第10話 ついに最終決戦ホ!

 キリカの目の前に久しぶリにバエンナーが現れた。姿はミツバチのような昆虫タイプ。早速駆除に向かうと、バエンナーは速攻でその場から逃げ出した。


「ちょ、何で逃げんの!」


 キリカはすぐに追いかける。バエンナーはたまに後ろを振り返りながら逃げに徹していた。それはまるで、彼女がついてきているのを確認するかのよう。

 キリカは追いつこうと必死に飛ぶものの、どうしても追いつけない。そんな彼女をトリも必死に追いかけていた。


「これ以上早く飛んだら追いつけないホー!」


 そんな追いかけっこの末、バエンナーは空中に浮かぶ謎の黒い空間に吸い込まれていく。流石に流れに任せて突入するのはマズいと、キリカはブレーキをかけた。


「痛っホ! 一体どうしたホ?」

「バエンナーが怪しい空間に飛び込んだんだよ」

「ホゥ? 確かにこれは怪しいホねえ」


 トリは額を擦りながら目の前の怪しい空間の歪みを眺める。今まで大抵は何でも解析してきた彼も、この現象には答えを出せないようだ。

 やがて、別方向から鷹のような姿をしたバエンナーが飛んできて、キリカ達の目の前でまた謎の空間に吸い込まれていく。ワンテンポ遅れて元気な声が響いてきた。


「あーっ! 逃げたっスー!」

「ユカリ?」


 そう、それは後輩魔法少女のユカリ。と言う事で、彼女の相棒も顔を出した。


「また会ったニョロね、オレンジまんじゅう」

「お前も元気そうで何よりホ! 青デカミミズ」


 魔法生物同士がメンチを切る中、魔法少女同士は顔を見合わせて微笑み合う。次の瞬間、また別方向からバエンナーが飛んできた。今度はエイの姿をしたヤツだ。こいつも謎空間に飛び込み、それを追いかけていた魔法少女も姿を表す。


「逃げられた……」

「こうなったら、あの中に飛び込むしかないモン!」


 別方向から飛んできたのは、長い黒髪が美しい文学少女っぽいメガネ魔法少女。背もキリカより高く、スレンダーな体型だ。衣装は白を基調としていて清楚感が半端ない。スカートの下にスパッツを履いていない事から見て、キリカと同じ魔法行使スタイルなのだろう。

 彼女の相棒はうさぎに似た魔法生物で、当然トリ達とも面識があった。


「あんた達もここに来てたの? じゃあこれ絶対ハメられたモン!」

「カーディ、元気そうで何よりホ」

「そんな挨拶してる場合じゃないモン! 何であんた達ここで立ち止まってるモン? 早く飛び込むモン!」

「や、でも大丈夫ニョロか?」


 うさぎの魔法生物はカーディと言うらしい。お転婆少女系の性格のようだ。彼女はこの空間への突入を強く主張する。

 トリもナーロンも慎重論を展開させたものの、勢いで言いくるめられてしまった。


「じゃあルイ、行くモン!」

「わ、分かった……」


 まずカーディーが謎空間に飛び込み、ルイと呼ばれた魔法少女が後に続く。それを見たキリカとユカリもうなずき合うと、続けて謎空間に突入した。


「あ、待つニョロー」

「置いてくなホー!」


 謎空間は転移空間だったようで、6人はすぐに別の世界に出現する。飛ばされたその場所は、星空きらめく真夜中の時間帯だった。


「いきなり夜?!」

「先輩、油断禁物っス」


 2人が周囲を確認していると、カーディーが遠くに見える灯りに気付いてそっちに飛び始めた。


「あんた達も急ぐモン!」

「え? あ、うん……」


 彼女の先導で進む中、清楚系魔法少女が自己紹介を始める。


「あの……私、長谷川ルイ……。川徳で戦ってます」

「私は麟翁寺キリカ。今北の魔法少女」

「私は宝生ユカリっス! 広岡守ってるっス!」


 超簡単な自己紹介が済んだ頃には、灯りの正体が分かる所にまで辿り着いていた。それは街であり、都市であり、国家だった。

 この光景に見覚えのあったトリが目を大きくする。 


「ここはジドリーナ帝国ホ!」

「えっ?」

「あの一番目立つ城に女王スノウがいるモン! 早速向かうモン!」


 カーディーは考えなしにラスボスの本拠地に突進する。仕方なく、キリカ達も後についていった。

 この道中で、ルイが前を向きながら独り言のようにつぶやく。


「キリカちゃんは四天王全員倒したんだし、私達が協力すれば何とかなると思う」

「あ、うん」

「そうっス! 私達がひとつになれば敵はないっス!」


 城に着くと、入り口には四天王が出迎えるように立っていた。ただし、どうにも様子がおかしい。全く戦う気がないようなのだ。

 勢いで先行していくカーディールイ組をスルーしていくのを見て、キリカは首を傾げながらも同じように城内に突入していった。


「あいつら、何もしなかったっス。気味悪いっスね」

「うん、ワナかも知んない。気をつけよう」

「了解っス!」


 結局城内で敵に襲われる事もなく、魔法少女と魔法生物達はあっさり王の間に辿り着く。そこでは、この帝国を統べる女王が来客を待ち構えていた。


「よく来たのう。わらわはこの国の王、スノウじゃ」


 女王はそりゃあもうラスボス感たっぷりのゴージャスな服装をしている。ただ、年齢は若そうで、女子高生くらいの雰囲気に見えた。彼女が魔法少女達を敢えてここに呼んだのだろう。

