エピローグ

エピローグ



俺が濃密な日々をマカオで送った翌年、リリリボアで、スタン・チャオの没後5周年式典が盛大に行われた。た。



壇上で挨拶しているのは若い女性、スーザン・チャオだ。

「今年もスタン・チャオの偉業をたたえるこの式典を開催できることを嬉しく思います。


偉大なるスタン・チャオ、そして母の意思を受けつぎ、このリリボアを発展させていくことを誓いますので、皆さまのご助力をよろしくお願いします。」


拍手が鳴り響いた。

スーザンの本気度を感じ取ったのだろう。


その後、中国政府やマカオ行政府のお偉いさんたちや来賓が祝辞を述べる。


それに混じり俺もスピーチした。


「私はリリボアのカジノを愛する一プレイヤーです。今回、新たなリーダーからお誘いをいただき、ここに立つことを誇りに思います。」


俺は壇上から会場を見渡し、続ける。


「カジノにはプレイヤーが必要です。

特に国際都市、マカオであれば、海外からのプレイヤーにとっても魅力的でもあるべきだと思います。


今後もリリボアが、、プレイヤーの気持ちに寄り添ったた、すばらしいカジノであり続けると信じております。」」


俺はそこで一呼吸おいて付け加える。


「最後に付け加えます。偉大なるスタン・チャオだけでなく、不慮の事故でお亡くなりになった、素晴らしい功績をあげたマダム。ノワールことキャリー・チャオとその息子、トーマス・チャオもこの日を祝福していらっしゃるでしょう。本日はおめでとうございます。」



俺は礼をして壇を去る。




あの後、第一夫人の一族内で何が起こったのか、正確なことは俺も知らない。


知っていることは、マダム。ノワールが引退し、スーザンを後継者にすると宣言したこと、そしてマダム・ノワールとトーマスの乗った自動車が事故で海に落ち、二人とも死亡したことくらいだ。


