第3話 騎士の大作戦
全員が肩で息をしながら、今し方のことを振り返る。
「あ、あんなの……前はいなかったよ……!」
部長が前回ひとりで地下倉庫に行ったことを回想する。
「まさかゴーストが出るとは驚天動地。オカルトな部ですからおかしくはありませんが」
「な、なに、余裕ぶってるんすか、リュネールさん僕並に逃げ足速か早かったっすよ」
私も驚いたのは一緒だ。霊的な場所ならともかく学校に出るなんて。
「ソーナさんの話だと、高等部には七不思議があるらしいけど……」
部長によると高等部の方にも、深夜の音楽室やトイレなどで、ゴーストの目撃情報があるとか。しかし先輩たちの話は一旦置いておいて――
「ど、どうしますか、あの地下倉庫の……
甲冑で騎士というとリルベットとの出会いを思い出す。
……今回の相手はもはや人間ではないけど。
「ふむ。おそらくあれは、おっぱいに未練を残した騎士の亡霊でしょうね」
同じ騎士としてと前口上して、彼女は知った口ぶりでそんな予測を立てる。
「彼女は『おっぱい』と発しながら襲ってきました。特に絶花とわたしを狙っていた気さえもします――なぜか! これすなわちバストサイズの格差!」
彼女はビシッと一同のおっぱいを指さす。
大変不本意だけれど、オカ剣の胸のサイズを上から並べてみると私が一番大きい。
そしてリルベット、シュベルトさん、部長という順に続く。
「ほんとっすかー? おっぱいに未練のある女騎士とかこじつけじゃないっすかー?」
「シュベルトライテ。ひがむのはやめなさい。なに貴公の胸も必ず成長しますよ」
「誰がひがむかー! リュネールさんのおっぱいだって宮本さんに負けてるくせに!」
「い、言いましたね……! 絶花のおっぱいが反則級なのだから仕方ないでしょう……!」
二人は私のおっぱいがどうこうと口論を始める。やめて私のおっぱいで争わないで!
「あの幽霊騎士をなんとかしないと、地下倉庫を片付けられないよねぇ」
二人のこの取っ組み合いはいつものこと、部長は冷静にこれからのことを思案する。
「よし! まずは相手のことをよく調べよう! 敵を知らずして勝利なし!」
と、五輪書を片手に宣言する……それ持って来ちゃったんですね。
「ひとまずリルちゃんの考えを参考にしてみよっか!」
「いいっすよ。おっぱいゴースト女騎士なんてどーせ勘違いっす」
珍しくシュベルトさんが乗り気で、先ほどのバスト順で一人ずつ地下へ行くことに。
リルベットの言う通りなら、私が過剰に狙われることになるが――
『……おッ……パ…………イ……!』
はい。地下に下りてすぐに襲いかかってきました。
彼女は腰に差した剣まで抜いてきて……今回は調査なので戦わずに地上へ即退避する。
それからリルベット、シュベルトさんと続くが――
「僕が間違ってたっす……確かに、おっぱいって呻きながら襲ってきたっす……」
「シュベルトライテ。先はわたしも言い過ぎました。絶花に負けず共に励みましょう」
二人も同じように、相手におっぱいという言葉を吐かれたようだ。
最後に部長が地下倉庫へと潜入すると……。
「――あたし、何もされなかったよ」
ケロッとした様子で部長が帰ってきた。
「てかまったく動かないし! そりゃあたしのおっぱいは小さいけどさぁ!」
あそこまで無反応だと逆にショックだよ、と部長が悔しがる。
「――決まり、でしょう」
リルベットが、自信満々に持論が当たっていたのだと頷く。
「やはりあの騎士は、おっぱいに反応して動く、おっぱいに未練や恨みがあるのです!」
「まーたトンデモな事件っすね。宮本さんの神器でちゃちゃっと斬ってくださいよ」
「甲冑の下におっぱいがあれば斬れますけど、肉体の気配はなかったような……天聖、いける?」
『鉄なんか斬りたくなーい。おっぱいしか斬りたくなーい』
「そんなぁ! 頼むよ天ちゃーん! あたしのおっぱいが馬鹿にされたんだよ!」
部長が私の胸の中にいる天聖にすがる――というか、おっぱいに頬を擦り付けてくる。
「……しっかし、絶花ちゃんホント大きいね、何かめちゃくちゃ良い匂いするし」
「か、嗅がないでください! あと天聖もこの調子なので仇討ちも諦めてください!」
調査結果をまとめると、やはりバストが大きい順に幽霊騎士の対応度が上がる。
一番警戒されるのは私だ。そして部長に対しては無反応だった。
「で、でも、不思議と、殺気は感じないんですよね……まず本当に敵なのか……」
あの幽霊騎士は剣まで抜いてきたが、私を排除はしても傷つけようという闘志は感じない――それこそ最初いつの間にか接近された時も、私の直感が働かなかったぐらいだ。
「でもこのままだと地下倉庫が使えないからねぇ」
部長が悩ましげに顎に手をやる。
「絶花ちゃんさ、神器使えなくてもさ、普通に実力で倒せちゃえないの?」
「そ、それなりに手強そうな相手です。なんとか倒すにしても地下倉庫が戦場に……」
「あれらの価値ある書物を斬るわけにはいきません。まずゴーストを転移させては?」
「残念ながら転移防止の結界が張られてるっす。セキュリティの高さが仇になったっす」
つまり地下倉庫内で、幽霊騎士の件を片付けるしかない。
ようやく旧武道棟も綺麗になってきたのに、最後の最後で大きな障害が現れた。
「わたしの知見によれば、ゴーストは力で退治するか、説得して成仏させるかです」
リルベットが大きな二択を提示するが、今回は資料を守るためにも戦闘は避けたい。
「それに未練があるなら解決してあげたいよね! 満足してここを去ってもらおう!」
困っている人がいたら助ける、部長はその信念で後者を選んだ。
もちろん他部員の私たちも異存ない。こうなれば綺麗さっぱりに成仏してもらおう。
「あとは、彼女にどんな未練があるかっすね」
あのゴーストは『おっぱい』としか喋れない。言葉でやり取りするのは難しいだろう。
「あたしが思うに、自分のおっぱいがコンプレックスだったんじゃない?」
「ふむ。確かに甲冑の形状からして、生前は巨乳ではなく貧乳だったと見受けられます」
色々と予想は立てられるけど……現時点の最有力説としては、生前の彼女はおっぱいの大きさに悩まされていたのだと結論づけられる。
「となれば対処法は明確。貧乳であった彼女を巨乳にしてしまえば事件は解決です」
リルベットが言うのは確かにもっともで、部長もそれを聞いて大きく首を縦に振る。
「それで満足して成仏するなら良し! ダメならまた他の策を探そっか!」
で、具体的にどうやって幽霊騎士を巨乳にするかという話だけど……。
「――同じ騎士としては、今回わたしが先頭に立つべきでしょうね」
リルベットが妙にやる気を漲らせながら口を開く。
「心配せずとも名案があります。この旧武道棟に工具一式はあるでしょうか?」
それから部長が工具箱を持ってきて、リルベットはその中にあったハンマーを手に取る。
彼女は一体なにをしようというのか、首を傾げる私たちにその眼帯の奥が光る。
「あのゴーストの魂は甲冑に宿っている。つまりは甲冑が本体なのですよ?」
リルベットは自信満々に続きを語る。
「わたしはこのハンマーで、彼女の甲冑を巨乳仕様に打ち直します!」
「「「は?」」」
「絶花が陽動、部長があの騎士を取り押さえ、そこからシュベルトライテが炎魔法で加熱する。素材が柔らかくなったところを、わたしがハンマーで叩いて甲冑の形を変えてしまう――まさに完璧なプランでしょう?」
騎士様は正気でしょうか……ふざけてないで真面目なのが逆にすごいよ……。
「えっと、リルちゃん、それって甲冑そのものを加工するってことだよね?」
「いかにも」
「その、鍛冶の経験とかって……」
「ありません! しかしわたしの美的センスをもってすれば余裕綽々かと!」
もうメチャクチャだよこの人。あと美的センスを自慢するけど無自覚な厨二病だし。
「と、というか、もはや説得して成仏でなく、それだと力技で退治するのと一緒――」
「それは違います絶花! この作戦は騎士道がわたしに授けた天啓なのです!」
と、ハンマーを高速で素振りするリルベットが吠える。
「オカ剣のチームワーク! そしてわたしが持ったこの鉄槌――ダーク・ドラゴニック・メテオ・ハンマーを使って、必ずや事を成し遂げましょう! 震えて待っていなさい幽霊騎士よ!」
ダークなんちゃらハンマーを振り回しながら、派手に高笑いするリルベットである。
「同じ騎士として彼女に引導――いえ、大きなおっぱいを最期の手向けとして渡してみせます!」
……幽霊騎士よりも、まずは仲間の騎士をどうにかした方がいいかもしれません。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
今回の短編は、次回が最終回! お楽しみに!
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