 辿り着くまで一切バトルがなかった事から、キリカは淡い期待を抱く。


「もしかして、話し合いで……」

「早速じゃが、死んでもらうとするかのう」

「やっぱそうなるんだ」

「どんとこいっスよ!」


 と言う訳で、ラストバトルが始まった。強気のカーディーもバトルでは補佐専用。戦いは魔法少女3人とスノウの3対1となる。

 女王は3人に向けて手をかざすと無数の魔法ビームを放つ。避けるのが間に合わないとそれぞれの魔法生物達がシールドを展開するものの、それらはあっさりと破壊された。


「私が活路を開きます」


 ルイはそう言うと、スノウの側面に素早く回り込みステッキをかざす。彼女の杖の先から氷の塊が具現化されて、一気に女王に向かって撃ち出された。

 その攻撃を目にしたキリカは、目を丸くする。


「無詠唱? すごっ!」

「甘いのう」


 氷弾はスノウが出現させたゴーレムに当たって全て砕け散る。ただ、ゴーレム自体もこの攻撃で破壊された。


「ほう、やりおるの」

「隙ありっスー! 光速粉砕パーンチ!」


 スノウがルイの方に顔を向けている間に、今度は逆方向からユカリのパンチが炸裂。しかしそれも、自動生成されたマジックシールドが完全に防いでいた。


「いったーい!」

「だから甘いと言っておる」


 カウンターを予期した2人の魔法少女はすぐにその場を離脱。キリカの前に集まる。


「やっぱ強いね。何か考えなきゃ」

「3人で力を合わせるっス!」

「じゃあ、私にいい考えがあるよ」


 ルイはその考えを伝えるために円陣を組む。作戦内容を共有したところで、早速3人はそれを実行に移した。

 最初に動いたのは、無詠唱魔法の使い手のルイ。彼女が杖をかざしたところで、スノウがその違和感に気付く。


「うっ、これは拘束魔法かえ?」

「防御出来ないなら攻撃は当たるっスよね! とっておきの流星キックっスー!」


 ユカリは超スピードでスノウに向かってキック。身動きの取れない彼女はそのまま吹っ飛んで壁にめり込んだ。


「ぐふっ!」

「「今っ!」」


 2人がキリカに向かって叫ぶ。ステッキをかざしていた彼女は、狙いを定めて魔法を撃ち込んだ。


「シン・ファイナルレインボーアロー!」


 詠唱と共に生成された七色の虹の光はやがて収束して光の槍となり、そのままスノウを貫く。極大魔法をその身に受けた女王は、体の内側から崩壊していった。


「勝った……」

「やったっスー!」

「え? そんな……殺すつもりは……」


 キリカは、自分の魔法で女王が消滅した事に激しいショックを受ける。バエンナーみたいな人工の魔法生命体は何度も消滅させていたものの、生身の人間をそうしてしまうのは初めての経験だったからだ。

 ブルブルと震える彼女のもとに、ルイとユカリが集まる。


「これは必要な犠牲」

「そうっス、正義のためっス」

「でも……」


 罪悪感に打ちのめされたキリカが顔を上げると、さっき倒したはずのスノウが目の前に現れていた。


「よくやったのう、合格じゃ」

「おばけー!」

「妾が本物じゃ。人が魔法攻撃で消滅する訳がなかろう」

「え?」


 さっき倒したのはスノウが創った本物そっくりの魔法生物だったらしい。真相が分かったところで、キリカは女王の顔を見る。


「私達を試していた?」

「うむ、ついてくるのじゃ」


 狐につままれたような感じでその言葉に従った3人は、城の地下深くにある謎の装置の前に辿り着く。

 そこでは、四天王全員が既に配置についていた。


「この古代魔法次元維持装置をお主らに破壊してもらいたいのじゃ。四天王の力だけでは無理でのう」

「もしかして、今まで私達を襲っていたのって……」

「お主達を鍛えておったのじゃ。この日のためにの。この装置の暴走のせいでこの国は時間が止まっておる。国民は固まっておるし、ずっと夜のままじゃ。助けてくれ」


 四天王もスノウも全く殺気が感じられない。それでこの言葉を信じたキリカ達は、空いている場所にそれぞれが並んだ。


「悪かったな」

「これも仕方なかったし」

「……」

「オデ、女王に従っただけ」


 四天王達は次々にキリカ達に声をかける。その顔は襲ってきた時とは違う穏やかなものだった。彼らの顔を見たキリカは、帝国の問題の解決に力を貸す事にする。


「それでは皆の者、タイミングを合わせて一斉に攻撃するのじゃ」


 スノウの掛け声に合わせて、全勢力を使った攻撃が始まった。膨大な破壊エネルギーによって見事に装置は破壊され、ジドリーナ帝国の時間は流れ始める。目的も果たしたと言う事で、魔法少女達もそれぞれの地元に帰還。

 こうして、ジドリーナ帝国の侵略に怯える日々は終わりを告げたのだった。


「でも、何か引っかかるなぁ……」


 穏やかな昼下がり、キリカは地元の穏やかな海を眺めていた。彼女はこの1件に関して、謎の違和感をぬぐえないのだった。

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