんッ! こうなれば生おっぱいッ! サラシも全部取るっすッ!」
「そ、それはちょっと……」
「なんのためにそんなデカイおっぱい育てたんすかぁぁぁ――!」
少なくともここで見せるためではないですね。
「絶花ちゃん! こうなれば一緒に抑えに行くよ!」
部長が幽霊騎士へと飛びかかり、後ろから羽交い締めにしようして――
『……カイヒ……ユー……エフ……オー……モード……!』
相手は何か呟くと、瞬く間に上半身と下半身の二つに……今度は分離した!?
飛びついた部長はその身体を摑み損ねて、勢いそのままに地面へずっこける。
「ぶ、部長さんがやられたっす――って、あいたあああああああ!?」
シュベルトさんの頭にミサイルが直撃、爆発はしないが鈍器で殴られたような音がした。
身体を二つにした幽霊騎士は、続いて私を対処しようと動く。
上半身の下部からは
「致し方なし! 絶花! あなたも闘気を使いなさい――!」
リルベットが状況悪しと判断し、後方からハンマーを掲げて叫ぶ。
私は僅かに闘気を纏うと、まずはと幽霊騎士の下半身を足刀で弾いたが――
「か、硬っ!? 一体どんな素材で……傷すら入ってない……!」
私の反撃を受けたからか、残った上半身は、複雑な動きを混ぜながら迫ってくる。
生半可な力では展開を長引かせるだけだ。私はそう思って更に闘気を出すと――
「っ! 絶花! 後ろです!」
闘気を纏ったせいで周囲が振動、私の背後に積み上げられた書物が崩れそうになる。
このままだと生き埋め――でも逃げれば幽霊騎士に隙を見せることに――
『…………!』
すると相手は血相を変えた様子で、私への攻撃を中断して揺れる本の山へ飛ぶ。
そして上半身を山肌に押しつけるようにして崩壊を食い止めた。
「私を……いや、本を、守った?」
そういえば器用に保管物だけは回避していたけど……。
「いたた……って、な、なんか揺れが大きくなってない!?」
痛む頭を抑えつつ、起き上がった部長が周囲を見回しながら告げる。
もともと絶妙なバランスで積まれていた本たちだ。シュベルトさんや部長が派手に動いてはいたが、私の闘気解放が決定打となり、四方八方から崩壊が始まったのだ。
「あ! ぶ、部長! そこからすぐ逃げてください!」
彼女の横に高く重ねられていた書物が傾き、このままでは落下直撃で――
「う…………って、あれ? あたし助かった?」
見上げる部長、そこには幽霊騎士の下半身が盾となっている姿があった。
『……ハード……モード……ジッコウ……』
しかし全体の崩壊が止まったわけではない。それを見て彼女は胴体だけでなく、手や足などあらゆるパーツを分離した。各部ちりぢりとなって崩れそうになる本の山に飛びかかり、どうやら崩落を止めようとしているらしいが――
「……! みんな、手伝おう!」
助けられた部長が思わずと本の山に飛びついた。
彼女がそう動いてしまえば、私たちも同じようにそうするしかない。
それから皆で必死に押さえていると…………本の揺れが止まった?
「や、やったね――!」
部長がそう口にしてしまうほど、奇跡的な協力プレーだった。
『……っ……ッ……!』
元通りにくっついた幽霊騎士が感謝を伝えたいのか、何度も何度も頭を下げてくる。
「いいって、いいって! あたしも助けられたし!」
それから四人と幽霊騎士でハイタッチする。
あれ、最初の目的を忘れてるような? なんで助け合ってるんだろう?
「――変な物音がすると思ったら。ここで一体なにしてるのさ」
カツカツと階段から足音がして、現れたのは地下書庫の管理者である――
「「「「ベネムネ先生!」」」」
私たちは彼女に団子状態で詰め寄り、今までの経緯を語るのだった。
「――で、大掃除していたら幽霊騎士が出たと」
「おっぱいって呻くんです! 最後は技名みたいなことも叫んでたけど!」
部長が声を張る。それを聞いて先生は首を傾げた。
「おっぱい? そんな馬鹿な――」
『……お……っ……ぱ…………い」
「本当だ。最近メンテしてなかったら誤動作してるのかね」
先生はそのオカルト的存在に恐れる様子もなく近づくと……殴った!?
