第15話


その日の夜。

俺はクローディアに呼び出されていた。


「ごめんなさい、急に呼び出してしまって」

「構いませんよ」


王城の中庭、噴水があるキレイな場所に呼び出されていた。


「セイレーンはなにか言ってましたか?」

「クローディア様の呼び出しなら行ってあげて欲しいと言われただけですよ」


「あの子は優しいですね。旦那様の外出を許すなんて」


遠い目をしていたクローディア。


「あの、大地様」

「なんです?」


「セイレーンに接するような感じで、私にも接してください。それからクロとお呼びください」


「いいの?俺がそんな愛称で呼んじゃって」


そう聞いてみるとクローディアは顔を赤くしていた。


俯いて、両手の拳をプルプルと震わせていた。


とても緊張しているような感じだ。


「どうしたの?」

「大地様。私と結婚してください」


「……?」


俺は首を傾げた。


聞き間違えたかな?と思ったのだが。


「私をあなたの嫁にして欲しいのです」

「え?でもガリットと婚約しているのでは?」


俺としては不倫はダメだと思うんだが。


「婚約は取り消します、お願いできませんか?」

「なにか事情でもあるの?」


そう聞くとクロは呟いた。


「ガリットは私を愛しておりません。一ミリも。そして、私も彼にはなんの興味もないのです」


「どういうこと?」


「我々の婚約はただの形だけのものなのです」


俺の胸に顔を埋めてくるクローディア。


「私は今日初めてあなたを見て確信しました。これが運命だと。私はあなたに一目惚れしてしまったのです」


「でも……」


俺はこの国の人間では無い。


そんな人間が皇族の嫁を何人も取るのはあまりよくないのではないか?とか思うんだけど。


(クローディアってなかなか可愛いよなぁ)


ってこと思ってたら細かいことはどうでもよくなってきた。


おーけー!結婚しよう!


「分かった。結婚に関して、俺はいいけど、ガリットはどうするんだ?」


「事情を説明すれば婚約はすぐに解消されると思います。どうせお互いなにも思っていないのですから。我々の間に特別な感情は存在しません」


クローディアはそれからこう続けた。


「この指輪を結婚の証につけましょう」


クローディアは小箱を取り出してきた。


指輪の入ったあの箱だ。


中には2つ指輪が入っていて、俺たちはお互いに指輪をつけあった。


俺の手にはめられた指輪の数はこれで2つになった。


「このままどこまで指輪が増えるか楽しみですね」

「さすがにこれ以上は増えないでしょ」


小さく笑ってるとクローディアは真面目な顔を作った。


「ガリットについてもう少しお話があるのですが」


「あいつがどうかしたの?」


「ガリットの狙いはおそらくセイレーンです」


「なんだって?」


「どういう理由があるのかは分かりませんがガリットは私を見ません。セイレーンをずっと見ています」


「それは気付かなかったな」


「それから、覚えていますか?【隷属の首輪】について」


「覚えてるけど」


「ガリットはモンスターのことを大事に思っていません。彼はモンスターを見かけたらどんなに弱いモンスターでも殺すような人物」


そんな人間がモンスターを殺さなくてすむようなアイテムの開発をするわけがないよな。


おそらくだがクローディアはそういうことを言いたいんだろう。


「じゃああの首輪は……ひょっとしてセイレーンに付けるつもりなのか?」


「おそらく。ガリットはセイレーンを手に入れたいのだと思います。なにか企んでいるはずです」


「俺の家の周りの警備は厳重だが、一応セイレーンの様子を見に行こう。」

「そうですね」


コクンと頷いたクローディアを連れて俺は家の方に向かっていった。


家の中に入るとセイレーンが反応を示す。


「クローディア姉さん?」

「こんばんはセイレーン。私も大地様と結婚することにしました」

「そうなのですか?!姉様!」


俺たちは今までの経緯を話すことにした。


「嬉しいです〜。姉様と同じ方を愛することができるなんて」

「私もよセイレーン」


それからセイレーンは俺を見てきた。


「大地様。今日からは私たち4人がお体を洗いますからね♡」


そう言われて俺は例の洗い方を思い出していた。


あれにクローディアが加わるのか。


(むふふ……)


鼻の下を伸ばしていた、そのときだった。




俺の視界にログが現れた。


【防衛システムEXから通知。防衛ラインにガリットが接近】


【警告:数分でガリットは防衛ラインを突破する可能性、大】


「はぁ、防衛システムを再演にインストールしてきて正解だったようだな」


「大地様?どうかしましたか?」


セイレーンが俺を見てきた。


「ガリットの野郎が君の菜園に近寄ってる」

「えっ?いったいなんのつもりで?」

「それは分からない」


俺としても正直ガリットがあの菜園に手を出すとは思っていなかったが。


普通に考えて皇族との結婚が決まってるやつが、他の皇族の恨みを買う意味なんてまったくもってないからである。


だが念の為ということで防衛システムをインストールしたのは間違いではなかったということだ。


だが、俺は直前まで願っていた。


(なにかの間違いであって欲しい。引き返してくれないかな?ガリット)


今ならまだ防衛ラインは超えていない。


間違いだったで全部終わる話なんだ……。


俺は神に祈っていた。


しかし……


【防衛システムから通知。悪意の検知。ガリットがラインを超えました。捕縛します】


俺はため息を吐いて二人を見た。


「ガリットが最後の一線を超えた。俺の立場は弱いと思う。ふたりとも俺の無実を証明するためにも、ついてきてくれないか?」


「「はい!」」

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異世界転移したら王様に無能と言われ戦争の最前線に向かうことになりました。ムカつく上官をぶっ殺して敵国に寝返ります~え?王女が消えた?王女なら俺の上で寝てるけど、返して欲しい?でも帰りたくないって にこん @nicon

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