見つけたかがやき

「お、男……」

「おれは女子おなごだ!」


 ずっと他人に言わなかった秘密は、思った以上にすんなり吐き出される。産小屋に入れる男は医者だけだし、おれは女子おなごだから、そばに寄っても大丈夫だ。


 少女は安心すると目をつぶった。赤ん坊の声が聞こえないことはわかっているはずなのに、なにも言わない。無事に産まれてくるほうが少ないのだ。


 おれは自分の髪を二、三本抜き、へその緒を結ぶと、腰の刀を抜いて、へその緒を断ち切った。そして、冷えた赤子の体に、そばにたたまれた産湯用の布を巻き付ける。


 このやり方は良いものなのかは知るわけがない。でも、おれは冬に体を温めるときは、乾いた布で体をこする。同じようにすれば、赤子の体も温まるかもしれない。


 その間、少女のホトからは自然に胞衣えな(胎盤など)がこぼれてきた。


「下腹を強くさすってくれ。前見たお産で、取り上げババがやっていた!」


 状況がわからず、ぼう然と座り込んでいる梅野に、おれはさけんだ。


 どうせ、中條様は動いてくれない。だったら、おれがなんとかするしかない。そうでなきゃ、

少なくとも、この赤子は終わりだ。


 おれは赤子の体を一生懸命にさする。ふと、赤子の口の周りが濡れていることに気付いた。おれはとっさに赤子の腰を掴むと、逆さ吊りにした。


 吐け! 水を吐いてくれ!


 すると、ごぼりという音とともに、赤子の口から大量の水が吐き出される。その瞬間、大きなき声が産小屋にこだました。


 おれは、いている赤子を床に寝かせると、体の力が抜けて、へたりこんだ。体中がずきずきと痛む。土間を上がる時にどこかを打ったか? もしかしたら、傷が開いたのかも。


「梅野、赤子を妹さんに連れて行ってあげて。おれは腰がたたない」


 少女の下腹を押さえていた梅野は、赤子を抱きあげると、少女の胸に赤子を抱かせた。おふくろのように、ホトから大量の血があふれることもない。


 おれは一安心して、頭を床に押し付ける。目の端で、中條様がなにも言わずに出ていくのが見えた。


 中條様に助けられたことには感謝している。でも、戦で傷ついた者以外の命はどうだっていいと言うのか? 命に差異があるというのか?


 おれはそんなふうに思いたくない。


「あんた、男子みたいだけど、女子だったんだねえ」


 梅野がおれに話しかけた。おれはうつむいたまま、「あぁ」とつぶやく。


「隣村で逆子のお産があるから、取り上げババは走っていったけど、あんたが代わりに土間を上がって助けてくれたんだ。あんたがいてよかったよ」


 おれは頭を上げた。梅野は赤子の頭をなでると、おれの方を向いた。強い目の光が俺の目を捕らえる。


「なんかわけがあって、女をやめているのかもしれないけどさ。あんたの目、さっき眠りから起こした時よりキラキラしているよ」


 その言葉を聞いて、おふくろの顔が脳裏のうりに浮かんだ。


 ――たつみは人のために走ると目がかがやくんだねぇ。


 目頭を熱いものがこみ上げた。おれは急いで涙をぬぐうと、立ち上がる。


「おれ、産湯用のお湯をもらってくる」


 先程までくだけていた腰もしっかりと立っていた。


 産小屋の外は雲一つなく、月は輝き、大地を照らしている。


「救えたことで仏にでもなったつもりか」


 産小屋に背を預けて、中條様は立っていた。なんと言われようと腹は立たない。


「中條様、おれを助けてくれたのは感謝しているさ。早馬として走れなくなっても、おれは人のために走る。おれにしかできないことはまだあるはずなんだ」


 おれは中條様に背を向ける。かがやく月と星がおれの行く手を照らしていた。

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夢破れた子馬はかがやきを求む【金創女医事始メ①】 栗木麻衣 @Kuriki_Mai

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