第10話 エピローグ

 出版社から届いたばかりの本を、夕夏の写真の前に置く。タイトルは「成長する物語」。ほとんど俺と夕夏、いや、夕夏のお母さんとの実話をもとに描いた物語だ。あの日の青空と風船の点描をイメージして装丁を作ってもらった。

 マキは俺の隣でその本にそっと笑顔で触れ、夕夏の写真に手を合わせていた。

「カケル、水筒にコーヒーを入れておいたから。みんな飲むでしょ?」

 夕夏のお母さんが、両手に持ったふたつの大きな水筒を、自分の顔の横に持ち上げて言った。

「ありがとう。頂いていくよ」

 後ろに立っていたタカシと、タカシの彼女も「ありがとうございます」と頭を下げた。

 俺とマキは、マキが大学を卒業してすぐに結婚した。そして、これからその時以来三年ぶりに長崎に帰る。タカシたちは東京からここまで新幹線で来ていて、昨日はこの家に泊った。タカシのおじさんたちに俺が帰るのは伝えているが、タカシが帰るのを、ましてや彼女を連れて帰るなんてひと言も知らせていない。タカシは高校を卒業してからもう七年も実家に帰っていなくて、たまにおばさんに電話するとその愚痴を聞かされる。そのおばさんがどういう反応をするか楽しみだ。

「運転、気を付けてね。疲れたらしっかり休むのよ? マキちゃん、しっかり無理しないように見張っといてね」

「大丈夫だって、母さん」

 俺がマキと目を合わせて呆れるように笑うと、写真の中で夕夏も笑っていた。


【了】

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風の船は物語を呼ぶ 西野ゆう @ukizm

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