ミックスアイランド

@hmixisland

ハカセとジョシュとチュータロウ

 ハカセとジョシュとチュータロウ


「オイ、そこのオマエ」


 どこからか声が聞こえる


 「オイ!聞いているのかニャ」


 ニャ?


 おかしな語尾で話しかけてくる声の主を探そうと少年は目を開いた


 少年の目の前には青い景色が広がっていた


 少年は仰向けに寝そべり、空を見つめていたことに気が付いた


 少年は立ち上がり辺りを見渡す


 どうやら森の中で倒れていたようだった


 声の主を探すも周りには誰もいないようだ


 「こっちだニャ」


 上のほうから声がする


 少年が声のする方を見ると、木の上に一匹の猫がいた


 「まったく、どれだけ呼んだら気が付くニャ」


 猫は器用に木の上から少年の前に降り立った


 猫は普通の猫とは違っていた


 額から背中にかけて機械のような皮膚に覆われていた


 それ以前に人の言葉を話している?


 「君は・・・何?」


 「見てわからないか。 猫ニャ」


 猫ではあるんだろうけれど、それだけでは説明不足なのは明らかだった


 「そうじゃなくて、その皮膚、まるで機械みたいじゃないか。いやいや! そんなことよりなんで話ができるのさ!?」


 「まるで機械じゃなくて、機械ニャ」 

 

 「機械なのはわかったよ! なんで会話ができるの!?」


 猫は少し考えたあとに答えた


 「知らないニャ」


 猫はあくびをして前足で自分の顔をなぞる動きをしていた


 いつまでも毛づくろいしているので、本当なのか嘘をついているのか答える気はないのだろう


 会話ができることについて聞くのは後回しとしよう


 「じゃあここはどこ?」


 少年は記憶を失っていて、ここがどのなのかもわかっていなかった


 「知らないニャ。ワガハイもさっき目が覚めたばかりで逆に教えてほしいニャ」


 「それじゃあ・・・」


 少年が言いかけたところを猫がさえぎった


 「さっきから質問ずくめでいいかげんウザったいニャ。初対面の人間にはまず聞くことがあるニャ」


 人間、というところはひとまず置いておいて、少年は思いつかなかった


 「名前ニャ、お前の名前はなんていうニャ」


 少年はかすかに残った記憶から他のひとからハカセとよばれていたことを思い出した。


 「僕はハカセ。君の名前は?」


 「ワガハイはジョシュ。ハカセって名前はワガハイより偉そうでなんだかムカついてきたニャ」


 「無理言わないでよ、思い出した名前なんだから」


 「思い出した、ということはハカセも記憶がないニャ?」


 「僕も、ということはジョシュも記憶がないの?」


 「だからさっき言ったとおりニャ。なんでこんな体をしているのかもさっぱりわからないニャ」


 記憶のない人間と、記憶のない猫と機械の生き物。何から手をつければいいのか


 そもそも自分は人間なのかハカセは疑問に思った?

 

 ハカセは自分の姿を見回し、白衣をきていることに気が付いた

 

 そして顔や頭を手で触って感触を確かめた


 「心配しなくてもハカセの見た目は人間ニャ。もしかしたら内臓が機械にされているかもしれないけどニャ」


 そう言ってジョシュは気味悪く笑っているように見えた


 ハカセは自分のお腹を触って確かめる


 「冗談ニャ。さっき内臓を調べたけど、どこも異常なかったニャ」


 「調べるってどうやって?」


 「こうやってニャ」


 ジョシュの尻尾が伸びて尻尾の先が聴診器のような形になった


 「すごい! そんなことできるんだね!」


 「高性能だからニャ」


 ジョシュはまんざらでもなさそうだった


 「高性能なのに記憶がないんだね・・・」


 「心配して損したニャ」


 ハカセを置いてジョシュは歩き出した


 「ところで、その背負っているケースはなんだニャ」


 あまり多くのことがあったせいで気が動転していて、自分が何かを背負っていることに今気が付いた


 ケースをおろして開けようとすると、ケースついているレンズから何本もの弱い光線が出て、ハカセの顔を照らした


 承認完了、という機械音声とともにケースが開く音がした


 ハカセが恐る恐るケースを開けると、中は大小七つに分けられ、そのどれもが金属製の蓋のようなもので閉じていた


 フタのランプが緑色の仕切りがあり、それを開けると中にはスマートフォンらしいデバイスが入っていた


 いくつかのボタンを押しても何も反応はなかった


 「壊れているのかな?ジョシュは調べられない?さっきの聴診器みたいなヤツで」


 「できなくはないけど、今は無理ニャ」


 「無理ってなん・・・」


 「静かに!木の陰に隠れるニャ」


 ジョシュの言う通り木の陰に隠れると、ガサガサと大きな音を立てて何かが近づいてくる


 ジョシュは音のする方へ走り出した


 ハカセも追いかけたけれど、とても追いつけるスピードではなかった


 しばらくして、トボトボとした足取りでジョシュが戻ってきた


 「何してたのさ?」


 「何って、電気を取りに行ってたニャ」 


 「電気を?取りに?」


 ジョシュが言うには、ハカセが起きる前


 ジョシュが充電不足で死にそうなときに一匹のネズミと出会った

 

