第17話 別れ、そして旅立ち

魔王城地下ライブで青島たち4人の決意が固まった翌日、私はマオーPの勧めで彼らと会って話をした。


「お久しぶりっ! そっちは大丈夫だった?」


すっかり女の子っぽい感じになっていたことに4人とも驚いていたが、特に茶化すこともなかった。


「うーん、実は、すぐに魔王を討伐して来いと言われて追い出されたんだよね」

「そうそう、最低限の装備だけ持たされてポイッとね。酷いでしょ」


「まあ、そうだね。まあ、僕の時みたいに無一文じゃないだけマシかもしれないけど」


「あー、そういやそうだったな。あんときは力になれなくて悪かったな」


「いやいや、みんなのせいじゃないし。私もおかげでマオーPに会えたから、逆に良かったよ」


私の言葉に4人は安堵の表情を浮かべる。

何となくだけど、彼らも私が追放されたことに関しては気にしていてくれたようだった。


「それで……俺たちもマオーPに相談して……、冒険者になることに決めたんだ」


「えっ、ホントに?! すごーい!」


躊躇いがちだったが、彼らはこれから冒険者を目指すことを教えてくれた。

私は少し前までは男の子だったわけで、そういったものに憧れのようなものを持っていたので、彼らの進む道を少し羨ましいと思った。

でも、私はライブをしながらいろんな国を回っていくと決めたので、今はもう、実際に冒険者になりたいかというと、そんなことは無かった。


私のライブによって起きる奇跡はマオー王国の問題を解決し、人々に笑顔を取り戻させた。

まだ見ぬ他の国にも、同じように私を必要としている人がいるはずだと信じていた。


「俺たちは……S級冒険者を目指す。そして、ルーナと同じように人々の笑顔のために頑張るから!」


「少し寄り道になっちゃうから、遅くなるかもしれないけど、絶対に追いつくから期待して待っていてよね!」


「ふふっ、分かった。でも、私もそんなゆっくりしていられないから、頑張って追い付いてきてね」


「えぇ、ルーナったら意地悪いこと言わないでよぉ」


「満月くん――ルーナちゃんって、もうすっかり女の子っぽい感じになっちゃったね」


白崎さんが私を見ながら、複雑そうな表情で漏らした。

たしかに、4人の中でも白崎さんは小学校からの付き合いだったし、突然女の子になって戸惑いもあるのかもと思った。

もっとも、付き合いがあると言っても、そこまで親しかったわけではないのだけれども。


「そうだね、最初はマオーPに言われてステージの上だけでもって話だったんだけど……。私は器用じゃないし、見た目はどう見ても、そのまんま女の子だからね」


そう言うと、さらに複雑そうな表情になって、何やらつぶやいていたが、うまく聞き取れなかった。


「さて、と。そろそろ馬車の来る時間だから準備しないとね」


「もう……行くのか?」


「うん、向こうでも、私のことを待っていてくれる人がいるはずだからね!」


私は赤倉の問いに、なるべく暗くならないよう努めて明るい口調で言った。


「そっか、寂しくなるわね」


「ううん、ここで一旦お別れだけど、またすぐ会えると思うから。そんな寂しく思う必要はないよ!」


寂しそうに言う黒瀬にも、励ますように言う。


「みつ――ルーナ……。相変わらず優しいんだね」


そんな私を見つめながら、白崎が呟いた。


「さっ、みんなもS級冒険者を目指すんでしょ。ゆっくりしている暇はないからね!」


「そうだな! お前も頑張れよ!」


「みんなもね!」


名残惜しく感じるが、時間は待ってはくれない。

話を切り上げようとした私に、青島がエールを送ってくれた。

それに応えつつ、4人と固い握手を交わして、私は馬車へと乗り込んだ。


私と彼らは地平線で姿が見えなくなるまで、手を振っていた。


「どうだ、別れは済んだか?」


「うん、別れって言っても、どうせすぐに会えるだろうしね」


「まあな。あやつらもワシの特訓のお陰でかなり実力がついておる。すぐにS級になって、お前の後を追ってくるだろうな」


「そうだね!」


勇者召喚によって、この世界に無理やり連れてこられた私たち。

その中で、私はすぐに彼らと離れ離れにされてしまったんだけど、やっと再会することができた。

それもつかの間、私たちはこうして再び別々の道を歩き出した。


「感傷に浸っている暇はないぞ。ワシの情報では、これから向かうエルリッヒ共和国もだいぶ大変なことになっているらしいからの。かといって、あの国がワシらをすんなり受け入れてくれるかどうかも分からんのがな」


「敵対してるんですか?」


「いや、あの国はエルフの小さい村が集まって一つの国になったところなんだが、エルフ自体が元々閉鎖的だからな。もちろん交易はしているのだが、人の往来はほとんどない国なのだ」


「それで……大変なことと言うのは?」


「それが、あそこが閉鎖的な理由でもあるのだが、遠くに巨大な木が見えるだろう? あれがエルリッヒ共和国の首都エルリアの中心に生えている世界樹だ」


馬車の窓を覗き込むと、遥か遠くの方に一本の巨大な木が生えているのが見えた。


「なんでも、世界樹にプラントワームクィーンが棲みついてしまったらしくてな。それを何とかしてくれということだ」


「それって、青島くんたちの方がいいんじゃないの?」


「いや、倒せば終わりと言うわけではないと思っておる。本来なら棲みつくことがないものだからな。ワシらは、その原因をライブをしながら探っていくのだ」


私は言いようのない不安な気持ちを抱いたが、そんな私の心とは関係なく、馬車はゆっくりと、しかし確実に世界樹へと向かっていった。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪


ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。

面白かったと少しでも思われましたら、★とできれば激励のレビューコメントを頂けますと幸いです。

こちらの作品はドラノベ中編に出す予定ですので、いったんこちらで更新を停止させていただきます。

また、締め切り後に再開予定です。

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【第一章完結】ルーナ・ワールドツアー~勇者召喚されたけど、ハズレ職「踊り子」により王国から追放されたので、魔王プロデュースでデビューしたら聖女と呼ばれるようになっていて、追放した王国が崩壊しました~ ケロ王 @naonaox1126

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