第9話 四天王最後の1人は手強いホ!
キリカの前にジドリーナ帝国四天王最後の1人、ヨーキャが現れた。既に自宅も割れていたのだし、不意打ちでなかっただけマシだとも言えるだろう。
トリの力で魔法少女に変身した彼女は、ステッキを握りしめて攻撃のタイミングを慎重にうかがう。
「アイツの強さもパリピーナとかと同じなんだよね?」
「そうだホ! キリカの敵じゃないホ!」
「分かった!」
強さの確認をしたキリカは先に動いた。一瞬で間合いを詰めてステッキをかざす。
「シン・レインボーアロー!」
ステッキの先から七色の光が放たれて収束。この攻撃が当たれば一撃で仕留められるだろう。発射のタイミングは完璧。彼女は勝利を確信して表情が緩んだ。
「な、何なんだな?」
対するヨーキャは、挙動不審な動きでこの攻撃を避ける。魔法は追尾機能を持っていないので、無関係な所に炸裂して消滅。
この予想外の結果に、キリカは目を丸くする。
「嘘? 避けた?」
「オデ、弱くないんだな」
「攻撃が当たれば倒せるホ!」
「分かってる!」
キリカはその後も魔法を連発。そのどれもヨーキャに迫るものの、全てギリギリのタイミングで避けられてしまった。彼自身は攻撃を見極めて避けている風ではなく、ただの勘で避けてたまたま回避に成功しているように見える。
何故ならその目は焦点が合っておらず、常に口が半開きだったからだ。
「なんで? 何で当たらないの?」
「オデ、そろそろ反撃する」
ヨーキャはふらりふらりとキリカに近付く。その予測出来ない動きに彼女は翻弄された。攻撃は避けられ、ズンズンと強引に近付かれ、キリカは空恐ろしい何かを感じて動きが鈍る。
「ちょ、来ないで……」
「間合いに入ったど」
ヨーキャはニタアと笑うと、ゆらりと姿を消す。次の瞬間にキリカの背後に現れた彼は、魔力を纏わせた手刀を彼女の首元に素早く当てる。
この一撃を受けて気を失ったキリカは、呆気なくその場に倒れた。
「キリカホー!」
「お前も捕まえる。女王の命令」
「ホー!」
こうして、キリカとトリはあっさりヨーキャに倒されたのだった。
「あれ……? ここは?」
気がついた彼女がまぶたを上げると、真っ白で殺風景な部屋に連れ込まれている事に気付く。どうやら、ヨーキャにつれてこられたらしい。
この部屋にはキリカとトリとヨーキャの3人だけがいて、ヨーキャは椅子に座って天井を見つめ、キリカとトリは拘束されていた。
「私達をどうするつもり?」
「知らない。女王の命令だから」
「もう食べられないホ……」
この状況で、トリは幸せな夢を見ているようだ。キリカは視線を落として、まだ自分が魔法少女衣装である事を確認した。
手足は縛られているものの、彼女の表情はまだ絶望に染まってはいない。
「こんなもの、魔法でちぎってやるんだから!」
「お前、オデより馬鹿」
「なんですってェェェ!」
ヨーキャに煽られたキリカは、全身に魔力をみなぎらせて拘束具を解こうと試みる。しかし、発生した魔力は全て拘束具に吸収されてしまった。
「何でちぎれないの?」
「魔法が吸収されてるんだど。何をやっても無駄」
「うそぉ……」
魔法が無効化された魔法少女は無力だ。使える手段を失ったキリカは、がっくりとうなだれる。
「こう言う場合にどうしたらいいか、師匠に聞いておくんだった……」
「オデ、ずっと見張ってる。お前達、何も出来ない」
「いつまで私達をこうしておくつもりなの? 女王は何がしたいの?」
「だから知らない。オデ、言われた事をしただけ」
どうやらヨーキャに交渉は無駄なようだ。どれだけ言葉を尽くしても、期待していたような反応は返ってこなかった。
この状態が続いて1時間くらい経っただろうか。ヨーキャはすっくと立ち上がる。
「オデ、飽きた」
「は?」
女王の命令で監視していたはずの幹部は、途中でその任務を放棄して部屋を出ていく。この突然降って湧いたようなチャンスに、キリカはトリに向かって叫んだ。
「いつまで寝てんのよ!」
「叫ばなくても起きてるホ。今がチャンスホね」
「寝た振りだったの? まあいいや。何とかして! 私の力じゃ……」
「さっき本部に魔法通信をしたから助けがくるはずホ。もうちょっとの辛抱ホ」
トリは狸寝入りをしながら、この状況を打破する方法を彼なりに実践していたらしい。この功績を知ったキリカは、トリを責めるのを止めた。
「助けって、救助で魔法少女が来るの?」
