第43話:クリエイトウォーター

 拠点レベルを上げるため、再びみんなで木材を運び始めると、すぐにクレアがアイテムボックスの前でしゃがみ込んでしまう。


「トオル、もう入らないみたいだよ?」


 どうやらアイテムボックスがいっぱいになったらしい。


 スキルのウィンドウ画面で確認してみても、十分に素材が集まったみたいで、拠点レベルを上げられるようになっていた。


「もう大丈夫みたいだな。じゃあ、早速レベルを上げてみよう」


 意気揚々と【箱庭】の画面を操作するものの、すぐに変化が起こるわけではない。


 完成まで時間がかかるみたいで、一時間のカウントが動き出している。


 これまでの調理システムや錬金システムとは違い、作業工程は省略されるらしい。


 木材が勝手に動き出して建築されることはなく、アイテムボックスの中にあった木材が大量に消費されただけだった。


「拠点が完成するまで時間がかかるみたいだから、それまでは別の作業でもするか。クレアとアーリィで、花や野菜に水をやってくれ」

「はぁ~い」

「わかったわ。トオルはどうするの?」

「俺はウサ太と一緒に川に行って、水を汲んでくるよ。そろそろ備蓄していた分がなくなりそうなんだ」


 異世界に訪れたばかりの時に、何度も川まで往復していたため、これまで飲み水を確保できていた。


 しかし、ウサ太だけではなく、アーリィやクレアの分まで必要になったので、急激に水の消費量が増えている。


 だから、早めに水を汲みに行こうと思っていたんだが……。


 なぜかアーリィとクレアは顔を合わせて、キョトンッとしていた。


「飲み水なら、クレアが魔法で作れるわよ」

「うん。だって、魔法使いだもん。もしかして、トオルは水魔法を見たことがないの?」


 さも当然のように言われてしまうが、異世界転移してきた俺が魔法のことを知っているはずがなかった。


 さて、これはどうやって誤魔化すべきか……。


「まあ、魔法適性の高い人が近くにいないと、見る機会はないわよね」

「アーリィも魔法は使えないもんね」

「ええ。私もクレアと会うまでは、川で水を汲んでたわ」


 セーフ。何とか常識の範囲に収まったみたいだ。


 自分のスキルを理解することも大切だが、今後はクレアの魔法も見て、もう少し知識を養っていこうと思う。


「そういえば、クレアは魔法を使っちゃいけないと言われていなかったか?」

「攻撃魔法はダメ、って言われてるの。でも、飲み水を作るくらいの簡単な魔法なら大丈夫だよ」

「なるほどな。じゃあ、早速で悪いんだが、試しにこの桶に水を入れてもらってもいいか?」

「うんっ。大丈夫だよ」


 魔法使い用の杖を握り締めたクレアは、眉間にシワを寄せる。


 そして、じっくりと手元を見つめた後、桶に向かって杖をかざした。


「クリエイトウォーター」


 綺麗な水が杖から生成されて、ジャーッと流れると、どんどんと桶に溜まっていく。


「おおーっ、便利な魔法だな」

「これくらい魔法だったら、一日のうちに何回も使えるよ」

「そうなのか!? クレアはすごいんだな。ちなみに、もう一つの桶には温かい湯を出してくれると嬉しいんだが……」

「ふふんっ、それなら任せて。私は火魔法の方が得意だから、簡単な温度調整くらいならできると思うよ」


 再び眉間にシワを寄せたクレアは、先ほどよりも険しい顔をしながら、手元に集中していた。


 まだ魔法使いの見習いということもあって、魔法を発動させるまで時間がかかるみたいだ。


 それでも、ここで生活を送る程度であれば、とても有用な力だと思う。


 水を汲むという重労働から解放されるのもありがたいし、在庫を管理する必要もないのだから。


 魔法を唱えるクレアが集中する中、彼女の邪魔に鳴らないように、アーリィがゆっくりと近づいてくる。


「クレアは、魔法の才能があるのよ。いろいろな属性を扱えるから、将来的には優秀な魔法使いになれる可能性があるわ」

「それは羨ましいな」

「まあ、あくまで可能性の話なんだけどね」


 アーリィが不穏な言葉を口にすると同時に、クレアがより一層険しい顔を浮かべる。


「むむぅ……、クリエイトウォーター!」


 モワモワと湯気の出る湯がジャーッと流れ、熱湯が桶の中に溜まる。


 クレアに出してもらった水と湯を調整すれば、人肌くらいの湯が作れそうだった。


 しかし、魔法を使ってくれたクレアは――、


「はあはあ。トオル……もう、ちゅかれたよ……。お湯を出すの、思ったよりちんどい……」


 随分と無理をさせてしまったみたいで、地面に手と膝をつくほどバテていた。

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モフモフ好きのオッサン、異世界の山で魔物と暮らし始める あろえ @aroenovel

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