ミックスアイランド

@hmixisland

第1話 ハカセとジョシュ

 「おーい」


 なんだか声が聞こえる。


 「おーい、聞こえてないのか? おい! おいってば!」


 声が段々と大きく荒々しくなったところで目が覚めた。


 目を開けると辺り一面が木々に囲まれていて、どうやら森の中のようだった。


 僕は森の中で倒れて寝ていたらしい。


 「起きたのならこっちを見ろ」


 周りを見渡しても誰もいない。


 「そっちじゃない! 上だ」


 そう言って目線を上に移すと、木の上に猫がいた。正確には猫らしき生き物。

 らしき、と言ったのは普通の猫とは大きく異なる見た目だった。

 

 頭からしっぽにかけて、電子部品のような鎧で覆われていて、そもそも言葉を話す猫は僕の知っている猫じゃない。


 「お前はどうしてこんなとこにいるニャ」


 語尾は猫なんだ、そんなくだらないことを考えつつ、猫らしきものの質問に答えようにも言葉が出てこなかった。記憶がなかったからだ。


 「ニャンだ、お前も分からないのか」


 落胆したように話す猫。たしか、お前もと言った。ということはコイツも記憶がないらしい。


 「君も記憶がないの?」


 質問に質問で返すのは悪いことだと教わった。教わった?誰に?


 「質問に質問で返すのは悪いことだと教わらニャかったか?」


 案の定怒られた。


 「まあいいニャ、ワガハイの名前はジョシュ。お前の名前は何だ?」


 「ワガハイ? ジョシュ?」


 「猫は自分のことをワガハイと呼ぶ、この世界では当たり前のことだろう。そんなことよりお前の名前は?」


 僕の名前、僕の名前は・・・思い出せない。


 「周りの人間になんと呼ばれていた」


 ジョシュからの問いかけに、かすかな記憶が蘇る。自分に少しかがんで呼びかける人たち。


 「ハカセ、そう呼ばれていた気がする――」


 「ハカセか、なかなかいい名前だな。どことなく響きが偉そうなのが癪にさわるが、このさいよしとしよう」


 ジョシュは驚くほど俊敏に慣れた動作で地面に着地すると僕に質問をした。


 「君はこれから何をしたい?」


 唐突な質問に考え込んでしまう。今さっき起きたばかり、辺りは知らない森、自分の記憶を失っているのに――


 「したいことはないのか?」


 今すべきことは決まっている。


 「僕が何者なのかが知りたい」


 僕はジョシュを見る。


 「ワガハイと同じだな」


 ジョシュも僕を見た。


 人の言葉を話す猫なんてよくわからないし、ここがどこかもわからない、自分が何者かなんてさっぱりだけど、そのときジョシュは嬉しそうに笑ったんだ。


 「でも、その前にご飯を探そうよ。お腹が減って死にそうなんだ」


 急に気が抜けて空腹で倒れこんだ僕を、アホだとかマヌケだとか言いたいことを言いながらジョシュは大笑いしていた。

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