第4話 異世界

バッシャーン!!!


『門』に落ちた!


そう思った時には、俺の身体がどっちの向きに向いているかわからない状態だった。


まるで、風呂の栓を抜いた時の水に乗せられたゴミのように凄まじい勢いで回転しながら吸い込まれているのは分かる。

しかし、目を開けると所々美しい光がチラつき、それ以外は真っ白の世界が広がっている。


早く何とかしなくては!


焦りから身体を色んな方向によじらせるが身体の回転は止まらない。


その時、何処かに猛烈な力で引っ張られるような、吸い込まれるな感覚に襲われたと思った瞬間。


「ヴッ!……ゲホッゲホッ」


地面に強く背中を打ち付けて激しく咳き込みながら、視界が整って行く。


空は青く、辺りからは青臭い芝生の匂いがした。


明らかに先程プールに飛び込んだ景色とは違う。


「せ……」


ゆっくりと体制を起こすと、そこは小高い丘の上だった。


穏やかな風が頬を撫でたその時、大きな羽音と共にドラゴンが頭上を通り抜けて行く。


「成功……したッ!!」


喜びここに極まれり、俺は立ち上がって大きく両手を突き上げて大声で叫ぶ。


「よっしゃぁぁあ!!!!」


そのままの勢いで坂を駆け下りて草原を走り回る。


しかし、ふと冷静になる。


これからどうしよ……


恐らく物資を詰めたリュックサックも近くか、遠くかは分からないが無くしてしまった。

そもそも、この世界に来ているのかも不明である。


辺りを見回してみると一面に草原と遠くに石造りの崩れた壁があるだけだった。


人の住んでいるような形跡は一切無く、恐らくこのままだと餓死する未来しか見えない。


「あれ……詰んだ?」


ポロッとそう呟いたが、状況は芳しくない。


ここが元いた世界と同じ法則ならば太陽はまだ昇ってから数時間だろう。


日没までの限られた時間内で最低でも食料と水、そして安全な寝床……


安全な……そう思った時に脳裏に先程のドラゴンがよぎる。


あれから身を守る術があるのだろうか……


そして、ここがRPG的な世界なら夜は昼に比べて数段はほぼ間違いなく危険であり、リアルにゲームオーバーになってしまう。


とりあえず手持ちの荷物を確認する。


ポケットには何枚かの小銭と栄養バー、そして携帯端末が入っていた。


とりあえず、端末を起動してみるが勿論圏外。


途方に暮れ気味で遠くの崩れた城壁のようなものを見つめると、ゆっくりと足で草をかき分けて歩みを進めていく。


~~~~~~~~~~


壁の近くに到着して、触れてみるとひんやりとした石の感触だった。


「やっぱり崩れた城壁みたいだな……」


瓦礫の上に登り、壁を超えてみると少し先に石造りの廃墟群が見えた。


元々そこそこの大きさの街だったようだ。


しかし、先程のドラゴンのせいだろうか?街を囲っていたであろう城壁はそのほとんどが崩れており、所々しか残っていなかった。


街まで降りてみると、石畳の間からは草が生え始めようとしていたが、それほど時間が経った様には見えなかった。


元々露天通りであっだろう場所や、寂れた中央広場を抜けていくと、大きな図書館に着いた。


不思議と惹かれて、ドアを開けて図書館の中に入っていくと、真ん中の天井が崩落しており、その穴から図書館に光が差し込んでおり、神秘的な雰囲気が漂っていた。


床に落ちている本を1冊拾い上げて開いてみると、そこにはアルファベットに似ているがどこかが違う文字が記されていた。


「うーん、読めん……」


クトー?デヤァー誰かいるのか?


「ッ!!」


咄嗟に身体を本棚の裏に隠すと、カチャ…カチャと金属どうしがぶつかる音と床を軋ませる音を立てながら誰かが歩いてくる。


バーバモースタ?ヤバい魔物か?


シャン……と金属製の長いものを抜く音が聞こえる


上がる心拍数と動悸を押さえつけながら息を殺す。


隣を1人の人物がゆっくりと通り過ぎて行く。


必死に口を手で押えて過ぎ去るのを待つと、急に足音が止まる。


……クトーニェデア……誰も居ないか


そう呟くと剣を鞘に収めて、通り過ぎていく。


それを見ると急いでその場を立ち去ろうと、中腰になった時。


ギイィィィイィ……


床が大きな音を立てて軋む。


リガードゥル!!!縛り上げろ!!!


走り出そうとしたその瞬間に身体にロープがまとわりつき、その場に倒れる。


「痛ッ!?」


全身を床に打ち付けた感覚が全身をおそったその後に脇腹あたりが妙に冷たい感覚がある。


「何……ッ!?」


脇腹に尖った床板が刺さってそこから血が滲んでいた。


「う……」


段々と冷たさが消えて温かさがじんわりと広がっていく。

血が小さな池を作り始めてるのだろう。


段々と呼吸が早くなり意識がぼんやりとしてくる。


こんな所で、こんな死に方するのか……

やっと成功したのに……


あと、少しで



会え……



それを最後に意識はぷっつりと切れる。


何処か遠くから複数人の男女が騒ぎ立てる声が聞こえた気がした。

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狭間を駆けよ異世界旅人 帽子の男 @BIIGBOUSHI

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