最終話:tomorrowsong。
「僕が全部悪いのか・・・」
「そんなこと言ってないし・・・私にだっ てダメなところはあったよ」
「だから努力しようとした」
「でも、もう限界」
「君だって本当は、私たちうまくいかないこと分かってるでしょ」
「これ以上一緒にいたって、いいことなんて何もないってこと・・・」
「だから別れよう・・・ん〜ん、もう別れる」
「次に誰かを好きになったら自分のエゴを押し付けるのだけはやめてね」
侑斗は子供みたいに号泣した。
「もう・・・男の子なんだから泣かないの・・・帰れないでしょ」
「君が泣くと私も辛くなっちゃうよ」
「光希がいなくなったら、僕はどうすればいいんだ?」
泣きじゃくりながら侑斗はそれだけ言うのが精一杯だった。
「だだっこみたいに・・・」
「君は子供だよ・・・おもちゃを無くしちゃった子供・・・もっと大人に
ならなきゃ」
「次は私みたいじゃなく、君にふさわしい人を探して・・・」
「私一人がすべてじゃないでしょ・・・ね」
「もう終わりにしよう・・・」
光希の瞳からも涙がこぼれ落ちた・・・。
秋も深まったオレンジ色の公園には光希と侑斗しかいなくて、公園に立ってる
丸い時計の針が10時を過ぎようとしていた。
光希は腕時計を見た。
公園の時計は狂っていて30分遅れていた。
「こんな時間・・・帰らなきゃ」
「いっぱいしゃべったから疲れちゃった・・・」
「もう何を言っても私の気持ちは変わらないからね」
「もう行くから・・・」
「侑斗・・・君、大丈夫だよね・・・」
光希は侑斗の顔を覗き込んだ。
彼は首を横に振った。
「僕はまだ別れるって言ってないの に・・・勝手だ」
一方的な別れ。
侑斗にはもう男のプライドなんてどうでもよくなっていた。
逆らって一方的な彼女を困らせたかった。
「抵抗してもダメ・・・ダメだよ、そう言うの」
「未練だよ・・・しっかりしなさい」
光希は侑斗を優しくハグして耳にキスをした。
いつもと変わらない光希のいい匂いがした。
「君のこと本気で、心から好きだったよ侑斗」
「君も私を今日まで愛してくれてありがとう」
「元気でね、侑斗」
そして光希はおもむろにベンチから立ち上がった。
「じゃ〜ね、行くね・・・さよなら」
そう言って光希は侑斗をひとりベンチに残して歩き始めた。
侑斗の目には去っていく光希の後ろ姿がぼやけて見えなかった。
やがて光希は公園の街灯の明かりが届かない闇に消えていった。
ヒールの足音だけが静かな公園に響いていた。
彼女がいなくなったベンチで侑斗は、ただ泣くことしかできなかった。
「明日から、僕の光希はいないのか?・・・」
あとになって侑斗は思った。
「光希、愛してたよ・・・いままでありがとう、幸せになってね」
その言葉は彼女がいる時に言ってあげればよかったと・・・。
でも笑ってさよならなんて、できなかっ た。
光希と侑斗の恋は終わった。
愛と言う一つの感情だけでは成り立たないのが男と女の関係。
侑斗がもっと大人でいたら、実った恋だったかもしれない。
おしまい。
春雷。 猫野 尻尾 @amanotenshi
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