シリアル

sui

シリアル


ガタガタと大きく音を立てながら扉を開く音が聞こえる。

悲しいかな、何度注意してもそれらは治る事がない。果たして自分が悪いのか、本人の素質によるものなのか。

「ただいまー」

元気良く挨拶が出来るという点は褒められるのだけれども。

日々小さな悩みと苛立ちは尽きない。けれどもそればかりに係っている暇はない。

足音を聞きながら動かしていた手を止める。目の前に広がった物を一度片付けた。

「はい、おかえり」

「ただいま」

「おやつはいる?」

「ノドかわいた」

「じゃあ用意してあげるから、荷物しまって」

「分かった」

ドタドタと荷物を持って去っていく小さな姿を見送り、戸棚を開ける。

時間をかけている場合ではない。後で掃除しなくては、きっと足に砂粒をつけて来たのだろうから。他にも予定はあるしやる事もある。


甘味の付いたシリアルをザラザラと皿に乗せて、牛乳を出す。

零れた欠片を自分の口に一つ放ると、分かりやすいいつもの味がした。


もっと小さな頃は朝食として役立ったが、今では物足りないと言われる。成長したのは喜ばしい事だけれども手間が増えたのは悩ましい。

机を拭き、手を洗ううちにドタドタが戻って来る。


「おやつ何?」

「チョコのやつ。好きでしょ?」

「またぁ?」

「何、嫌いになったの?」

「ちがうけど」

「じゃあ良いじゃない」

「別のはないの?」

「もう出しちゃったからそれ食べて」

「えぇ~」

「じゃあ、先に何が食べたいか言っておいてよ」

「きかなかったじゃん」

「言わなかったでしょ」

まだ少し大きな椅子に座る姿は可愛らしいのに、達者になっていく口先がどうにも小憎らしい。

次の買い物の時には何が欲しいのか聞かなければ。けれどもその時には本人も忘れている可能性があるのだから難しい。

「のみものは?」

「牛乳じゃ足りない?」

「だって、これはかけるやつでしょ!」

「そうだけど、かけた後の牛乳飲むでしょ」

「ノドかわいてるって言った!」

「……も~」

冷蔵庫へ戻るけれども、ああいった食べ物と合わせて出す飲み物にいつも悩む。

ジュースでは甘過ぎる。コーヒーや紅茶もそのまま出せない。冷たい物はお腹を壊すし、熱い物は火傷してしまう。

結局麦茶を入れてみるけれど、味覚として正解なのかが分からない。


いつだってそう。

色々考えてみたって、正しさなんて分からない。やってみたって、完璧にならない。

その度に少し罪悪感を抱いて、後悔をして、腹が立って、悲しくなって、自分は何なのだろうと悩んだりして、けれども時々悩んだ事自体を忘れてしまいもする。

そうこうする内に、どんどん大きくなっていく。出来るなら少し待っていて欲しい位。


既に食べ始めている姿に呆れて、コップを横に置く。

一緒に持ってきた自分の麦茶を飲んでみれば、何だか生温い。

やっぱり違う物にすれば良かったかもしれない。思った瞬間コップに手が伸び、それはあっという間に飲み干される。

「ごちそうさまでした!」

知ってか知らずか、満面の笑顔。

「はい、お粗末様でした」

思わずこちらも微笑みが浮かんだ。



ああ、ほら。やっぱり忘れてしまった。

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