終章 本当の真実 


 さて、私は、ここで、皆に問う?



 誰が、このキチガイじみた、事件の真犯人や実行犯なのだろうか?



 今までの情報を整理すれば、認知したとされている井本医師は、既に、麻美ちゃんの実の父親で無い事はDNA鑑定の結果で、完全に分かっている。



 で、実は、一番、怪しいと思われていた松木医師が、麻美ちゃんと遺伝子情報が一致するとなるとなると、結局、一番、怪しいのは井本医師そのものでは無いのか?

 しかし、全ての事件当日、井本医師には、完璧なアリバイがあるのだ。



 この一点を崩せない限り、井本医師の真犯人説は成立しないのだ。勿論、陰の協力者が特定できれば、一挙に、解決するのだが……。うまくいけば、共謀共同正犯が成り立つのである。



 もうあと一人、怪しい人間さえいればそいつが真犯人なのだが。誰かいないのか?



 私は、再び、自分の頭を整理してみた。誰か、例の蛇谷村に関係がある人間で、あのような残虐な行為を平気で行える人間をだ!



 フト、私は、井本精神神経科病院の事務員に聞いて見る事にしてみた。

 どうせ、守秘義務があるから、いかなる返事も期待していなかったのだが……。



 しかし、ある一人の事務員が、驚愕の話を聞かせてくれたのである。



「あのう、貴方は、この前、妹さんを殺された、あの相川さんでしょうか?」




「そうですが、それが、何か?」




「私は、単なる事務員で、探偵でも刑事でも無いのですが、今までのこの北陸連続幼児残虐事件、いわゆる『大蛇伝説連続幼児殺人事件』に非常に興味を持っていて、自分なりに考えてみました。




 すると、ある人物が、浮かんで来たのです」




「えっ、誰なんです。井本医師ですか?」




「その甥っ子で、現在、ここの病院の研修医になっている井本一(はじめ)なんですよ」




 井本一とは、前にも聞いた名前だったものの、研修医として、週に3回程度、この病院にも出入りしていると言うのだ。それに、もっと、面白い話も聞けた。




 井本医師も、松本医師も、井本研修医も、ともに、エリクソニアン催眠法の達人であると言うのである。これは、病院内では実は有名な話であると言うのである。

 エリクソニアン催眠法とは、初めて聞く言葉だったが、何か、急に視界が開けて来たように感じた。



「実は、私も、井本一に催眠術をかけられ、危うく犯されそうになった事があるのです」



「井本医師や松本医師、それに井本一達は、それほど、催眠術に優れているのですか?」


「それは、この私自信が、証言致します」


「で、エリクソニアン催眠法とは、どんな催眠法なんですか?」




「かって、アメリカに、ミルトン・エリクソンと言う天才的な催眠術師がいて、言葉だけで他人に自由に催眠術をかけれたそうです」




「あなたは、病院の守秘義務違反を犯してまで、何故、この私に、それ程、重要な事を教えてくれるのですか?」




「それは、私は、先ほどの件で、いつか、この病院に復讐したいと強く持っていたし、この私自身が、蛇谷村出身の身だからです」




「それは、良く分かりますが、こんな重大な秘密を、この私に言ってもいいのですか?」




「大丈夫です。私は、何としてもこの蛇谷村の事件を解決しなければならないのです」




「それは、また、どうしてですか?警察すら、解明も出来ない超難事件なんですよ」



「実は、この私こそが、先祖代々続く、「蛇谷神社」の正統的な神主の娘なのです。

 『蛇谷村大蛇伝説考』が出版されて、何故、井本医師がそんな本を書いたのか、その謎を解くためにもと、自ら、この井本精神神経科病院に、敢えて就職して来たのです。




 あの本は、蛇谷村出身者にとっては、邪魔物以外の何物でも無いのです。蛇谷村出身者を、全員を見下げている内容なんですよ。大蛇の話以外はねえ……」




「エッ、本当に、そう何ですか?では、同じ蛇谷村出身の守護麻美ちゃん、とは、どう言う関係なのですか?」




「私の家が本家本元、守護家は私の分家なんですよ!

 ですので、私の家にも、家宝として、もう一本の大蛇の牙が残っているのです」



「よく、分かりました。僕と麻美ちゃんがどれほど探しても分からなかった真犯人像が見えてきたように思います。




 結局、全ての事件の実行犯は、井本博士の甥っ子で、現在、研修医になっている井本一(はじめ)なんですね。そして、その裏で糸を引いていたのが井本医師何ですね。




 現在の法律用語で言う共謀共同正犯何ですよね」




「その通りです。その結論にようやく達したのは、今日の朝になってです。

 私なりに考えても、随分、時間がかかりました。

 この私が応接室に盗聴器をしかけて、私なりにコッソリと証拠集めをしていたのです。

 ですので、井本医師と守護麻美さんと、相川さんとの、会話もほとんど、知っています。……もっと、悪く言えば、盗聴して聞いていたのです。



 で、この病院に勤務する前は、K大学医学部付属病院にも1年間勤務しており、松木医師も良く知っています。




 K大学医学部付属病院には、今も友人が勤務しています。ですので、松木医師の情報も常に手に入れています。相川さんは多分知らないと思いますが、私は、井本医師の裏の恐ろしい顔も全部知っています。……かって、大学で特殊な脳への実験もしていたのも、勿論、知っています。




 で、この、病院の地下には、秘密の部屋も有ると言う噂です。



 多分、ほぼ間違い無いと思います。



 殺された相川さんの妹さんは、多分、催眠術をかけられ、歯科技工士の腕を利用されて、精巧な大蛇のような金属製の歯形を作り上げた。で、その秘密を消すために、最後は殺された。これが今までの事件の真相だと思います」




「でも、それほど重大な秘密を、どうして警察には言わなかったのですか?」




「最初の幼児の事件後、直ぐに、蛇神様のご命令がこの私に下ったのです。

 この私こそ、この事件の謎を解きなさい、とね。

 今回の事件で日本中でも有名になった、あの蛇谷村の「霊感占い婆さん」こそ、私の実の祖母だったんです。




 まあ、これで、ようやく、心の荷が下りました。後はよろしくお願い致します……。




 警察に、この事件の全ての真相を、相川さん自身が、妹さんの敵を撃つつもりで、報告して下さい。どうか、よろしくお願い致します」




 そう言って、その女子事務員の神在優子さんは、ぺこりと、頭を下げたのである。

  了

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大蛇伝説連続幼児殺人事件!!! 立花 優 @ivchan1202

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