令嬢打撃マン

恥目司

だしゃあ

「ついに追い詰めたぞ!この悪女!」


 男の声に応えるように、わぁわぁと騒ぐ民衆。揃って鍬や鎌などの農具を、そして燃え上がる松明をまるで武器のように構えている。

 

 敵意の視線を送っているのは第一王子。

 その傍らには、聖女アリサ。

 

「公爵令嬢ルーリィ=ナインジーン!!貴様の悪事は全て知っている!!」


 王子の意気高らかな声が、民衆の群がる大広場に響き渡る。


「貴様は公爵令嬢の地位でありながら、そして私との婚約関係でありながら聖女アリサを辱め甚振った!!」


 民衆は、王子の演説を固唾を飲んで見守っていた。


「貴様の愚行は、我らの国を守る神をそしてこの私の顔に泥を塗ったのだ!!」


 王子はビシリとに指を差して、告げる。


「よって貴様との婚約は破棄、そしてこの場で公爵令嬢の名を剥奪する!!」


———ワァァァァ!!!!

 民衆の歓声が一気にヒートアップする。

 

 貴族から没落した小娘としてこの社会の中で虐められる運命だという事が決定した。

 それはこの民衆にとって、大変喜ばしい事なのだろう。

 

 貴族への不満をぶつけられる都合の良い相手が現れてくれたのだから。


——私は知っている。


 民が荒んだのは全て、目の前にいるこの王子のせいだ。

 民は割に合わないであろう高い税を納め見窄らしい生活を送る一方、貴族は娯楽に耽って民の事は一切考えていない。

この王子だって例外ではない。領地民の反乱など気にもせずに聖女アリサへの不貞ばかりを続けた。


 今、この場でも。

 彼が憤慨しているのは自分の地位を穢されたという理由だけ。

 プライドを傷つけられただけなのだ。


 そして、私を平民へと堕としたのはただ単に目障りだったから。

 聖女アリサを正妻にする為には目障りだったのだ。


 祭りのように騒ぐ民の事などちっとも考えてない。


あとは、私がここを去れば彼の計画は完了する。


「さあ、醜女ルーリィよ!!最後に言い残す事はないか」

王子が真剣な眼差しで私を見ていた。


もうすぐで私は平民になる。

だけどその前に、私にはやらなければいけない事があった。


「私は……あなたを愛していた。だけどあなたは私を見捨てた」


 ゆっくりと王子の元へと足を進めていく。

「でも、そんなのはどうでも良い。あなたよりもこの国を愛していたのだから」

 ツカツカと歩みを止めずに王子との距離を詰めていく。


 私がドレスの袖を捲ると、民衆の中から驚愕の声が上がる。

 それもそのはず、絢爛なドレスの中から現れたのは鋼の如く鍛え上げられた腕。


 私は“この時の為”に鍛えてきたのだから。


「これは“元”公爵令嬢としてじゃなくとして、私が出来る最大限の使命!!!!故に、私はとしてこの国を救う!!!!」


 

 その宣告と共に拳を振りかぶる。

「だしゃあ!!!!!!!!!!!!!!!」

 咆哮を交えた最大限の打撃は王子の顔面を大きく凹ませる。


 凄まじいパワーに王子は吹き飛ばされていく。精悍な王子の顔はひしゃげ、鼻血まみれになる。

 失神した王子の姿を見ながら、聖女アリサは怯えた様子でへたり込んでいた。


 その横で私は拳を天高く突き上げる。

「この私、ルーリィ=ナインジーンは一介の民としてこの国を変える!!これは革命としての一歩!!今を変えたい人間は私についてこい!!!!」


ワァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!

 民衆の声が先程よりもさらに湧き上がる。

 彼らは救世主が現れた事に歓喜し、称賛した。

 ルーリィ=ナインジーンがこの荒んだ世界を変えてくれるだろうと。


 民の願いを拳に乗せて、“打撃マン”ルーリィは革命を成功させ、民主主義を興す。


 彼女は、神の言葉などではなく己の拳で世界を変えたのだ。

 

 打撃マンは思想だ。

 自らの拳によって不条理を撃ち砕く、正義の力だ。

 打撃マンは誰の心にもいる。

 それは例え次元を超えたとしても。

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令嬢打撃マン 恥目司 @hajimetsukasa

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