第41話:ウサ太の力Ⅰ

 朝ごはんを食べ終えた俺たちは、拠点レベルを上げるため、アイテムボックスに木材を運んでいた。


 大きなものは俺が運び、小さいものはクレアに任せて、護衛役のウサ太と共に集めている。


 朝ごはんを食べてスッカリ機嫌を良くしたアーリィには、倒木のカットをお願いしていた。


「ふっふ~ん♪」


 鼻歌を口ずさむくらいには、ご機嫌である。


 まともな食事は久しぶりだったんだろうか……と、少し気になってしまうが、俺が口を挟む問題じゃない。


 まだ自分の生活も安定していないので、今は目の前の問題を一つずつこなしていこうと思った。


「余裕がありそうなら、アーリィも拠点に木材を運んでくれ」

「わかったわ。でも、こんなにも木材を集めて、何に使うの?」

「拠点を増築するために使いたいんだ。さすがに今のままだと、狭いだろう?」

「お世話になる身としては、ありがたいわ。でも、こんなに木材は小さくカットしたら、建築の素材に使えなくなるわよ」

「そのあたりは、スキルに任せているから問題ない。木材の形よりも、質と量が重要みたいだな」


 これまでいろいろと作成してきたものの、サイズが合わなくてエラーが出たことは、一度もなかった。


 木材が腐食していたり、濡れたままになっていたりしない限り、拠点の増築は可能だと考えている。


 ただ、そんなことを知らないアーリィは、呆れるようにため息をこぼしていた。


「まるで他人事ね。まあ、トオルのスキルは変わってるから、わからなくもないわ」

「やっぱりそうなのか?」

「そりゃあね。普通は剣や魔法の鍛錬をして、スキルの熟練度を高めるじゃない? 剣士でも魔法使いでも、体内の魔力を制御する必要があるんだけど、トオルは違うわよね。どちらかといえば、魔道具を扱っているような印象だったわ」


 調理システムをジッと観察していただけあって、アーリィの指摘はなかなか鋭いものだった。


 ただ、俺もまだスキルを使いこなせているわけではないし、詳しい仕様もよくわかっていない。


 特にテイムのことが謎なんだよな……と思っていると、アーリィが苦笑いを浮かべていた。


「結局、トオルはスキルのことも含めて、変わったことが多いわね。特に、あのホーンラビットが異質な存在のような気がするわ」


 アーリィの視線の先には、デザート代わりにいつものハーデン草を食べるウサ太の姿が見える。


「きゅー?」


 なお、本人は視線を集めた理由がわからず、首を傾げてモグモグしていた。


「ウサ太のどこが変なんだ? まあ、人の言葉を理解しているのは、十分に変だと思うが」

「もちろん、それもあるわ。でも、その……あまり良い話ではないけど、ホーンラビットは弱い魔物でしょ? まだ角も生えきっていないのに、成体のウルフに勝てるのは、明らかに変なことなのよ」


 俺もウサ太が弱い魔物だと思い込んでいただけに、アーリィの言いたいことはよくわかる。


 しかし、強烈な突進攻撃でウルフを倒したのは、紛れもない事実だった。


「俺も疑問に思っていたんだが、やっぱりウサ太は普通じゃなかったのか」

「……トオルが育てたんじゃないの?」

「ウサ太と出会ったのは、まだ最近の話なんだ。畑に実ったニンジンで餌付けしただけで、特別なことをした覚えはない」

「じゃあ、生育環境によって変化したのかもしれないわね。きっと軍隊蜂と共に過ごしたり、彼らの蜂蜜を食べたりすることで、強い力を得たのよ」


 アーリィの意見が間違っているとは思わないが、軍隊蜂がウサ太に戦闘の仕方を教えたとは、考えにくい。


 それぞれ戦闘スタイルが違うし、ウサ太が鍛練している様子は見られないから、せいぜい遊んでもらったことがある程度だと推測できた。


 どちらかといえば、軍隊蜂の蜂蜜に特別な成分が入っていると考えた方が納得がいく。


 しかし、トレントの爺さんの知識から軍隊蜂の蜂蜜の情報を引っ張ってきても、それらしき効果はなさそうだった。


「現状では、確証を得るだけの情報が足りないな。まあ、ウサ太の突進攻撃は普通じゃないと知れただけでも、大きな成果だと思おう」

「あれは本当に別格だったわね。突然、落石みたいな音が聞こえて、ビックリしたもの。土属性の魔法でも使っていたのかしら」


 アーリィの何気ない言葉を聞いて、俺は僅かに違和感を覚えた。


 土属性……? 確か、ウサ太が食べているハーデン草も土属性だったな……。

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