地球がラグい。

ちびまるフォイ

あたらしい地球の誕生

「えーー、では長期休暇に入るからといって

 みんな   ら   ように」


長くて退屈だと有名な校長の話だが、

途切れ途切れになった瞬間、みんなの注目が集まる。


見上げると壇上の校長先生の口は声のタイミングを合っていない。


「が  で   かゆ  する  うま」


なにが起きているのか。

近くの友達に声をかけた。


「なあ、校長ばぐってね」


友達は反応しない。


「おい聞いてるのか」


肩をぽんと押した時、急にせきをきったように話した。


「ばぐってる? なにが? おい押すんじゃねぇよ」


声に対して反応のタイムラグが凄まじい。

影響はそれだけじゃなかった。


持ち場をちょっと動いた友達の顔はのっぺらぼうのようになっている。

目や鼻があった箇所には申し訳程度の凹凸だけが見える。


「な、なんだこれ!? どうなってるんだ!?」


「ど  なって   な  にが?」


「お前もバグってるよ! 途切れ途切れにしか聞こえない!」


「バグ  なに  め でーー」


「めちゃくちゃだ。みんなラグりまくってる……」


スマホを見ると答えはすぐに出た。

トレンドに「地球 処理落ち」がランクインしていた。


ニュースの映像が配信されている。


『ただいま、地球研究所から驚きの発表がありました。

 現在、地球は処理落ちの状態になっています!』


「処理落ちって……」


スマホから顔をあげると、すでに校長先生は停止していた。

体は停止しているが声だけは聞こえてくる。


体育館に生徒をすし詰めにすることで地球の処理負荷もかかっているのか、

自分以外の生徒は角ばったシルエットになっていた。

これではクラスのイケメンもマドンナも区別がつかない。


「これはまずい……!

 このままじゃ完全に処理落ちしてクラッシュしてしまう!!」


ゲーム大好きな自分には見覚えのある状況だった。

広大な世界を冒険していると、奥のごちゃごちゃした街は処理が追いつかない。


もしも、爆速で街に到着したなら処理負荷がますます強くなり

最悪の場合ゲームが強制シャットダウンしてしまう。


それがもし地球だった。

処理負荷が強すぎて地球がシャットダウンされたら。


処理落ちで笑って済ませられない状態になるだろう。

危機感を感じた俺はテロ組織「404 Not Found」を立ち上げた。


「オラオラーー! ぶっ壊してやるーー!!」


最初の活動は首都の高層ビル群を爆破する作戦だった。

高層ビルは処理の負荷が高く、人を一箇所に集めてしまう。


それが地球の処理負荷を高めていた。


「いいか、俺はテロ組織かもしれないが地球の味方だ!

 このビルの爆破は地球のためにしかたないことなんだ!」


各地で爆破を繰り返していると、それに賛同した人がでてくる。


「この地球には人間が増えすぎだ! 数を減らして処理を軽くしよう!」

「ムダな建物はぶっ壊すんだ! 地球の処理を軽快に!」


このラグだらけの世界を変えたい。

その心に共感した同志たちが各地で活動を続けた。


しかし、いくら活動を続けても処理は重くなるばかりだった。


「くそ!! なんでだ! どうして地球は重いままなんだ!!」


「そ   な   た」


「……くっ、たしかにそうかも知れない。

 俺らが壊している数を超えて人間は増え続け

 いまこうしている間にも負荷のかかる建物も作られている」


「ど   し   か」


「諦めるんじゃない。まだきっと手はあるはずだ」


「手   ?」



「……それは、あとで話すよ」


本当は手段なんてなかった。

気休めのごまかしを吐き捨てて逃げるように外へ出た。


なにか答えを求めるように空を見上げたときだった。


「あれ……なんだ?」


小さな豆粒のようなものが、地球に向かって接近していた。

豆粒はサイズが1フレームごとに大きくなっていく。


「まさか隕石!?」


そうだと気づいたときにはもう明らかに遅すぎるタイミングだった。

地球がラグすぎて、接近してもまるで気づかなかった。


死の恐怖よりも先に脱力が体を襲った。


「なんだよ……これだけ頑張って、地球を救おうとしていたのに。

 最後は隕石でなにもかも台無しにされるなんて……」


これまでの活動はなんだったのか。

おおいなる力の前には自分たちの行動なんて無意味だった。


隕石は瞬間移動するようにラグだらけの中をまっすぐ落ちてゆく。


「終わりか……」


地球に触れる最後のフレームのとき。

隕石は急に変形し、長方形へと姿を変えた。


そして、地球に触れる部分はそこだけせりだし、

差込口のような見た目で地球に軟着陸した。


地面には長方形の隕石が生えてしまった。


「いったいなにが……あっ!?」


おそるおそる地球の大地に突き刺さった、長方形のそれに近づく。

よくみると隕石だった物の表面には文字が刻まれていた。


< 地球強化パッチ v2.0.1 >


隕石からぐんぐんデータを吸い取った地球は

その色を青色から虹色へと変化させた。




『 インストール完了 地球が120FPS になりました! 』

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