第6話 見限られた英雄
日光が差し込む大理石の大広間、その中央に配置された長い机に着く四人の男女。
出で立ちは皆一様に純白のロングコートである。
「皆さんお集まりいただきありがとうございます」
ファリアは立ち上がり挨拶をする。
「今回お集まりいただいたのは他でもなく、私が管轄する大陸西南西での問題についてです」
「ほう」
相槌を打った巨体の老紳士はルドルフ。大陸北北東を管理する大賢者だ。
「たしか龍王の血を継いだ個体が発見されたとか」
「そんなもの斬り伏してやればいいだろう。不安ならアタシが出向いてやろうか、ファリア?」
剣聖アンジェラは自慢の金髪をかき上げながらファリアにウインクをする。
しかしファリアはそれを聞き流し、平然と話を続ける。
「そのレッドドラゴンは討伐されました、神殺しによって」
その名を聞いたルドルフとアンジェラは唾をのんだ。
教会内では指名手配に掛けられているその者は、見つけ次第聖天に報告するようにと伝えられている。
が、聖天に課せられた対応は「できる限り穏便に距離を置く」だった。
「それで、大事には至らなかったのかね?」
立ち上がって食い気味に問いかけるルドルフに、ファリアは小さく頷く。
「こちら側の被害は中級使徒が二十、それと
「待て待て、いくら龍王の親縁とはいえ……まさか!?」
驚くアンジェラから目を逸らすファリア。
「それ、神殺しにやられたってんじゃねえだろうな?」
答えないことがファリアにとっての返答だった。
腰から崩れ落ちるルドルフ。一点に机を見つめて固まるアンジェラ。
「でも、大事には至ってないんだよね?」
そう尋ねたのはシロとそう歳の変わらない黒い長髪の子供だった。
「はい、ルナの言う通りです」
ファリアが頷き指を鳴らすと、テーブルの中央に大きな地図が現れる。
「神殺しはこちらから関与しなければ向こうから手を出すことはないと言っていました。であれば教会として取るべき対応は……」
地図の端、リノイと書かれた地域に大きなバツ印が刻まれる。
「この地域からの撤退、ということですね」
妙に明るいルナの言葉に、返す言葉は誰も無かった。
沈黙に包まれる大広間。
真っ先に動き出したのはアンジェラだった。
「まあ、ファリアがそれでいいなら……」
つぶやくように言葉を残してアンジェラはその場を後にする。
続いて席を立ったルドルフは絶望が顔に張り付いたまま、とぼとぼと無言で去っていった。
「どうしてみんな落ち込んでいるんでしょうかね? せっかく穏便にことが済むというのに」
年齢に似合わない下卑た笑みに、ファリアの眉間がピクリと動く。
聖天は全部で九人。大陸を八分割した各エリアとその中心に建つ聖王国の守護を生業としている。
仮に教会がそのエリアの一つを放棄することになれば、そこを守護していた聖天は役職を失う。
「何から何まで偽りばかりですね、聖王国の守護天使様は」
嫌味のこもったファリアの言葉にも、ルナは笑顔を返すばかり。
「それでアリスは元気してた?」
「はい、それはもう大変な暴れようで。あっ、でも昔と違って弓なんか使っていましたね」
「……弓?」
問いかける声は先ほどまでとは打って変わって素の出たようなものだった。
突然揺れ始める大広間。否、揺れているのは聖王国全体だった。
「そうかそうか、新しい試みというのは素晴らしいものだね」
「まったくですね」
ルナに背を向け、ファリアはゆっくりと大広間を後にする。
表情一つ変えずに磯廊下を進み、自室に戻ったファリアは膝から崩れ落ちて尻餅をついた。
「びゃ~! 怖かったよ~!」
這いずりソファーに登るファリア。その額には大粒の汗がいくつも浮かんでいる。
聖王国を守護するルナは聖天のなかでも格別の存在。一対一でそれと対峙するのは命の保証ができないものである。
しかしながら苛立ちに任せて口を滑らせてしまい、立場もあるため引くに引けず強情を押し通す他なかった。
ファリアは仰向けになり、額の汗を袖で拭う。
「お帰りになっていますか、ファリア様?」
ノックと同時に入室するロベルトに、ファリアは驚き座り直す。
「ロベルト、ドアを開けるのは相手の確認をしてからにすべきよ」
「は、はあ」
「もし私が着替えていたらどうしますの?」
ロベルトはあっけらかんとした様子で「どうしましょうか?」と問い返す。
朴念仁な反応にファリアは頬を膨らませ、立ち上がってロベルトの前に立つ。
「あなたには早く常識というものを覚えていただかないと。私が聖天でいられるのもそう長くないのですから」
「そうなのですか?」
「そうよ、私も聖天の席が減るとは思いもしなかったわ!」
言い切った後でファリアは「あっ」と声を漏らす。
「このことは他言無用ですね」
「え、ええ! これを伝えたのもあなたを信用してのことですから!」
腕を組み目線を逸らすファリア。
その様子を見てロベルトは微笑む。
「お疲れでしょうから、お茶を用意して参ります」
「ええ、ありがとう」
ロベルトは一礼して部屋を出た。
誰もいない廊下を、凛とした姿勢で足早に進んでいく。
しかしながらその手はひどく硬く握りしめられていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
☆評価が全く伸びなかったため、こちらの連載はこの話をもって終了させていただきます。
気が向けばたまに更新するので、興味のある
方は気長にお待ちください。
【打切】最強のお姉さんに溺愛される新米最弱冒険者のレベルアップ活動記~自称Dランク後衛職は平和におねショタしたい~ たしろ @moumaicult
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます