第21話 空港にて

SQ(シンガポール航空)のカウンターでチェックインし、荷物を預ける。


「ミスターハリタ」声が聞こえた。


視線を向けると、マダム・ノワールとその娘、スーザン・チャオがいた。

まあ、予想通りとも言える。


「ヴェル、ちょっとあっちで待っててくれ。」

俺はヴェルにいう。


ヴェルはちょっと不服そうな顔をしたが、黙って離れた。

たぶん、自分がいると突っ込んだ話ができないと踏んだのだろう。っさすがに賢い経ってマダム・ノワールは憔悴しきっていた。俺がチェックアウトしてからまだ二週間も立っていないが、その間にすっかり痩せて老けこんだ感じだ。


マダム。ノワールがいう。

「ミスターハリタ。お願いだから許してください。」


「何をだい?」俺は素知らぬ顔でいう。


わかっているくせに、という顔をマダム。ノワールはする。まあその通りなんだが。


「ハイ・ローラーたちがみんなチェックアウトしてしまったわ。それだけではない。今まで入っていた予約も全部キャンセル。ハイ・ローラーから見放されたら、マカオでのトップの地位は維持できないわ。それどころか経営だってどうなるかわかrない。お願い。許してください。」


二人は頭を下げた。


実は、劉に襲われたあと、ギャンブラーのためのコンシェルジュのような仕事をしているジャンケットのタンがマカオじゅうのジャンケット 仲間に伝えたのだ。

客がリリボアのカジノで大勝ちしたら、そのあとカジノが金を取り戻そうとマフィアを差し向けたと。


それを聞いたジャンケットたちは、自分たちのハイ・ローラーの客のリリボアの予約をすべてキャンセルさせたのだ。

今宿泊している連中も引き上げさせ、預けている資金も全部引き出している。


リリボアがやったことはは、完全にご法度だ。こんなカジノで遊ぶハイ・ローラーなど居ない。

今後、リリボアは中国人だけで商売するしかない。アジア、そして世界の大型ギャンブラーがリリボアには近づかなくなる。 リリボアの評判は地に落ちたのだ。


その状況は、タンがさっき報告してくれた。


俺は言う。

「カジノで勝った奴から金を取り戻そうとマフィアを送るようなカジノに誰が行くと思う? しかもジャンケットまで巻き込んだんだ。 ジャンケットが怒るのも当然だろう。」


二人は黙っている。


「で、俺にどうしろっていうんだ。ジャンケットのやることなんか俺もコントロールできないぞ。トーマスはそれもわかってなかった。それだけだろう?」


「トーマスは一族から追放するわ。」

マダム。ノワールは声を上ずらせながらいう。


「そのトーマスを止められなかったあんたも同罪じゃないのか? 一族の連中はどういってるんだよ?」


俺はこのババアを許すつもりはない。


「私と結婚してくれませんか?」突然地味な娘、スーザンが言ってきた。

なんだいったい。


「母を引退させて、私が一族を継ぎます。ハリタさん、一族の資産はあなたが自由にしていい。だからリリボアを救ってください。」



さすがにこの言い方には驚いた。

ヴェルに言ってた冗談がこんな形になるとは。


「残念ながらありえないな。あんたと結婚なんかしたら、トーマスが義兄だろ。無理だな。」

「じゃあ、トーマスが居なければ?}

スーザンが真剣な顔をする。何か覚悟しているようだ。


まあ、俺の答えは決まっている。

「それにしてもマダムだっているし、俺はあくまでギャンブラーだ。傾いたホテルの立て直しに興味はない。」


「でも!」スーザンは真剣な顔だ。


「あなたと和解しない限り、一族の未来はない。あなたが一員になってくれるなら、それだけで和解したことが明らかになるんです。あなたは立て直しに協力しなくても、ギャンブルをやっていてもいい!」


「すごい提案だな。穀潰しを飼うんだぜ? まあ、ノーなんだが。」


「じゃあ、どうすれば!」スーザンが叫ぶ。


おれはちょっと考えて答える。


「俺の考えを正直に言う。マダム。ノワールとトーマスの排除。これが絶対条件だ。あとは一年くらい様子を見て、完全にそれがなされたと判断できたら、俺がリリボアでプレーする。そんなところかな。「


「やります。」スーザンは決意を持って言い切った。


「もちろん、リリボアそのものに魅力がなければダメだ。それは、新しい経営者の手腕次第だな。つまらないカジノで遊ぶ気はない。」


スーザンは黙った。何ができるか考えているのだろう。

おれは続ける。


「とは言え、リリボアがつぶれたり、外資の手に渡るのは本意ではない。マカオにはマカオの良さがある。なんでもラスベガス風にする必要はないし、ヤンキーにアジアを喰いあらされたくはないからな。」


スーザンの顔が明るくなる。


「ありがとうございます。絶対に実現します。あと、こちらをお納めください。」


スーザンはそう言って小さな箱を渡してきた。

開けてみると、リリボアのゴールドブラックチップが20枚入っていた。2億パタカ、40億円分だ。


「これは預けておこう。一年後、リリボアが立ち直って、俺が訪問したときに使わせてもらうよ。」


俺は答える。


スーザンが俺に聞いてくる。

「もしかして、ヴェルと結婚するんですか?だから私とはしない?

