『ライフログ』

小田舵木

『ライフログ』

 睡眠が乱れている。

 昼に寝て、夜中に起き出すという生活を送ってしまっているのだ。

 単純に言えば昼夜逆転。

 一応は働いているのだが。週末になるとこういう生活を送ってしまう。

 

 これはニート時代の遺産なのかも知れないな、と僕は思う。

 ニートの頃は。睡眠薬を使って無理やり昼間に寝ていた。

 なにせ。昼間の世界は明るすぎて。僕には眩しすぎたのだ。

 いいや。これは言い訳だ。

 昼間ってのは社会が動いていて。僕の居場所など無いように感じていたのだ。

 

 夜は良い。

 こと0時過ぎは気持ちが良い。静まりかえった世界。

 そこに僕はそっと存在している。

 世界は止まってしまっているように見える。僕もまた止まっていて。

 そこに調和を見出していたのだ。

 

 夜の1時位に起き出して。

 こっそりと家を出て。コンビニに行く瞬間が僕は好きだ。

 季節にもるが。大抵は冷たい空気に包まれる。

 そのひんやりとした感触が堪らない。

 地球が宇宙に浮いてるって事を再確認できるから。

 

 僕の家は。工場地帯の真ん中にあって。夜中は人気ひとけがない。

 人が寝ている気配すら感じない。工場も止まってしまっている。

 静寂が僕を包み込む。歩く足音だってちゃんと聞こえる。

 ペタペタ鳴るサンダル。夜中は適当な格好で出かけられるから気楽だ。

 

 空を見上げれば月。星は見えない。中途半端な都会に住んでいるから。

 猫の目みたいに真ん丸な月が夜空に浮かんでる。

 その目に囚われる僕。僕は目を見つめ返す。

 

 冷たい月。

 なんだったっけな、そんなフレーズを思い返す。

 小説だったか詩だったか。

 

 宇宙は寒い。普段は太陽のお陰で忘れがちだが。

 僕たちはそんな宇宙に存在している。

 それを思い返せるのが夜中。

 僕たちは奇跡的に地球って天体に存在しているのだ。

 何かのパラメータが狂っていれば。生命など存在していない―という。

 

 そんな事を考えている内にコンビニに着いて。

 僕はエナジードリンクとサンドイッチを手に取って。

 レジに向かう。レジは空。そりゃそうだ、夜中の1時過ぎに買い物に来るヤツは少ないから。

 敢えて店員を呼ぶような事はしない。面倒だからだ、声を出すのが。

 しばらくレジの前でボンヤリしていれば。

 慌てた様子の東南アジア系の店員が現れる。

 バックヤードで寝てたんだろうな。ま、気持ちは分かる。

「レジ袋ハイリマスカ?」僕はそっと頷いて。

 セルフレジで会計。これが案外気楽だ。無駄に人とやり取りしなくていいからね。

 

 コンビニ袋を下げて。来た道を戻る。

 別に寄り道はしない。そんな小洒落た事をするような人間じゃない。

 さっさと歩いて。家に帰る。

 

 家に帰ったら。サンドイッチを頬張る。

 最近は妙にサンドイッチにハマっている。高いからあんまり買いたくないけど。

 マスタードの効いたハムサンド。シンプルな味わいが染みる。

 サンドイッチを食べてしまったら。

 僕はエナジードリンク片手にキッチンの換気扇の下へ。

 そこで煙草を吸うのだ。

 

 いい加減、禁煙をしなくては。

 僕は毎回そう思いながら煙草を吸う。

 なんならチェーンスモークしながら禁煙を企てる。

 頭が悪いのだ。こんな税金塗れの嗜好品を愛好する位には。

 

 なんで煙草を吸いだしたんだっけ?

 確か―社会への反抗だったように思う。

 僕は未成年の頃からの喫煙者だ。中3の頃から吸ってしまっている。

 今は未成年喫煙をしていた事を恥ずかしく思う。

 

 なんで煙草なんかに憧れたのか?

 それは僕が当時、昭和の文豪たちに夢中だった事が影響していると思う。

 太宰治、谷崎純一郎、遠藤周作、安部公房、三島由紀夫…

 彼らの写真は。大抵煙草が映ってる。書斎で喫煙しているのが定番。

 後はアレだな。カート・ヴォネガット。喫煙を『高級な自殺』と形容した作家。

 中学生の僕は不登校で。社会と自分に絶望していて。さっさと死にたかったのかも知れない。

 

 紫煙しえんがキッチンの換気扇に吸い込まれていく。

 そろそろパソコンに向かう時間だ。

 最近の僕はあまりパソコンに向かえていない。慣れない仕事で疲れ果ててしまっているから。

 

 部屋の隅に。僕のライティングデスクはある。

 僕のライティングデスクにはエナジードリンクの缶が一杯だ。片付けるのが面倒なのだ。

 後は耳かきが置いてある。書物かきものに詰まった時は耳垢をほじくるのだ。

 

 パソコンのスリープを解く。十年モノのパソコン。OSをLinuxに換えて無理やり延命している。

 何時かは壊れてしまうだろうな。そろそろ電源系統が危ない。

 

 パソコンが立ち上がるまでに1分はかかる。

 いくら軽量なLinuxを使っていても、十年前のパソコンじゃスペックが足りていない。

 

 パソコンが立ち上がったら。ブラウザを立ち上げて。

 カクヨムにアクセス。昨日書いた駄文の調子を見る。

 相変わらずPVは少ない。手癖で書いた作品だ。書き上げた瞬間から気に入らなかった。

 

 ブラウザでカクヨムを巡回し終えたら。

 テキストエディタを立ち上げる。

 本来はプログラミングに使うモノを。無理やり文章執筆に使っている。

 黒を基調としたUIと拡張機能が気に入っている。

 

 さて。この瞬間が一番困る。

 昨日、一日中小説のネタを考えていたのだが、何も思い浮かばなかった。

 働いていると。現実的な事ばかり考えてしまって。空想の世界へジャンプする事が出来ない。

 

 いやまあ。

 元から空想力がある方じゃない。

 もっぱら現代か少し未来を舞台にした小説ばかり書いている。

 アレなら。大して空想力は要らない。

 

 ああ。執筆時間は限られているのに。僕は何も思いつかない。

 書きたい、という意欲はある。書いてみたいテーマも山ほどある。

 だが。それを文章のカタチにしようとすると。どうしても詰まってしまう。

 

 焦る。テキストエディタを立ち上げたのに。何も思い浮かばない。

 こういう時は手癖で書いてしまうのが一番だが。

 その手は昨日使っちまって。気に入らない出来のモノを仕上げてしまった。

 今日も同じてつを踏む訳にはいかない。

 

 それで結局。

 最近―というか、さっきの出来事をスケッチしてみた。

 こういう風に文章を書いていないと。何時かは書けなくなってしまうような気がして。

 

 だが。こんな文章、誰が読むというのか?

 ちょっとした日記のような。いや。ライフログのような。

 特に目新しい事を書いた訳でもない。

 他のエッセイで書いていることを書いてしまった。

 

 ま。僕は。こういう文章が嫌いではないのだ。

 ライフログ。良いじゃないか。

 こういう生活の何気ないスケッチが何時かは懐かしくなる時が来る、と思うのだ。

 10年、20年先に。コイツを読み返したら。とても懐かしい気分になると思う。

 

 さて。それまでにカクヨムは存在し続けるのだろうか?

 かなり怪しい部分がある。

 ま、一応、僕はPCとウェブにバックアップを取っているのだが。

 

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『ライフログ』 小田舵木 @odakajiki

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