第11話 新たな戦いホ!

 ジドリーナ帝国問題が解決した後、今北市を襲う悪の組織は現れなかった。そして安全を確認後、トリもまた魔法少女組織の本部へと帰る事になる。


「キリカ、お別れホ」

「私は行かなくていいの?」

「君はこの街を守るために戦っていただけホ。もう役目は終わったんだホ」

「そっか。じゃあ、さよなら。元気でね」


 キリカは魔法少女の力を失った訳ではないし、戦いの記憶も残っている。ただし、魔法生物が力を貸さないと魔法少女にはなれないため、トリと別れた事によって実質的に魔法少女も卒業する事になった。


 一緒に戦ったユカリとルイとは、共闘が縁で交流を続けている。キリカは、ジドリーナ帝国との戦いで感じた違和感を2人に吐き出す事にした。


「結局ジドリーナ帝国の国家存亡の危機がベースにあった訳じゃん。ああ言うやり方しかなかったのかな……。私なんて死にかけたんだよ」

「最後はうまく利用された感じがするっスね」

「もしかして、最初からみんなグルだったとか? キリカちゃんはそう言いたいんでしょ」

「まぁもう終わった事だし、いいんだけどね」


 熱い戦いの記憶も時間が経てば薄くなっていく。仲間同士の会話も、いつしか共通の話題である魔法少女時代の思い出話から、普通に趣味や勉強、将来、恋愛の話などに移っていくのだった――。

 キリカは今回の事を忘れてしまう前に、魔法少女時代の体験を日記に書き留めておく事にした。自分だけの青春の1ページを、いつでも思い出せるように。


「こんな話、誰も信じてくれないだろうな……」



 そして、何事もなく25年が過ぎていく。キリカも恋愛を経て結婚し、名前も麟翁寺キリカから平岡キリカに変わっていた。

 彼女にもまた子供が産まれ、その子も元気にすくすくと育ち、いつの間にか14歳になっていた。キリカが魔法少女になった年齢だ。


「ゆまも14歳かぁ、早いなあ。この間までこーんなにちっちゃ」

「そのボケ聞き飽きたから」


 キリカの娘のゆまはまさに元気いっぱいで、毎日はしゃぎまわっている。この平和を守ったのは自分なんだと、キリカは平穏な日々を送れている事を誇りに思っていた。

 ゆまが14歳の誕生日を迎えて数ヶ月が経った頃、彼女がキリカの前に目を輝かせながらやってきた。


「母さんって、昔魔法少女だったんでしょ」

「え?」


 この突然の不意打ちに、キリカはピタリと体が固まる。自分が魔法少女だと言うのは誰にも話していないはずだと、娘の言動の理由を推理し始めた。ただし、動揺が勝っていたので中々考えがまとまらない。

 彼女が冷や汗をたらりと流していると、ゆまがその答えを笑顔で自白する。


「日記読んじゃった。母さんすごかったんだね」


 キリカは来るべき日が来たと、ゴクリとツバを飲む。その日がいつ来てもいいように、以前からシミュレーションはしていた。今がその時だと、日記をフィクションだと言い張る作戦をスタートさせる。


「あの話、信じちゃったの? あれはね……」

「だって私も魔法少女になったんだもん」

「え?」


 娘から返ってきた斜め上の展開に、キリカの目は点になる。そこに追い打ちをかけるように、彼女の言葉を裏付ける決定的な証拠が飛んできた。


「お久しぶリホー!」

「トリーッ! 一体どう言う事なの? ゆまに何させてんの!」

「また今北市を襲う敵が現れたんだホ!」


 どうしてまた地元が襲われるのか。地元には敵が襲いたくなる何かがあるのか。色々魔法生物に聞きたい事が山盛りに出てきたものの、まずは現状把握と言う事でキリカは努めて平静を装う。


「今度はどこが襲ってきてんの?」

「現役魔法少女以外には教えられないホ」


 トリはため息を吐き出してキリカを軽く部外者扱い。その態度にキレた彼女は彼の顔の両サイドを握り拳で挟み、グリグリと強い圧をかけた。


「痛っ、痛いホー!」

「さあ何もかも吐いて楽になりな!」

「分かったから止めるホー!」

「説明なら私がするよ!」


 と言う事で、今の地元のピンチをゆまが説明する。現在今北市を襲ってきているのは『ジッシャーカ連合国』。ヤバイヨーと言う魔法ゴーレムを使って、地元を侵略しようと目論んでいるのだとか。

 ゆまは半年前にトリにスカウトされて魔法少女に変身。今も密かに地元を守り続けていると言う事だった。


「母さん知らなかったよ。気付かなくてごめんね」

「まぁ秘密にしてたし」

「トリも何で教えてくれないの!」

「現役魔法少女以外は部外者だからホ。キリカにはもう戦いとは無縁であって欲しかったんだホ」


 トリはキリカがかつて魔法少女だったと言う事は黙っていたものの、ゆまが日記を見つけてしまい、ごまかせなくなったのだとか。

 こうしてすっかり事情が分かった事で、キリカはニッコリと鋭い笑顔をトリに向ける。


「な、なんだホ……。その目、怖いホ……」



 その日のジッシャーカ連合国の襲撃現場には、14歳の魔法少女ゆまと39歳の魔法少女キリカがいた。娘を心配したキリカが、トリに無理やりものすごい圧で頼み込んだのだ。

 母娘2人は揃いの可愛らしい魔法少女衣装を身にまとって、敵幹部と対峙する。


「母さん、本当に大丈夫なの?」

「平気平気」

「いやその衣装」

「平気平気!」


 キリカはもはやその服が似合う年齢ではない事を自覚しつつ、気合で現実を見ない事にした。幸い、体型的には着られるスタイルだったので、顔をお化粧テクニックと言う物理的な魔法を駆使する事で違和感を最小限にする事に成功している。

 とは言え、そんな彼女を目にしたジッシャーカ連合国四天王の1人、至天アラタは、容赦なくぶっこんできた。


「オバさん魔法少女とかプププー! 魔法オバさんじゃん」

「うっせえわ!」 


 彼の一言にキレたキリカは一瞬で間合いを詰めて、必殺の魔法攻撃を撃ち込む。その速さに全く対応出来なかったアラタは、為す術もなく一撃で空の彼方に呆気なく吹っ飛んでいった。


「フンギャアーッ!」


 空の彼方にキラーンと光の粒になっていく四天王を見届けながら、キリカは腕を腰に当てて鼻息荒く勝利のポーズを決める。


「こちとら永遠の14歳じゃいっ!」

「母さんすっごーい」

「腕は鈍ってなかったホね」


 こうして、地元を襲うジッシャーカ連合国を前に母娘二代の魔法少女が立ち向かう事になった。母は娘の成長を喜び、娘は母の実力を尊敬する。戦いを通じて、親子の絆もますます深まっていくのだった。

 この2人のタッグの前に敵はなく、残りの四天王も呆気なくノックアウトされていく。地元が平和になるのも、そんなに遠い日ではない事だろう。



(おしまい)

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魔法少女キリカ にゃべ♪ @nyabech2016

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