「それは分からないホ。本部の判断に任せてるホ」
「ちょっと頼りないなぁ。こんな時こそ師匠が来てくれたらいいのに……」
部屋に2人きりになって30分が過ぎた頃だろうか。出ていったヨーキャはまだ戻ってこない。そして、何の気配も感じさせずに部屋のドアが開いた。
「にゃーん」
「え? 猫?」
「ナーコだホ! おーいホ!」
部屋に入ってきたのは、ちょっとメタボ気味の白黒ハチワレ猫。トリの顔見知りのようだから、これが本部がよこした助っ人なのだろう。
ナーコはキリカによじ登ると、手首の拘束を器用に解いた。そして床に飛び降りて、今度は足首の拘束も解く。その手際の良さに彼女は感心した。
「ナーコすごいね。有難う」
「にゃーん」
同じ様にトリの拘束も解いたナーコは、トコトコとドアに向かう。キリカ達も彼女の後に続いた。建物の出口に向かいながら、トリがキリカの顔を見る。
「調子はどうホ?」
「ステッキは出せたけど、魔力の手応えを感じないんだ。まだどこかで力を吸われているのかな?」
「多分、この建物自体が魔力無効化の効果を発揮しているんだホ」
「ここを出る前に敵に会ったらヤバいね」
キリカの心配は、しかし杞憂に終わる。彼女達を拘束していた建物は無人で、出口に着くまで誰にも会わなかったからだ。
建物の玄関が見えてきて、キリカの表情はパアアと明るくなる。
「出口だ!」
感極まった彼女が駆け出すと、前を歩いていたナーコが突然毛を逆立たせた。そして、一番会いたくなかった人影がゆらりと現れる。
「オデ、こうなる事分かってた。今度はもう手加減しない」
「ヨーキャー!」
キリカはステッキを振りかざして魔法弾を発射。威力は格段に落ちるものの、魔法自体は撃つ事が出来た。しかし、やっぱりそれは当たらない。
威力を落として連射モードで対策をしたものの、その全てがことごとく空振りに終わる。
「何でよ!」
「当たらなければどうと言う事はないど!」
ヨーキャはまた不可思議な動きでキリカに迫ってきた。一度やられているトラウマで、彼女の動きは固くなる。
その変化を確認したヨーキャは、また同じように姿を消した。
「嘘? またやられる?」
「にゃーん!」
ナーコの叫び声に、建物の壁を破壊して何かが突然迫ってくる。超高速で飛んできたそれは、聞き覚えのある声で叫んだ。
「光粉砕パーンチッ!」
「うげええ!」
不意打ちをしかけていたヨーキャは、予想外の方角からの攻撃を受けて建物外にまで吹っ飛んで行く。キリカを助けたのは、別の地域で活躍する肉弾戦特化の魔法少女、宝生ユカリだった。
「先輩、無事で良かったっス!」
「ユカリ~、ありがと~」
2人は抱き合い、再開を喜ぶ。しばらくそうしていると、ナーコが急かした。
「にゃーん」
「そうだ、まだ終わってない」
「先輩、一緒に行くっス。四天王にトドメっス!」
2人はお互いに見つめ合い、うなずき合う。そうして、建物の外に飛び出した。どうやらこの建物は寂れた小さな島の中にあったらしく、空き家ばかりの集落と豊かな自然がキリカの目に飛び込んできた。
「私、こんな所にいたんだ」
「先輩、あそこっス!」
ユカリの指の先には、ヨロヨロと起き上がるヨーキャの姿。今なら、あの不思議な回避行動もままならないだろう。
攻撃の間合いに入ったところで、キリカとユカリはうなずきあう。
「シン・ファイナルニードル……」
「灼熱の地獄の拳……」
「「クラーッシュ!」」
キリカの魔法の光の針攻撃と、ユカリの燃える拳の全力パンチがほぼ同時にヨーキャに直撃。四天王最後の1人は自分の許容量を超える攻撃に耐えきる事が出来ず、空の彼方に勢いよく吹き飛ばされていった。
「ぎゃぴりーん!」
ヨーキャが見えなくなったところで2人は勝利を確信、笑顔で気持ち良くハイタッチ。
「「いえーい」」
「にゃーん」
場所が地元でないだけに、2人は魔法少女衣装を解かずにアフタートークに入る。
「どうやってここに?」
「ナーコが呼んでくれたんです」
「へぇ、トリより役に立つかも」
「心外ホ!」
トリいじりで場が暖まったところで、話は情報交換に。四天王全てを倒した事で、ジドリーナ帝国がどう動くかと言う話で白熱する。
この戦いもいよいよ佳境に突入。2人の魔法少女は、いずれ来るであろう最終決戦に向けて決意を新たにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます