霧が立ち込めるプラットホーム
藤泉都理
霧が立ち込めるプラットホーム
これはいつかの記憶。
魂に積み重なっている記憶だ。
やり直すか否か。
停車する列車が問いかけてくる。
ずっと、ずっと、やり直し続けて来た。
けれど結果はいつも、失敗。
いつかの記憶をすべて持っていたとしてもだ。
もうどこからどこをどう修正したらいいのかわからない。
そろそろ疲れた。
もう過ぎ去った日々として、文字通り過去として受け入れるべきではないか。
次の人生を生きるべきではないか。
そうだ、そうしよう。
決意した矢先の事だ。
霧が立ち込めるプラットホームだった。
全貌すら見えない列車が停車している。
これはいつかの記憶だ。
私をあの場所へ連れて行ってくれた列車が、今目の前で停車している。
今を生きる私にとって、過ぎ去った日々は文字通り過去でしかない。
なのに、戻りたいと思った。もう一度あの場所に行きたいと思ってしまった。
思うやいなや、無意識に踏み出した一歩が、私をあの場所へ連れて行く。
いつもいつもいつも、こうして無意識に一歩、踏み出してしまう。
けれど、今は、今だけは、もう。
「ああクソもう自分が嫌になる!」
思いっきり長い髪を掻き回し、地団太を踏みながらも、列車から降りないという選択肢はなかったが、ふと、思った。
このまま幼子からやり直す列車を降りなかったらどうなるのだろう。
もしかしたら、次の生へと行けずに魂が抹消されるのだろうか。
「というか、いつまでこの列車は現れ続けるのだろうか?」
いつかの記憶の中でも最初に当たる記憶と同じ場所に立った私は、一歩、足を踏み出す。
また。
列車はもう姿を消してしまった。
諦めたくないのだから、しょうがない。
疲弊した記憶と頭を抱えて、とても軽い身体を動かして歩き続けた。
(2024.4.23)
霧が立ち込めるプラットホーム 藤泉都理 @fujitori
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