 そのネズミは体に電気が蓄えられているため、ジョシュに分けてくれるという


 ネズミから電気をもらいようやく動けるようになったときに、ネズミが暴走して走り出した


 とのことだった


 「それでまだ充電が足りないから、そのネズミから電気をもらおうとしているってこと?」


 「話はそんな単純じゃないニャ」


 「いくらなんでもあんなスピードで動き回ったら体がおかしくなるニャ」


 「少しでも早く止めないといけないニャ」


 「止めるって言ったってどうやって?」


 「これを当てればあのネズミでも止まるニャ」


 パシュっと音がなり、ジョシュは尻尾の先から何かを吹き出した


 吹き出された何かは木に命中して、当たった部分がガムのような物で覆われていた


 「このガムは尻尾から出る細いワイヤーで繋がれているニャ」


 「このガムが当たれば一発ニャ」


 「ならやったらいいじゃないか」


 「簡単に言うニャ! あんなすばしっこいものにそんなに上手く当たらないニャ!」


 「すばしっこくてあたらないのか・・・」


 ハカセはそう言うなり考え出した


 「高性能でも無理だったのに、ハカセが考えたところで上手くいくわけないニャ」


 「そうだ!こんなのはどう?」


 ハカセから案を聞いたジョシュは笑い出した。


 「もしそうやって追い込んでも、当てられるわけないニャ」


 「だからさ・・・」


 ハカセとジョシュはネズミを追って走っていた


 もちろん追いつけるハズはない


 けれど追いつくことが目的ではなかった


 ネズミがハカセたちから逃げるのであれば


 ネズミが向かう先をある程度予想することも可能なはず

 

 その上で、ネズミが走りやす道を作ってやれば・・・

 

 狙いどおり、ネズミはハカセが作った一本道に走っていった


 「ジョシュ!今だ!」


 ジョシュの尻尾のさきからゴムが発射されネズミをとらえた


 かに思えたけれど、ネズミが交わし失敗とはならなかった


 一本道の出口をネズミが走り切ると、出口付近の底が持ち上がり


 ネズミが何かに絡まって宙に浮いていた


 そして、そのネズミはネズミというにはあまりに大きく、体長は一メートルほどありそうだった


 「ほーらね。やっぱり網を作ってよかったでしょ?」


 ハカセは得意げにジョシュを見た


 ハカセはジョシュから出るワイヤーを結びあげて網を作っていたのだった


 「たまたまうまくいっただけニャ」


 ジョシュは悔しそうに言った


 「それで、捕まえたはいいけど、このあとどうしたらいいんだろう?」


 「捕まえたらおとなしくなるかと思ったけど、そんなこともなさそうニャ」


 「どちらかというと今のほうがうるさくニャってないか?」


 網にとらわれたネズミはより一層激しく暴れまわっていた


 どうするか悩んでいたハカセのポケットが震えた


 さっきケースから取り出したデバイスが反応しているようだった


 画面を見るとメッセージが表示されていた


 『電気回路に不具合あり、対象を撮影してください』


 「って表示されてるけど?」

 

