だって怠けたいんだもん
白里りこ
だって怠けたいんだもん
頑張りというのは少なければ少ないほど良いと思っている。
最少の労力で最良の結果を出す。最大限に効率的な方法で問題を解決する。それが私の信条。
……なんて言い方をすればスマートに聞こえるけど、ぶっちゃけ私はサボりたいだけだ。ちまちまと努力するよりも、楽をしてダラダラと過ごしたいと思っているだけ。隙あらば怠ける。それが私の生態。
地道にコツコツ勉強するのはヤダ。真面目に部活動の自主練をするのもヤダ。仕事は……サボれないね、さすがに。何せ、怠けて結果を出さないのは御法度だと、私の人生マニュアルには記載されている。
なるたけ怠けつつ、結果はちゃんと出すことが鉄則だ。
とはいえそんな都合の良いことはそうそう起こらない。そこで必要なのが、工夫ってやつ。
私は努力そのものは拒絶しない。何も考えずに漫然と続けるだけの努力は断固拒否するけど、有意義な努力だったらそこそこやる気を出す。
私が好むのは、「少ない手間で成果を得るための工夫をするという努力」。
これには取捨選択と短期集中が肝要であり、極力時間をかけずに目標へ向かうために熟慮に熟慮を重ねる必要がある。課題を終わらせるための最短コースを模索し続ける感じ。
当たり前だけど、量をこなすだけが努力ではない。質を上げるのも努力の内。というか私は、質を上げることで量を減らしたい。これでダラダラタイムを確保しようって魂胆。
例として大学受験を取り上げてみようかな。もう随分と昔の話だけど。
我が家の教育方針は「基本的に自力で頑張れ。あと国公立大学でヨロシク」である。よって私は自己流の試験対策を編み出していった訳だけど、これがややエキセントリックだった気がしないでもない。
方針は三つ。得意分野は勉強しない。苦手分野も勉強しない。伸び代がある分野のみ勉強する。
得意分野の国語に関してはノー勉で偏差値七十超えがデフォルトだったので、特にやることがなかった。
苦手分野は数学と暗記。数学に関しては、どんなに解説を読み込んでも何一つ理解できない。宇宙人と意思疎通する方が簡単なんじゃないかってくらい意味不明。模試では偏差値が五十を下回ることも多々。ここまで酷いと、幾ら頑張ったところで点数に繋がらない。そこで、単純な計算問題のミスをなくすことにのみ時間を使うことに決めた。難解な箇所はそもそも解かない。どうせ問いの意味すら分からないんだし、やるだけ無駄。
そして暗記、これは英単語が壊滅的。購入した英単語長は一週間かけても一ページたりとも覚えられず、ウンザリして投げ出しちゃった。よって英語は、単純な単語問題は勘頼みで答えることにして、配点の高い長文読解に力を入れる戦法を取った。何か、長文の方が圧倒的に得意なんだよね。前後の文脈が理解できれば、知らん単語が紛れていたって問題なく読めるから。
その他の科目は伸び代があると判断したから、ちょっと頑張って勉強してみた。
結果私は、自宅から一番近い公立大学に合格した。いやあ良かった。苦手なことを粘り強く克服するなんて、絶対に御免だったもんな。捨てて正解。お陰で少し余裕を持てた。
あとは、そうだな、部活動。私は吹奏楽や管弦楽といった部活に所属して、よく楽器を練習していた。
嘘、訂正。たまに楽器を練習していた。
部員の中には、毎日朝早くから自主練に取り組む人、講義の隙間時間を縫って自主練に打ち込む人など、頑張り屋さんが何人かいた。一方私は全然頑張り屋さんではないので、決められた練習時間内でしか楽器に触らなかった。だってめんどくさいから……。音楽は好きだけど、朝は寝ていたいし、隙間時間はのんびりしたい。
そこでこっちでも、自己流の練習メニューを編み出していくことになる。
まず基礎練習だけど、こんなのめんどくさいやつの筆頭格だよね。ということで大幅に削っちゃう。作戦は、演奏技術を一定のレベルに保つために最低限必要なメニューをこなすことと、今の自分に何が必要なのか分析してそれを補うためのトレーニングをすること。他はバッサリ省く。これを達成するには、どの基礎練がどういう効果をもたらすのか把握しておくのも大事。
そうやって基礎練をギュギュッと圧縮しちゃえば、演奏会でやる曲目を練習する時間が増やせる。私たちの第一目標は演奏会の成功なんだから、曲の練習の優先順位は高くしておかないとね。
で、その曲練だけど、こちらは苦手を徹底的に潰すところからスタート。技術が足りなくて演奏できない箇所があるのは一番のタブー。重大なマニュアル違反。故に、ワンフレーズでもできない場所があったら、重点的にやっつける。練習時間が二時間あるとしたら、二時間まるごとそのワンフレーズの攻略のみに費やすこともざら。そうして楽譜の全面クリアを目指しつつ、同時進行で、どうやったらセンスのある演奏ができるのかを探求していく。
部内には、技術的に演奏可能になることが練習のゴールだと思っている人が複数いて、私は不思議だった。それさあ、音楽じゃないじゃん。どうやったら美しく聞こえるかとか、どうやって効果的な演出をするかとかを、自力で研究するとこまで踏み込まないと、つまんない音しか出せない。そんなの芸術とは呼べない。
っていうか、多少技術が足りなくても、演出に全力投球した方が、良い感じに拙さをカバーできて、それっぽく聞こえるよ。プロを目指してるわけじゃあるまいし、正攻法の基礎練習で上手くなることより、聞き手に綺麗だと錯覚させるための小細工をする方が効果的。まあ、邪道なのは認めるけど。
結果私は、自主練を一切やらないまま、部内コンテストで一位を掻っ攫うなどした。なかなか優秀でしょ? 褒めても良いのよ。私も、毎朝遅刻寸前までグウグウ寝ていながら、結果をきっちり出せて満足。
こんな感じで、怠けるための努力を惜しまないのが私なのだった。
ただ、仕事はね……。まだまだ新人で、何をどう工夫すれば効率が良いのか、見極められない。愚図だから覚えも悪いし。もっと経験を積んだら、適度にサボれるようになるのかな? いや、人手不足だから、何か一つを早く済ませても次の仕事が降ってくるだけかも。
しょうがない。真面目にやります。私は体調不良で休むことが他人より多いから、その分を勤務態度で巻き返さないといけないし。
でもなあ、どうしても楽はしたいんだよなあ。なるべく労力を使いたくないんだよなあ。そこは譲れないなあ。そしたらやっぱり、勤務中も頭をフル回転させて、何かしら捻り出すしかないや。
目指せ、のんびりライフ。
できるだけたくさん怠けるべく、今後とも精進していこう。
だって怠けたいんだもん 白里りこ @Tomaten
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます