エピローグ1 「創世の風」

「ほら、レイン。ちょっと起きてみろ」

「んぅ……? どうしたの?」

 揺れる馬車の中、ジェノは毛布にくるまって寝ているレインを小さく揺すって起こした。眠そうに目をこすりながら身体を起こすと、馬車の小窓にあるカーテンが開けられる。その先を見た瞬間、レインはその夜空を見て圧倒された。

「わあ……きれい……」

 空を駆け抜ける無数の色とりどりの星。10日ほど前から続いている「創の流星」と呼ばれる現象だ。風に揺られて波打つ草木の音も合わさって、とても静かで幻想的な風景がそこにあった。夜風も心地よい冷たさで、とても涼しい。ルシェロで長い時間を過ごしてきたレインにとって、晴れた夜空や雨を伴わない風自体が久々なものだった。

 不意に2人の目が合った。互いに赤面して、反射的に逆の方を向く。そして結局は数々の流星に視線を戻した。数は次第に少なくなっていき、ついには同時に流れる個数がほんの6個程度まで減った。もうすぐで「創の流星」は終わりを告げる。レインはついさっき見始めたばかりなので、少しばかり寂しく感じた。

「……もうすぐ、終わりそうだね」

「ああ。最終日には間に合ったらしいな、良かった……あ、そうだ。あれが終わる時にはどこかに捕まるんだ。多分、このくらいの馬車は結構揺れるはず」

「? それって、どう言う——」

 レインが聞き直そうとした時、低く唸るような音と共に強烈な風が馬車を襲った。ジェノの警告通り、空に流星が見えなくなった数秒後にそれは起こった。その現象を知っていたジェノは問題無かったが、レインは完全に油断していたのでまともに風の影響を受けてしまった。転びそうになったレインの手を、咄嗟にジェノが掴む。そのままぐい、と引っ張った。

 レインはなされるがままに動いていた。最初の衝撃を受けた時から最後までバランスを失っていたが、最終的にはジェノがその身体を受け止めた事で事なきを得た。……だが、奇しくもまたジェノに抱きつくような形になった。

「ごめん、もう少し早く言うべきだったな……——レイン?」

 レインは俯いて黙ったままでいる。どうしたのかとその顔を覗こうとすると、顔をうずめてその表情を隠してしまった。そのままの体勢で、目も合わせずに声を発する。

「……今のは、どういう事?」

「えっと……『創世の風』っていう現象。新しい物事の始まりを表すんだと言い伝えられてる。ちょうど俺らの旅が始まったわけだし、ぴったりだな、うん」

「……そうだね」

 妙に喋りにくさを感じる。互いにそれ以上の言葉を交わす事なく、時間だけが過ぎていく。気まずさも気が付けば消えて、代わりに眠気を感じ始める。そろそろ眠ろうかと思ったジェノは、流石に何の挨拶もしないのはまずいかと思い口を開いた。

「あー……。おやすみ、レイン」

 何の反応も見せないので、心配になって少しレインの頭を持ち上げてみる。するとその寝顔が露わになった。ジェノは苦笑いをして、元の位置に戻した。

(……寝てるのかよ、参ったな。……でも、悪い気もしないな)

 結局、ジェノはレインを元いた場所に寝かせて、毛布をかけてやった。自分も目を閉じたが、それほど長くは眠れなかった。

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