第3話 始動

「おーい!助手!!」


 部長が俺を呼ぶ声が遠くから聞こえる。

 

俺はあのまま死んだんだろうか?

だとしたらダサすぎて部長に合わせる顔がない。


 顔をあげると、そこはいつもの部室だった。


「おーい!聞いてるのか!?助手!!!」


聞いてますよ


「ホントかー?いつも君はそう言って私を適当にあしらうじゃないか!!」


そんな事ないです


「まあいい!そんな事より、最近ちょっと頑張りすぎじゃないか?」


たいして頑張ってないですよ、貴女に比べたら


「はぁぁぁ……キミは昔からそうだね!自分の事を卑下してばっぁぁぁかり!」


別にいいじゃないですか


「そろそろ自信をもて、君は私の最高傑作を完成させるんだ」


最高傑作……?何ですかそれ


「知ってる癖に白々しいな……私の日記見ただろ!?」


あぁ……あれの事ですか。確かに部品は揃いましたけど……


「なら良い!あとは任せたぞ!!」


 彼女はそう言うと椅子からいつもの白衣を脱いで立ち上がり、部室から出て行く。


 不思議とそれを焦って追う気は起きなかった。


 次第に意識がハッキリとしてくる


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「う、うぅん」


 目を覚ますとそこは自室のベッドだった。


「酷い臭いだった、ここ数日間掃除洗濯に加えて風呂まで入ってないとはな」


 声のする方にはカル執行部長が腕を組みながら立っていた。


 そして、辺りを見回すと部屋が綺麗に掃除されたおり、散らばっていた書類や装置の部品が全て綺麗に整列させられていた。


「これは……カル執行部長が?」

「そうだ、何か問題でも?」

「い、いえ!ありがとうございます」


「そんな事より……ただ凹んでただけじゃ無さそうだな?」


 カル執行部長は書き途中の図面を広げてみせる。


「元書記長の残した"何か"に取り憑かれたか、或いは……」


 彼が視線を向けた先には、幼い俺と部長の写真とその前に置かれた壺が目に入る。


「……レナは俺と同じ施設の出身だ」

「……そうだったんですか、」


「こうなると分かっていればあんな事は……」


 彼の唇は微かに震えていた。


「はぁぁぁ………」


 長く重いため息は吐いたあとに改めて俺に向き直す


「この数日間。何を作ってた?」

「貴方にそれを言う義理はありません」

「……そうだろうな、だが俺もレナの話は昔からよく聞いてた、見当はつく」

「……」


「場所まで送ってやる」


 彼はそう言うとバイクの鍵を出してみせる。


 悪意は無いようだし、彼も思うところがあるらしい。


 静かに頷いて立ち上がり、リュックサックを背負う。


「ちょっと待て……シャワー浴びてこい」

「はあ?一分一秒が惜しい今にですか?」

「……お前その格好でレナに会いに行くのか?」

「う……」


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 数分後 2人乗りのバイクは高速道路を飛ばしていた。


「今どき手動運転なんて珍しいですね」

「運転してるって感覚が好きなんだよ」


「あの……」

「ん?」

「なんで"あの場所"を知ってるんですか?」


 カルは少し無言になって考えると口を開く。


「一度、生徒会の仕事の帰りに寄ったんだよ」

「そんなことあります?だって、部長はあの時……」

「あぁ、大人しかった。だがその日だけは違った」


「ここは助手君と私のラボだって嬉しそうに跳ねてた。世界の謎を解き明かすのがレナの夢だったからな、お前の事はよく話してた。気があったんだろ?」

「いや……俺はただ、部長の後ろをくっ付いてただけで」

「……ああいう人間には、そういう奴が必要なんだよ。そろそろ着くぞ」


 高速から降りて、少し進むと森の入口に到着する。


「着いたぞ」

「ありがとうございました。カル執行部長」


 ヘルメットを外してカルに渡してから、荷物を背負う。


「ああ……俺は帰るぞ」

「え、帰りは……?」


 カルは初めてニヤリと笑って親指を立てる。


「もうココに帰る事は無いだろ?違うか?」

「!……はいッ!」


 カルは満足そうに頷くとエンジンをかけてその場を後にしようとするが、走り去る前に振り返る。


「もし、レナに会えたら言ってくれ、ラーメン奢るから戻って来いって」


 俺が大きく頷くのを満足そうに見ると、カルはバイクをゆっくりと加速させて行った。


 俺はそれを見送ると、森の中へと歩みを進める。


 ここは昔、部長とよく遊んだ廃墟郡だ。


 隠れんぼや鬼ごっこ等一通りの遊びはしたが、1番熱中していたのは研究所ごっこだった。


 それが俺と部長の科学への歩みの始まりだった。


 最初はごっこ遊びの実験、次第に本格的な"興味"を満たすための実験を、そして小学校を卒業する頃には俺はそこそこ、部長は凄まじい研究成果を上げてヴェリタス中等部へと進学出来た。


 そして、中等部に上がっていこう、寮生活になったのでこの場所は再び寂しい廃墟になったと思われた


 しかし、彼女の遺品の中にあった日記によると、どうやら何度もこの場所を訪れていたらしい。


「……着いた」


 彼女は思い出に耽ける為に何度もこの場所を訪れていた訳では無い。


「部長、これが貴女の最高傑作」


 建物に入ると、中央に空の円形プールと周りの廃墟とは場違いな程新しい端末が用意されて居た。


『門』ポルタ……完成させてみせます」


 早速作業に取り掛かる。


 用意してきた図面を広げプールの底に降りて配線を引き始める。


 それを終えると次は演算装置を端末に接続する。

 システムは問題なく起動した。


「よし、あとは……」


 最後に、廃墟の壁に取り付けられたレバーを引く。


 すると、プールの中に液体が満たされていく。

 そこに、用意してきた液体を適量注ぐ。


 全てが終わると、プールの縁の端末を操作し、動作確認を行う。


 コンデンサーに電気をチャージするような音と、スクリューが一瞬稼働する音など、様々な音が乱雑に鳴り響き、しばらくすると静かになる。


 そして、端末の画面はオレンジ色から青色に変化して、こう表示される。


《システム オールオンライン》


《起動準備完了》


 そして、息を大きく吸い呟く。


「……起動」

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