「なにせアザゼルとアルロマスの合作だからね。叩けば直ると思って」
頭を小突かれた幽霊騎士は、目眩でもするように兜の奥が何度が点滅する。
甲冑の各部位も別々に動いていて、傍から見ると本当に壊れた機械みたいで……。
「そうさ。こいつは機械だよ」
「「「「え!?」」」」
私たちの驚きを肯定するように、幽霊騎士は変な動きを止めてこちらを見る。
『――システム再起動――書記長ベネムネ様を認識――』
甲冑の中から、女性のクリアな声で、機械的な言葉が発せられる。
『お待ちしておりました。私は人型お助けロボのエックスシリーズ三式。識別名称パラディン・インデックスです』
すると彼女は流暢に私たちに挨拶をしてきた。
「こいつは地下倉庫に誰かくれば必ずこの挨拶口上をするんだ」
何度も聞いているのか、ベネムネ先生は肩を竦めた様子を見せる。
「これが『おっぱい』って言葉の正体だろうね」
どういう意味かと、まだ飲み込めないオカ剣メンバーに先生は笑う。
「〝お”待ち――エ〝ッ〟クス――〝パ〟ラディン――〝イ〟ンデックス――誤作動してたせいで、たまたま『おっぱい』としか聞こえなかったんだろうね」
そんな馬鹿な! ここで同じ騎士だとやる気になっていたリルベットが口を挟む。
「おっぱいに未練に持つ騎士でないと……ならば彼女は一体……」
「ここの守衛さ。グリゴリにとって貴重な資料を保管してるからね。ネズミ一匹入れないほど強力な結界は張ってあるんだけど、アザゼルたちがお試しにって機械人形をくれてさ」
「……わたしたちはおっぱいの大小で狙われました。それはどう説明するのです?」
「侵入者が現れた場合、戦闘能力が高い者から対処するよう設定されてるんだ。オカ剣なら絶花が一番、リルベットがその次、うまーく力を隠してるシュベルトライテは三番手」
「あたしは!? あたしはなんで狙われないんですか!?」
「アタシがあげたここの鍵持ってるでしょ。あれで管理者の一人として認識されてるさね」
おっぱいのサイズで判別されていた、その真相に説明がついてしまう。
「「「「そんなぁ……」」」」
私たちの頑張りって一体……先生もそれならそうと言っておいてくださいよっ!
「やっぱりというか、ロクでもないオチがついたっすね」
「……不覚! このハンマーを握った手をどうすれば! 絶花っ!」
「い、いや、ハンマーで勝負とかしないですよ?」
「勝負の前に掃除の続きしなきゃだよ! まだ何も手をつけてないし!」
私たちはぐるりと地下倉庫を見回した……来た時以上に乱雑になってしまった。
こうなればと全員の考えは一致して、揃ってベネムネ先生に視線を向けた。
「な、なんだい……?」
「「「「大掃除、手伝ってください!」」」」
「い、いやぁ、アタシは片付けメンド……あ! これから学校の仕事があってさ!」
「「「「そ・う・じ・し・ま・しょ・う!」」」」
そもそも保管の仕方が雑すぎるのが悪い。駄々をこねる先生も掃除組に加わって、あと幽霊騎士……じゃなくて、守衛であるパラディン・インデックスさんも手伝ってくれた。
「――これで刀剣たちも満足すると思います」
地下倉庫を掃除してその場で一息、旧武道棟の整理整頓はついに完了したわけだ。
「やっと終わったっすー。てか働いてめちゃお腹ペコペコなんすけどー」
彼女はミサイルが当たってできた、頭のたんこぶを押さえながら先生をジロリと窺う。
空腹が襲ってきたのは全員一緒で……私たちもついつい先生を見てしまう。
「いやぁ、掃除のお礼にご飯連れて行きたいんだけどぉ、今月はちょっとピンチでぇ」
彼女はお財布事情がとおどけるが『絶対勝てる! アザゼル式麻雀!』をさりげなく隠し持っているのを目撃した。まさか教師が賭け事などしないと思うけど……。
『書記長ベネムネ様。こちらの資料をどうぞ』
「守衛がなんだい……って、こ、これは、ヘソクリを隠してた『
『これで皆様とお食事に行けるかと。それから私の燃料のご購入もお願いいたします』
地下倉庫をほったらかしたからか、それとも先ほど殴られたからか、ロボットに手痛い反撃をもらう先生である――彼女は逃げ場なしとフラフラ床にへばってしまう。
「くぅ~! 分かった! でも今日はありったけ飲むから! 介抱頼んだよ!」
「「「「はーい!」」」」
食事に行くことも決まり、私たちは地下倉庫から出ようと、階段を上っていくが――
ガタガタ!
最後尾にいた私の耳にだけ、何かが動いたような物音が聞こえてきた。
倉庫は隅々まで片付けたばかり、しかも先生曰くネズミ一匹すら入れないはずで……。
「絶花ちゃん! 早く早くー!」
空腹が限界なのか、部長たちが立ち止まっていた私を催促する。
「き、気のせいだよね、本当にお化けがいるとか、そんなわけ……」
私は頭を振って皆の元に駆ける。お腹一杯になれば不安だって吹き飛ぶはず!
……で、でも、今度ゼノヴィア先輩に、一応ゴーストの倒し方は教えてもらおうかな。
(終)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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