その後半年の喪を経て、スーザンと傍系の男性の結婚が発表された。第一夫人一族の結束を深めるためとのことだ。


スーザンから結婚式の招待の案内が来たが、行かずに花だけ贈った。

その後、カジノのリニューアルのアドバイザーに就任してほしい、という依頼がきた。


その頃マカオに来ていた俺は、俺の立場を明らかにした上で承認をとり、リリボアのカジノのリニューアルに協力した。

報酬は数万ドルのはした金だ。以前見せられたチップと比べたらゴミのようなものだ。

別にコンサル料金などはどうでもいいのだが、税務上一応受領することにした。応

もちろん契約は俺のシンガポールにある会社だ。



そして5周年イベントについて、招待状に俺の名前を入れることを了承した。


これをジャンケット経由でハイローラーに送ることにより、リリボアが俺と和解したことや新体制がうまく動いていることを示した。



結果として、リリボアにハイローラーが戻ってきた。

ここから先はスーザン夫婦の才覚になる。




俺とヴェルのことについても語っておこう。


ヴェルは俺の帰国後、コンファレンスに合わせてシンガポールにやってきた。


会議のあと一週間はずっと一緒だった。

まあシンガポールでの娯楽など少ない。



ちょっと観光し、食べ歩きくらいだ。

俺は運転手になってヴェルの行きたいところに行った・


ちなみに、シンガポールでは車の規制が厳しい。

どんな規制かというと、環境保護や渋滞緩和のため、車を持つ場合、税金を高く取るということだ。


まあ俺にとってはどうでもいい金額だが、駐在員でシンガポールに来る連中は車を買えないことも多い。

まあ、価格が3倍以上とかになるのだから当然だろう。


それはさておき、俺た昼夜を問わず一緒にいた。

最初はホテルに居たが、俺のコンドミニアムを見たいというので見せたらそのまま転がりこまれた。


まあ掃除はハウスキーパーだし、食事もデリバリーが主なので特に問題はない。

俺が仕事、というか投資の確認をしているようなときはヴェルも部下とビデオ会議や電話したりしている。

ただし恰好が見せられるようなものではないので、電話か、あるいはサウンドオンリーのビデオ会議だ。


半裸で化粧もせずに電話で怒鳴っているヴェルの姿はなかなかシュールだ。


ヴェルがマカオに戻った2か月後、ヴェルが妊娠したことを報告された。

なかなか感慨深いかと思ったが、実際はまったく実感がなかった。


男なんでそんなものだろうし、とくに離れていればなおさらだ。


ただ、ヴェルが臨月に近づいたところで、俺はマカオに渡った。

ヴェルのホテルのインテリム。ヴァイス・プレジデント(臨時副社長)として、主要な決済を任されたのだ。


まあ。結局ヴェルは破水するまで働いていたので、俺のやることは基本的にカジノの拡大と、新カジノの建設に向けたコンセプト作りだ。


ただ、ここはリリボアのコンサルとの関係があり、利益相反の可能性をヴェルとスーザンの両方に示したうえで納得してもらった。


新しいホテルの許認可にはかなり時間がかかるのが通常だが、ヴェルなら何とかするだろう。




生まれたのは、男女の双子だった。



男の子にはスティーブン、女の子にはキャサリンと名をつけた。どちらも苗字はチャオだ。

俺は、二人が自分の子であることを認知する書類を作った。


日本にも出したので、この二人は正式に俺の子と認知した。

これで日本の相続も大丈夫だ。


ちなみに、子供が生まれたのはリリボアの式典一週間前だった。


ヴェルは残念ながら式典には出られなかった。

双子のため、大事をとって帝王切開したのでリハビリ中だったのだ。


自然分娩してたら行けたのに、と悔しがっていた。


まあ産後二週間で仕事に復帰したのはさすがだ。

ベビーシッターをおいておき、時々授乳もしている。


俺は、何もすることがない。

たまに顔を見に行くだけだ。


ヴェルと添い寝もしない。ヴェルは一日おきに子供たちの部屋で寝ている。一日おきなのは、毎晩だと仕事ができないからだ。


ちなみに、ヴェル公認でリタとも寝ている。

ヴェルが、ほかの女も必要なら手配する、と言ってくれたが、まあいいと断った。


もちろんリタとは避妊している。彼女もそれがいいようだ。

俺のチップだけでかなりの金額になったので、やめてもいいはずだが、どういうわけか、今もヴェルのホテルでルーレットを回している。



ヴェルの復帰とともに、俺の帰国の時期となった。


俺は俺で年間に183日以上シンガポールにいなければならない。

海外滞在は計算しながらやらないといけないのだ。

まあそれを口実に子供の世話から逃げているというのも本音ではあるが。



ヴェルと、子供たちと空港にやってきた。

カイエンではなく、子供たちとベビーシッター二人も乗れるSUVだ。


「また当分会えないわね。」ヴェルが寂しそうにいう。


「まあ、子供の顔を見に、また戻ってくるさ。」俺は言う。


「え、私の顔は見に来ないの?」今度は不服そうなヴェル。


「いや、君についは、顔だけじゃないしな。」俺が言うと、例によって

「…ばか。」とヴェルが小声でいい、真っ赤になった。


「まあ、会うだけなら今はビデオ通話もあるしな。」俺が言うと、


「あなたの部屋のスクリーン、大きすぎ。ビデオ会議やるなら、お化粧ちゃんとしないと、顔が拡大されるのよね…。」

ヴェルがぼやく。


「まあ、いいじゃないか。子供たちの顔も一緒に見られる場所でやってくれ。」俺は笑う。


「…そうね。あなたも少しは父親の自覚出てきたのかしら・」


「…そうかもな。まだよくわからないけどな。」それは本音だ。


だがこれだけは言える。ヴェルと子供たちは、俺の家族だ。最初の家族、なのかもしれないが、それはわからない。


結婚していないから離婚はないし、親子の血のつながりは切れない。

これからも、俺たちはこんな感じで過ごしていくのかもしれない。


「この子たちの将来はどうなるかしら?」ヴェルが言う。

「キャサリンは経営者、スティーブンはさすらいのギャンブラーじゃないかな。」俺が答える。

「ろくでもない血を引いた男の子の将来が不安ね。」ヴェルが笑う。

「きっと、いい金づるの女を見つけるんじゃないか?」俺も笑う。


まあ、実際は俺も金を持っているし、ヴェルは金づるではない。だがスティーブンの将来はスティーブンが決めることだ。


「そういえば、リリボアは大丈夫なの?」ヴェルがついでのように聞いた。


「セレモニーの時、結構たくさんのハイ・ローラーが来ていたし、サービスも向上させたから、多分大丈夫だろう。ちなみに、例のブタ張おじさんも来ていたぞ。」



「それは、しっかり貢献しれくれそうね。」ヴェルが笑う。


SQ(シンガポール航空)のフライトのファイナル。・コールになった。もう時間だ。


「じゃあ、またな。ヴェル。愛してるよ。子供たちをよろしく。」

「ええ、レイ、愛してるわ。あまり変な女にひっかからないでね。必要なら送るから。」


俺は曖昧に笑った。 結局、国を挟んでしまうと下半身まではコントロールしきれないだろう。


まあ、俺に新たな出会いがあるのかはわからないが、すでに新たな家族はできた。

これを一つの支えとして、前向きに生きていこう。



チャンギ(シンガポールの空港)に着くと、俺はショーファー(運転手)の運転する車にスーツケースを載せて乗り込んだ。


「一度家に戻る。そのあと出るから、待っていてくれ。」俺はショーファ―に頼んだ。



帰宅してスーツケースをアンパックすると、俺はタキシードに着替えた。


もう一度車に乗り込むと、マリナ・ベイのホテルへ向かう。

ここにはシンガポールで2つしかないカジノがある。


ここは俺のホームグラウンドだ。勝手はよく知っている。

店員もだいたい俺のことを知っている。


俺はカードを渡してチップを受け取り、ルーレットのテーブルに着く。

皆が賭けるのを見ながら、俺は待つ。


ディーラーが球を投げる。皆が緊張する。

俺は、ルーレットのこの瞬間だ大好きだ。


さて、今夜もショットガン・ゼロの腕を見せてやるとするか。

ほかのことすべて忘れ、俺はルーレットの球をじっと見続けていた。



====

ありがとうございました。これでショットガン・ゼロは完結です。

もともとは短編で考えたのですが、短編ではおさまりきらないので連載になっりました。



途中なかなか更新できない時期もありましたが、何とか完結できました。

応援してくださった皆さまのおかげです。

本当にありがとうございました。


最後のお願いです。


作品がより多くの人に見ていただきたいので、まだ★をつけてない方は、ぜひ記念に足跡を残すつもりで、★を入れてください(笑)。



本当に、ありがとうございました。





ヴェル「次はいつ来るのよ。」

レイ「うーん。忙しいからなあ。」

ヴェル「カジノも仕事もマカオでできるわよ。」

レイ(そうなんだけどなあ…)





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カジノギャンブラー ショットガン・ゼロの優雅な日々 愛田 猛 @takaida1

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