第42話:ウサ太の力Ⅱ

「あれは本当に別格だったわね。突然、落石みたいな音が聞こえて、ビックリしたもの。土属性の魔法でも使っていたのかしら」


 アーリィの何気ない言葉を聞いて、俺は僅かに違和感を覚えた。


 土属性……? 確か、ウサ太が食べているハーデン草も土属性だったな……。


 もしかしたら、ウサ太は特定の植物を食べることで、不思議な力を得る特性でもあるのかもしれない。


 今後もウサ太に護衛を頼む機会はあるはずだから、今のうちに能力の詳細を把握しておいた方がいいだろう。


「ウサ太、ちょっとこっちに来てくれ」

「きゅーっ」


 思い立ったが吉日、俺はウサ太に声をかけて、近くまで呼び寄せた。


 そして、周囲の中で一番大きな木を指で差す。


「あの木を突進攻撃でなぎ倒すことはできるか?」

「きゅーっ!」


 特に戸惑う様子を見せることもなく、ウサ太は勢いよく木に向かって、突進する。


 どごーんっ


 あまりにも大きな音が鳴り響き、周囲にいた鳥たちがバサバサと飛び立つと同時に、メリメリと音を立てて木が倒れていった。


「きゅーっ!」

「……」

「……」


 この結果を受けて、俺とアーリィは大きな口を開けて、ポカンッとしてしまう。


 なお、ウサ太は木を倒せたことが嬉しかったみたいで、駆け回っていた。


 そりゃウルフもやられるわ……と思っていると、小さな木材を集めていたクレアが近づいてくる。


「ねえ、トオル。トオルが魔物を倒した時も、ウサちゃんと同じ音が鳴ってなかった?」


 クレアの指摘を受けて、俺は忘れていた感覚を思い出す。


 確かに、俺がウルフを吹き飛ばした時、異様な力が働いていた。


 不思議と手に衝撃を感じることもなく、大きな音が鳴り響いた気がする。


 まさかとは思うが、テイムした魔物と同じ力が使えるようになるなんてことは……。


 めちゃくちゃありそうな話だな。


 すでにテイムの効果で魔物の知識を共有しているんだから、スキルも同様の扱いを受けていても、おかしくはない。


「ちょっと試してみるか」


 もしものことがあると心配なので、アーリィとクレアを巻き込まないように、俺もウサ太の方に向かった。


 立派に育った木の前に立った後、握りこぶしを作り、呼吸を整える。


 とにかく手に集中しよう。


 魔力で手を覆っているようなイメージだ。


 ウサ太ができるんだから、俺にもできる。きっとそうだ。


 テイムの力を信じて、いざ……!


 絶対に壊せるという強い気持ちを持ち、立派な木の幹に向けて、拳を振り下ろす。


「ふんっ!」


 どごーんっ


 どこか聞き慣れた音が鳴ると同時に、先ほどのリプレイを見ているかのように、鳥たちがバサバサと飛び立ち、木がメリメリと音を立てて倒れていった。


「あっ、できたわ」


 まったく痛くも痒くもない。


 ウルフを倒した時と同じような感覚に陥っていた。


 ただ、こんなことを何の前触れもなくやってしまった影響で、アーリィとクレアがとても心配そうな表情を浮かべて、見つめてくる。


「トオルは、人間でいいのよね?」

「ああ。そこは誤解しないでくれ」

「ほんとにほんと? もしトオルが魔物さんであっても、私は嫌ったり怖がったりしないよ?」

「大丈夫だ。俺はちゃんとした人間だ。今、魔物っぽいことをしたかもしれないが、俺がそんな姿になったことはないだろう?」


 どうやら二人は納得したみたいで、ホッと安堵のため息を吐いている。


「……」


 一方、魔物であるウサ太もドン引きして、俺の様子をうかがっていた。


「ウサ太は引くなよ。これはたぶん、お前の力だぞ」


 実際にこのスキルを使ってみてわかったことだが、手に意識を向けると、そこが白い膜のようなもので覆われている。


 ウサ太のおでこも……白い毛でわかりにくいが、同じようなものが見えていた。


 同じスキルだと伝えるため、ウサ太のおでこに拳を当ててみる。


 ごんっ ごんっ


「ほらな。仲間だろう?」

「きゅーっ! きゅーっ!」


 さっきまでドン引きしていたのは、いったい誰だったのやら。


 急に機嫌を良くしたウサ太は、何度もごんっごんっとぶつけて、喜びを表していた。


 この森で何日も過ごしているが、今までウサ太以外に一角獣は見ていない。


 自分と同じことができる仲間ができて、嬉しかったんだろう。


 まあ……それとは同時に、別の問題も生まれてしまったみたいだが。


 アーリィとクレアにテイムのことを伝えていないため、俺とウサ太が力を得たのは、軍隊蜂の蜂蜜に秘密があると誤解させてしまったようだ。


 自分たちも特別な力を得ていると思ったみたいで、倒木を拳で壊そうと、二人は懸命にパンチを繰り広げていた。


「えいっ、えいっ。おかしいわね、できないわ。普通に痛いもの」

「違うよ。もっとこうだよ? えいっ、えいっ。……痛い」


 そんな光景を見ながら、どうやって説明しようかな……と、俺は悩んでしまうのであった。

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