 ハカセはジョシュに画面を見せた


 「不具合ってコイツのことかニャ」


 二人でネズミを見る


 ハカセがデバイスをかざすと、画面にはネズミが映し出され、機械音声が流れた


 『組織が特定できました、構成要素、人間、ネズミ、蓄電機』


 「構成要素って?」


 「この生き物は人間とネズミと蓄電機でできているってことニャ」


 「たしかにかなり大きいけど、人間ってねぇ・・・」


 百歩譲ってネズミはわかるけれど、どう見ても人間には見えなかった


 「お腹のところ見てみるニャ。何かしら差し込めるようになってるニャ」


 これが蓄電機の部分なのか、謎は深まるばかりだった


 『不具合の治療を行いますか?』


 デバイスから機械音声が流れ、イエスかノーの選択が表示された


 さっきよりもネズミの暴れ具合がひどくなっていた


 このまま何もしないわけにはいかないのでハカセはイエスを選択した


 『デバイスをセットしてください』


 機械音声が流れたあとにジョシュがおかしな声をあげた


 「何がどうなってるニャ」


 ハカセがジョシュのほうを見ると、ジョシュの背中が開き


 デバイスをはめ込めるよう変形した


 「すごい! 変形ロボみたい!」


 「馬鹿なこと言っていないでなんとかするニャ!」


 「なんとかって・・・セットしてって言われてるけど・・・」


 「もうセットでもなんでもいいから早くするニャ!」


 「背中がムズかゆくてしょうがないニャ!」


 「どうなっても知らないからね!」


 そう言ってハカセがデバイスをセットすると


 『プラグを対象につないでください』


 とデバイスの表示が変わり、ジョシュからもう一本の尻尾が生えてきた


 「今度は尻がかゆくなったニャ」


 『プラグを対象につないでください』


 何度か表示されたあと、一本の尻尾がネズミの首元へ伸びていき


 カチっという音とともにネズミが動かなくなった


 ハカセがその光景に驚いていると、もう一本の尻尾がハカセの目の前に迫っていた


 ハカセはそうして気を失った


 ピチャン、ピチャンと水滴が落ちる音がする


 ハカセが目を覚ました


 辺りは薄暗くハッキリとはわからないが何かの工場のようだった


 すぐ横にはジョシュが横たわっていた


 ジョシュをゆすると寝ぼけた声で言った

 

 「あと五分寝かせてくれニャ」


 「そんなこと言っている場合じゃないよ!」


 ハカセがより大きくゆすると、ジョシュはゆっくりと立ち上がり大きなあくびをした


 「どうした、なにかあったかニャ」


 「どうしたもこうしたもないよ!」


 ジョシュがあたりを見回し驚きの声をあげた


 「なんだ!ここどこニャ!」


 「知らないよ!僕ら森でネズミを捕まえて・・・」


 『ここは対象の電子回路の世界です』


 『不具合の原因を解消する必要があります』


 ジョシュのデバイスから電子音声が流れた


 「電子回路の世界?不具合?」


 ハカセの質問には答えずに電子音声はひたすら同じ言葉を繰り返す


 電子回路の世界がなんなのかイマイチ理解はできていないけれど、二人は進むことにした


 金属製の壁に覆われていて、金属製の階段や柵があり、なにか大型の機械が動くような音がした


 しばらく薄暗い中を歩くと、奥に灯りが見えた


 灯りが見えた場所は吹き抜けになっていて、各階にはライトが設置されており


 そのライトの灯りが中心の床を一斉に照らしていた


 よく見ると、今までついていなかったライトが点いているようだった


 それらはネズミたちはどこからか電池を運んできてはライトを点けているようだ


 急に複数のライトが消えた


 暗闇から現れたのは電池を抱えたネズミだった


 そのネズミは黒い毛で覆われていて、赤い目をしていた


 前に見たネズミと同じように体長は一メートルほどの大きさだ


 「オマエたち!よそ者だな!」


 ハカセとジョシュは顔を見合わせた


 この場所がイマイチ理解できていないのでよそ者なのかどうなのかわからなかったからだ


 答えに困るハカセとジョシュにしびれを切らしたのかもう一度マウスは質問した


 「オマエたち!よそ者だな!」


 「その・・・どちらかと言えば?」


 「よそ物が何の用だ?」


 「なんだっけ?」


 ハカセがジョシュにたずねる


 「不具合を直しに来たニャ」


 小声でジョシュがハカセに耳打ちする


 「不具合を直しに来たんだ!」


 「不具合?ああこの世界の権限を奪いに来たのか」


 「え、そうなの?」


 ハカセはまた小声でジョシュに聞いた


 「わかんないけど、そうだと言っとくニャ」


 ジョシュも小声でハカセに答えた


 「そうだ!」


 「ならば勝負といこうじゃないか。簡単なゲームだ」


 ハカセは意味がわからずジョシュに聞こうとするとデバイスから音声が鳴った


 『この世界はゲームの勝敗で権限を奪うことができます』


 「ゲームの勝敗で決めるってこと?なんかもっと力ずくで襲ってきたり」


 「バトルして勝ってみたいな感じじゃないの?なんか子どもじみてるというか」


 ハカセの意見に反対するかのようにデバイスが言った

 

 『公正なゲームにおける勝者こそ、全てを奪う権限を持つようプログラムされています』

 

 「あんまり余計な事いうニャ!普通に勝負しては勝てないんだから願ったりニャ」


 確かに、捕まえたマウスと同じような動きをするなら戦いになって勝てるはずはなかった


 「それで、勝負はどうするニャ」


 「そうだな。電池の運搬勝負といこうか」


 「電池の運搬勝負って?」


 ネズミが指を鳴らすとライトの配置が変わった

 

