エピローグ

この日のために、この日のために、残りの人生賭けてきた。

すべての手はずを整えた。

なんとか生き延びた。

これが最後の仕事、手抜かりは許されん。


なべつる岩から飛び立つと、奥尻の夕暮れ空に舞い上がる。

高く、高く飛んでいく。

ボロボロの黒ローブを動かして、どんどんどんどん昇って行く。


白い天体が見えてきた。

先導役が羽の生えた天使を従え、リングの淵に下りてきた。


何処だ、何処だ……。

何処にいる?


光輪を載せた小さな天使たちが先導役の合図で飛び立った。

羽を動かしながら青い地球に下りてくる。

巾着から金平糖を取り出し散りばめた。

天使がいっせいに寄って来た。


何処だ、何処だ……。

何処にいる?

ここいるのは間違いない。


いた、いた。見つけたぞ。

間違いない、あの魂だ。

むかし、儂がつけてたものだ。間違えるはずがねえ。

それにしても、ピカピカだなぁ。

郷原はん、こんなにきれいになって……。


こっちだ、こっちだ、こっちにおいで。

そうだ、そうだ。

いい子だ、いい子だ。

ちゃんとやる、ちゃんとやる、ちゃんとやればちゃんとなる。


金平糖をまきながら、奥尻島の上空にひとつの魂を導いた。

月(つき)灯(あかり)が道しるべのようにあたりを照らしている。

病院の屋根に近づいた。


ここだ、ここだ、こっちにおいで。

さあ、さあ、ここだよ。

ここでなければいけねえ、ここでなければ……。


杏奈の中にピカピカの魂が舞い降りた。


郷原はん。

おっとさん、おっかさんと、

もう一度、この場所からはじめてくだせぇ。

三人でお幸せな人生を送ってくだせぇ……。


儂は、儂のやり方でちゃんとやりました。

郷原はんからいただいたご恩、お返しできたでしょうか。

首切り家業で四十三年、死神になって百三十八年、彷徨幽霊になって七十二年。二世紀半が過ぎました。

さすがに疲れました。

思い残すことはございません。


よろけるようになべつる岩にたどり着いたおじさんが、残りの金平糖を夜空に向かって散りばめた。


夏の夜空に風が巻き上がる。

黒いおじさんが砂のようにキラキラ輝くと、金平糖と一緒に奥尻の海と空に消えて行く。

それを見届けたかのように島からひとつの魂が、ふわりと浮いて、白い天体に向かって昇りだす。


今日も誰かの魂が、天国ロードを昇っていく。

修行を終えた魂が、今日もどこかに転生する。

青い地球と白い地球。

双子の地球は向かい合い、止まることなく回っている。


【了】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

輪廻の正体 ポポ リンタロウ @popo1964

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