資産ならまだまだうちのほうがありますよ。」


なかなかいいところと突いてきたな。


「さあな。今、俺から君に言えるのは、リリボアを素晴らしいカジノにしてほしい、それだけだ」


「わかりました。ありがとうございます。約束ですよ。では。失礼します。」

二人は頭を下げて、去っていった。




ヴェルが戻ってくる。

「あの二人、何って言ってきたの?」


俺は答えた。

「スーザンと結婚してくれってさ。ヴェルより資産あるからって。」


ヴェルの顔がゆがむ。

「それで…」


「もちろん断ったさ。あんな女を抱く気はしないからな。」


「まさか、そんなこと言ったの?」


「君は俺をなんだと思っているんだ?さすがにそんなことは言わないさ。」

俺は笑った。


「ねえ、返事を聞かせて。」

ヴェルが真剣な顔をして言う。


俺は、真剣な顔で答える。考えて決めた結論だ。


「ヴェル。俺はギャンブラーであって、実業家ではない。投資でもギャンブルでも金を増やすのは得意だが、ビジネスでは特に高い能力があるとは思えない。


だから、君と結婚はしないよ。」


ヴェルの顔にちょっと失望が見える。

俺は続ける。


「だけど、自分の遺伝子を残したくなったのも、また事実さ。そして、どうせなら将来有望なマカオの若手女性実業家との間の子供がいいな。」


ヴェルの顔がぱっと明るくなる。

俺は言う。


「たしか、来月セントサでゲーミングコンファレンスがあったはずだ。見に来ないか?」

ゲーミングコンファレンス。つまり、カジノに関する展示会と会議だ。


業界関係者が集まる。ヴェルがシンガポールに来る口実にふさわしい。


ちなみに、セントサというのは、シンガポールにある島だ。再開発されて、カジノもある。

橋を渡るのにも金がかかるようになってしまった。


シンガポールには、2か所のカジノがあり、その一つでもある。



「行くわ。そのあと1週間オフにする。」



俺は笑った。

「ああ、期待しているよ。」


「大好き!」

ヴェルは俺に抱き着いてきた。

俺も、愛しいヴェルを抱きしめた。


今回のマカオ訪問は、まったく予想外の旅になった。

人生が変わる出会いに巡り会えた。こんな素晴らしいことはない。



(…俺も年貢の納め時かもな。)

俺は思った。


シンガポール便のファイナル・コールがされた。

もう行かないと。


「レイ、愛してるわ。またね。」ヴェルが最後のキスをしてくる。



俺は彼女を受け止めて長いキスをする。


そして踵を返し、飛行機に行く通路にに向かう。


SQのCAたちが、羨ましそうに見ている。

俺は振り向いた。

ヴェルが手を振っている。俺は前を向き、手をひらひらさせながら通路の奥に消えた。


「再見」この言葉が俺たち二人にふさわしい。北京語ならツァイチェン、広東語ならジョイギンだ。

ヴェル、また会おう。今度はシンガポールで。


飛行機は一路シンガポールへと向かう。

ファーストクラスの隣の席は空席だ。そこに、ヴェルが座って微笑んでいるような気がした。


=====

お読みいただき、ありがとうございました。

大体の決着が付きました。

これでマカオ滞在も終了です。


次回、エピローグです。





「面白い」

「続きが気になる」

「マカオ行きたい」

「カジノ当てたい」

「金がない」

「反応ないと作者がかわいそうだから」

「愛田さん、抱いて!」(女性のみ。人妻、合法ロり可(笑))

など少しでも感じられたかたは、★、コメント、ハート、レビューなどください。

(この項目、復活しました。)


読み終わってから★をつけようと思っているあなた。今ですよ!今、星を入れましょう!








スーザン「レイ、結婚して。」

ヴェル「レイ、結婚して・

マダム・ノワール「レイ、私と…」

レイ「おいやめろ。」」


マダム・ノワール「年齢とバストの小さい順番でいいじゃない。」

ヴェル「おばさんの場合、体重順とかウェストの順でしょ!ドラム缶みたいな人がバストの話するのは反則よ!」

スーザン「無い胸は垂れない(ぼそっ)」

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