 「ここには百個のライトがあり、その半分には電池が入っている」

 

 「そしてここには電池が五十個ある」


 「お前たちがここにある電池を全てのライトに入れるか」


 「私が全てのライトから電池を抜いてここに集められるか」

 

 「どちらが早いかで勝負といこうじゃないか」


 「ジョシュ、意味わかった?」


 「要するに、こっちは電池を運んで入れにいく」


 「向こうは電池を抜いてここに運ぶ」


 「そういうことニャ」


 だとしたらスピードが速いネズミ相手には不利なんじゃないだろうか


 「そのままやっても私の圧勝だからな。ハンデをやろう」


 「私は一人で十分だ。お前たちでかかってくるがいい」


 「わかったニャ!」


 そう言ってゲームが始まった

 

 ネズミのスピードはすさまじく、負けじとハカセとジョシュが追い上げるけれど


 中央に表示されたカウンターの数値は黒いネズミの圧勝だった

 

 そのうちに疲れがきたのか、じりじりとネズミが追い上げられるもズルい手に打って出た


 上の階にあるライトから電池を抜き出して中央の広場に投げ出したのだった


 「反則ニャ!」


 「どんな手を使おうが中央広場に集められればいいのだよ!」


 ネズミは高らかに笑った


 逆にハカセとジョシュは投げて渡すことは不可能で負けたかに思えたそのとき


 黒いネズミは異変に気が付いた


 中央のカウンターの数字は五十対五十で開始と変わらない数字だった


 優勢だったはず、それ以前に本来あるべき電池が中央広場に一つも無かった


 「それじゃあいくニャ!」


 ジョシュの掛け声で全てのライトが点灯して勝負がついた


 「どうして・・・なんで・・・」


 「みんなゴクローだったニャ」


 そう言うジョシュの周りには小さなネズミたちが群がっていた


 小さなネズミたちも協力して電池を運んでいたのだ


 「ん?ニャんだって?そーかそーか」


 「ニャんでも、自分たちが頑張ってライトを点けていたのに」


 「それが消されたことが許せなかったみたいニャ」


 「そうじゃない!二対一の勝負だったはずだ!」


 「もう一度思い出してみるニャ」


 『私は一人で十分だ。お前たちでかかってくるがいい』


 デバイスから黒いネズミの声が流れた


 「そんなバカなー!」


 黒いネズミは叫びながら倒れた


 「一件落着ニャ!」


 「一件落着ニャ!じゃないよ!なんでそんな裏技みたいなこと」


 「教えてくれなかったのさ!」


 「そりゃ、馬鹿みたいに運んでるヤツがいたほうがカモフラージュになるからニャ」


 ハカセはあきれて文句も出ないのかため息をついた


 『ワクチンプログラムを接続してください』


 デバイスからの音声のあとにジョシュの尻尾が伸びて黒いネズミの後頭部に接続された


 世界が光の海となって消えていく


 現実世界ではネズミが網にくるまれたまま横たわっていた


 「可哀そうだけど、いつ暴走するかわからないしね」


 しばらくしてネズミが目を覚ました


 「あれ、ここは?というかこの状況はいったい・・・」


 ハカセとジョシュで今まで経緯を説明した


 「そうですか。気を失う前まではほとんど記憶がなかったのですが」


 「今目が覚めて、少し記憶が戻ってきたように思います」


 「私は元々電気関係の整備士をしていて、インフラに係わる仕事をしていたんではないかと」


 「まだかすかな記憶なので正しいのか確認のしようがありませんが・・・」


 「それにしてもすごい落ち着きニャ。てっきりショックでおかしくなるかと思ったニャ」


 「ジョシュ、直接的に言いすぎだよ!」


 「いやはや、自分でも驚きです。でも記憶がないことが逆に良いのかもしれません」


 「一部が人間であろうとも、元が人間だった保障だってないんです」


 「戻った記憶が本当にあったことなのかもわかりません」


 ハカセとジョシュは何も答えられずにいた


 重い空気を察してかネズミは続けた


 「そんな深刻に考えないでください!なにはともあれ命が助かったことに変わりありません」


 「お礼といってはなんですが、私にできることはありますでしょうか?」


 「とりあえず、充電させるニャ。ワケのわからないことだらけでカラッケツニャ」


 「それと、名前決めるニャ。ネズミなんて安易でダダ被りニャ」


 「そっかー、それならなんとかマウスとかいいんじゃない?電気マウスとか」


 「それは絶妙にかぶってるからやめるニャ」


 「ワガハイが唯一無二の名前を考えてあげるニャ」


 「名付けてチュータロウ!」


 「それこそ安易なんじゃ・・・」


 「チュータロウ!」


 

 二人の旅は今始まったばかり・・・

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